初めてのお客様4〜好きなものをを好きと言えないこんな世の中じゃ〜
フローレンスの母は、娘によく似た風貌をしていた。黒い長髪、メガネ、黒のワンピース。いかにも真面目そうな母親だ。
彼女はぺこりと頭を下げると、その背後でフローレンスが声を荒げた。
「ちょっと、やめてよお母さん」
「この子から話は聞きました。ごめんなさいね、リリア様。この子ったら、こんな馬鹿みたいな小説に影響されちゃって……下着なんて今あるので十分でしょ」
そう言って、フローレンスの母は本を取り出し、乱暴に机の上に置いた。
フローレンスの愛読書、『サキュバスでもガチ恋しちゃっていいですか?!』だ。
「でも……」
「こら!この子には帰ったらしっかり言い聞かせますので……今回は無かったことにして頂けますか?」
その言葉を受け、フローレンスは泣き出しそうな表情を浮かべた。
きっと、勇気を振り絞ってここに来てくれたんだろう。
その勇気を無かったことにしたくない。私はフローレンスの瞳をじっと見つめた。
「……フローレンスさん。本当にそれでいいんですの?」
「リリア様、私……」
「ほら、帰るわよ!それでは、失礼します」
フローレンスが何か言い掛けたが、母親は強引に彼女の手を引っ張って連れ出してしまった。
「客、逃しちまったな」
「いいえ、逃しませんわ」
元気出せよ、とクロウリーは慰めの言葉をかけてきたが、まだ諦めてはいない。むしろ、こうなってしまった以上放っておけない。
ここからが正念場だ。
「とりあえず、これを読み込みます」
「一回読んでつまらなかったんだろ?」
「はい。正直、お母様が言うように馬鹿みたいな小説だと思います。しかし、本人の前で決して否定すべきではありませんわ。フローレンスさんにとっては名作も名作。その証拠に、その本には何度も読んだ折り皺がついています。特にお気に入りのシーンなんでしょうね」
フローレンスが置いていった小説をペラペラと捲る。大切に扱われていたのだろう。カバー付きの綺麗な本だが、よく見ると何度も読み込んだ跡がある。
「好きなものを否定されるのって、本当に傷つきますよね」
私も同じような経験がある。
子供の頃、大好きだった魔法少女アニメを父親に馬鹿にされ、それから楽しめなくなってしまった。
フローレンスの泣き出しそうな顔が、かつての自分と重なる。
好きなものを、ずっと好きでいてほしい。
その感情から、やる気がメラメラと沸いてくる。
「本人から解釈を聞くのが難しそうなら、その解釈を解釈すればいい。そして、勝手に作ってしまうのです」
何言ってるんだ、とクロウリーは首を傾げた。
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悪役令嬢が好みの下着を手に入れるために気合いを入れて続編を書きたいので、よろしくお願いします!