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スカウト3〜雇用の分野における妖精の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律〜

開いた扉に背をかがめて入る。

フィルは髪をセンター分けにし、銀縁メガネを掛けた、いかにも神経質そうな風貌をしていた。しかし、思っていたよりも歳は若く、白衣が似合いそうな美形で、化学の先生にいたら、きっと学生達のテンションも相当上がるだろう。

つん、と不機嫌そうな表情をしているのもまさに似合っている。


ドアこそ小さかったが、室内は意外と広い。しかし、そこら中に書類や本が散らかっていて、良くも悪くも生活感がある。

座れ、と言われ、床に座る。妖精サイズのソファもあったが、私が座っただけですぐにつぷして壊れてしまうだろう。

フィルはそのソファに座ってふんぞり返った。


「話くらいは聞いてやる。貴族の女が俺に何をやらせたいんだ?」

「共に、女性用下着を作って欲しいんです」


この世界にコルセット以外の下着を作りたい。そのために肌触りの良い生地が必要で、腕利きの糸紡ぎ妖精を探していることを熱い想いとともにフィルに伝えた。

私がもともとこの世界の人間ではなく、悪役令嬢リリアに転生したことはややこしいから隠しておく。


「ふん……確かに俺は技術には自信がある。お前が求めているような生地だって作れるだろう。膨大な時間をかければな」


フィルはぐるりと部屋を見渡した。


「ここはかつて工房だった。人間との打ち合わせもやっていたから、人間も過ごせるようにと天井を高くとって広めの空間にしてある」


だから、妖精の家の割に広々としていたのか。


「最初こそ、良い関係を築いていた。しかし、所詮は雇う側と雇われる側。段々ノルマと納期が厳しくなっていき、皆無理をして働いた。中には身体を壊したものもいた。抗議しても一向に改善されなかった。俺たちは体の小さな妖精だから、人間には力では勝てない。どんなに対等ぶったって、どうしてもパワーバランスが偏ってくるんだ」


なんだか、元いた世界のことを思い出してしまう。

少ない手取りでやりくりしていたあの頃は、会社に対する不満ばかりだった。

今でこそ雇う側になっているが、雇われる側だった頃の気持ちを絶対に忘れないでおかなければ。



「だから全てを捨てて逃げた。もう二度とあんな思いはしたくない」


フィルはぽつり、と呟いた。

本来はきっと、真面目で勤勉な妖精なんだろう。

ますます欲しい。


「確かに、私たちは対等ではありません」

「開き直ったって無駄だぞ」

「そう、貴方の方が限りなく優位ですわ。他の妖精に断られた私達にはもう貴方しか居ないのですから。選ぶ権利は貴方にある。だから、ふっかけ放題です」

「確かにそうだが……」

「膨大な時間とは大体どれくらいですか?」

「そうだな……コルセットと同じ大きさなら、大体三日ほど」

「三日ですか?!全然オッケーですわ!」

「三日で一人分だぞ?」

「えぇ、十分過ぎるくらいです。大量生産するつもりなど、さらさらありませんもの。一人一人のニーズに合わせた完全オーダーメイドにしていこうかと思っています」

「おい、正気か?低コストで効率化しないと儲けが出ないだろ」


信じられない、とフィルは目を丸くした。


「むしろ、絶対に妥協しないでください。こだわってこだわって、これでもかってくらい、こだわり抜いてください」

「なるほど、利益を追求しない、貴族の道楽か」

「超真剣な道楽……楽しいと思いません?どうです、ご一緒に?」


態度の悪いこの妖精に、私はかなりの親近感を覚えていた。


「まぁ、今の俺の状態もある意味、道楽か。分かった。手を貸してやる。ただし、絶対に残業はしない。福利厚生も充実させろ。気に入らなかったらすぐ辞めるからな」


えぇ、と頷くと、フィルはフン、とそっぽを向いた。




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悪役令嬢が好みの下着を手に入れるために気合いを入れて続編を書きたいので、よろしくお願いします!


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