初めてのお客様1〜彼氏居なくても関係ない!可愛い下着着けてテンションアゲてこ〜
「メッッチャクチャ良い!!!!ですわ!!!」
フィンのスカウトに成功し、糸紡ぎ妖精の街から無事帰ってきた。私が不在の間も店の準備は着々と進んでいたようで、白を基調とした立方体風のシンプルな外観が出来上がっていた。
出発前にクロウリーとしっかり打ち合わせをしておいて良かった。
あえて、看板は掲げずに知る人ぞ知るオーダーメイド感を演出。とにかくスタイリッシュ、という名のコスト削減で、装飾は最小限。白い立方体はまるでお豆腐ハウスだ。申し訳程度に植物を添えて、ネギみたいにしておいた。
「そりゃどーも」
打ち合わせ通り、いや、それ以上のクオリティ。これだけでも分かる。クロウリーのセンスは信じられる。絶対に、素晴らしい下着が生み出せるに違いない。
「中はこんな感じだ。まだ未完成だがな」
中は殆どをクロウリーの作業場に充て、接客スペースはカウンセリング用のソファと机のみだ。商品の展示は敢えてせず、一品一品の特別感を演出する。
「スカウト成功したんだってな。やるじゃん」
「えぇ。既に生地の試作依頼をして来ました。さぁ、ここから私のブラジャーの始まりで……」
私が言い終わる前に、がちゃりとドアが開いた。
「あ、あの……すみません、こちらが下着のお店と聞いて来たんですけど……あぁっ、ごめんなさい、あのリリア様のお店ですもんね、私みたいな貧乏人が来るところじゃないですよね」
黒いワンピースを着た、十五歳くらいの少女。メガネをしている上、そのメガネに掛かるほどの長い前髪のせいで、内気な印象を与えている。
彼女はオドオドした早口で捲し立て、慌ただしく店から出て行こうとした。
「ちょ、お待ちください」
慌てて追いかける。記念すべき、お客様第一号。絶対に逃したくない。
逃げる彼女の手を掴み、なんとか引き止めることに成功した。
「ご、ごめんなさい。その、可愛い下着、着けてみたいなって思っただけなんです……。べ、別に彼氏がいるとかそういうわけじゃないんです、変ですよね、あはは……」
「彼氏の有無など関係ありません!今日かわいいパンツ履いてる!テンションアガる!最高!それで十分じゃないですか!」
そう、関係がない。自己満上等、彼氏がいようといまいと、好きなものを身につけて、可愛く居ようとすることの何が悪い。
掴んだ手にも思わず力が入る。
向こうの世界でも、少しオシャレをしただけで「彼氏できたの?」と聞かれ、否定をすると「なーんだ」とつまらなさそうにされるのが苦痛だった。
特に職場のオッサン。
彼氏いないのに、マツエクしてすみませんでしたねぇ!
そう開き直ってやりたかった。
自分のためのオシャレとは、謂わばバフ。強くなるためのおまじないみたいなもの。
この子がまだ、そのことを知らないのなら。
知ってほしい。
楽しく生きる魔法を。
「記念すべきお客様第一号ですわ。オーダーメイド下着を今ならモニター価格でご提供します!貴方、お名前は?」
「わ、私はフローレンス、です。っていうか、私のこと忘れちゃったんですか?お友達だと思っていたのにぃ……」
それはごめん。
泣き出すフローレンスをソファに座らせ、私は内心頭を下げた。
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悪役令嬢が好みの下着を手に入れるために気合いを入れて続編を書きたいので、よろしくお願いします!