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短編集

お隣に住む後輩が「現代くノ一」ということを知ってしまったら、何故か溺愛されるようになった件について。

作者: 黒崎吏虎

スパイアクション+正統派ラブコメを短編として書いてみました。

自分なりに工夫して書きましたので、最後までお楽しみいただけると幸いです。

 俺は竹園海(たけぞのかい)


詩仙学園(しせんがくえん)高校の2年生。


普段はまあ………特に目立つところもない、ただクラスでは変人扱いされ、友人も特におらず、距離を置かれている。


そんな俺は現在図書委員をやっており、今日は届いた新本の棚卸しの仕事をすることになっている。


放課後、とある女子の後輩生徒と共に作業することになっているのだが_____その娘は接点は僅かながら俺とクラスメイト以外ではほぼ唯一、学園内ではある。


………とはいえ、何を話すわけでもないし、彼女は性格がクールで素気なく、俺には結構冷たい対応をするから、俺も自分から話すタイプでもないし、ただただ静かな空間の中で時間が流れていくだけ、作業は淡々とだ。


それでは何の接点があるのか、それは………()()()()()()()()ということだけである。






 よし、こんなモンか………と俺は独り言のように呟くと、プラスチックの箱が床にゴトン、と置かれる音がした。


俺がその方角に向くと、“件の後輩生徒”がそこにいた。


「先輩、独り言を呟いてる暇があるなら本棚に入れてください。」


「あ、ああ………スマン。」


素っ気のない声で、微塵も興味がなさそうな声色で俺にそう指示した(?)生意気に映る後輩女子の名前は「川上唯(かわかみゆい)」。


顔は童顔気味だが整っており、凍りつくような空気を常に川上は纏っている。


そんな美少女の彼女が俺ん家の隣………と聞くとあんなこと、こんなこと_____と想像しがちだが………実際そうではないのが現実である。


隣同士だからといって、親同士が仲が良いというわけでもなければ川上家が町内会にすら顔を出さないので、交流があるといえば図書委員の仕事か、回覧板を届ける時とか………本当にそんな感じで互いが互いによく人物を知らない、それが実情であり事実。


まあ、しっかり者だし俺も文句は言えないからな、川上が言ってること自体は正論だから。


俺はマジックで「K」と書かれたプラスチック容器を持って「K」と表示されたのプラスチック板が貼られた本棚に向かい、本を詰めていく。


ひと通り終えて戻ってくると、川上は本の配列を確認している最中だった。


大雑把な俺と違って几帳面だな、と感心していると川上が珍しく俺に話しかけてきた。


「………終わりました?」


「ああ、バッチリだ。」


………やっぱり仕事のことか、俺がそう思った直後、川上は無言でまた本の配列確認を始めた。


「川上、俺も手伝うよ。一人でやるの、大変だろ?」


「………確認は殆ど終わってるんで、先帰ってていいですよ。」


「別にいいじゃねえかよ………相変わらずだな、お前。」


「私、人と馴れ合うのが嫌いなので………」


こんな大変な作業を手伝う、という好意をそういう理由で突き放されては堪らない。


まあ、俺も馴れ合いは苦手もいいところなんだけどさ。


多分友達もロクにいねーんだろうな、と思いつつ、俺は帰る準備をした。


ブーメランになったなと心の中で思うにしろ、この後はバイトだから。


「それじゃ、お疲れ。気をつけて帰れよー」


「………お疲れ様です。」


それだけ言葉を交わして俺は帰路に着いて行った。






 その夜。


俺はピザ屋で配達のバイトをしている。


割と遠目のお宅に、店所有のスクーターを使って注文の品を運び終え、店へと帰る最中だった。


するとなにやら、ピョンピョンとウサギだかリスだかのように屋根を飛ぶ人影が遠くに見えたので、俺は店へ帰るついでにスクーターでそこに向かって行った。


すると。


何やら紺色の身軽そうな装束を纏った………女の子が。


歩道をライトで照らすと、女の子は顔を隠すように身構えた。


「!? だ、誰!?」


ん? どこか聞き覚えがあるな………だが気のせいの可能性もあるし、一応聞いてみる。


「お前………()()か?」


「………!? な、なんで私の名前を………!?!?」


女の子は相当狼狽している。


だが正体が川上唯、と分かっただけ収穫ではある。


俺は一応、ヘルメットを外した。


「俺だよ、俺。竹園!!」


「せ、先輩………!?!? ど、どうしてここに………!?」


「バイトだっつの、ピザの配達の帰り!!」


「………じゃあ偶然、ですね………よかった、()()()()()()()()………」


川上が胸を撫で下ろしていた。


どうやら相当動揺していたようで、俺はこんな川上は初めて見たからどうすればいいかが分からずだった、だがしかし、“追っ手”という単語がどうしても引っ掛かり、スクーターに乗せる事にするか_____下心関係なしにそう感じた俺は川上にこう提案した。


「………乗っていくか? 追っ手………だか知らねえが、困ってんなら助けてやる。」


「え………こ、困りますよ、先輩………!! お気持ちは嬉しいですが………先輩だって仕事が………!!」


「関係ねーよ、人助けに仕事だのなんだの………言ってられねえっての。いいから乗ってけ。」


「………先輩、免許はあるんですよね??」


「取ってなきゃスクーターなんぞ乗ってねえっつの。」


「………じゃあ、お言葉に甘えます。」


「分かった、しっかり捕まってろよ!!」


川上を後ろに乗せた後、俺は思い切りアクセルを踏んでかっ飛ばし、店の事務所で一度匿うことにした。





 俺の仕事も終わり、帰り道。


俺の奢りでファミレスに寄り、なぜ人気のない歩道にいたのか、なぜ追っ手に追われていたのか_____それを問い正したかった。


「先輩、すみません………先程はお騒がせしました。」


まず、謝罪の言葉が川上の口から出た。


乗せて行ったのもファミレスで奢るのも、あくまで「俺自身の善意」だから謝らなくていいのだけれど、やっぱり真面目なヤツだ。


「い、いやぁ………いいんだけどよ、何してようと。お前さ………さっき追われてた、とかって言ってたよな? そんな命懸けの事………やってたのか?」


「………まあ、ある意味………」


「ある意味、っつーか、なんつーかよ………命のやり取りみてーのかな、と俺は思ったんだが? そこはどうなんだよ??」


川上は、どこから話せばいいのやら………と呟きつつ、水を一杯飲んだ。


そしてこう、俺に忠告する。


「先輩………私の今から言うこと、誰にも言わないですか?」


「はぁ???」


まるで意味が分からない。


俺が秘匿しなければいけない事、ってなんだ、そんなに口にするのも憚られる仕事をしてんのか、川上は………そう思うと余計に川上のことが俺は分からなくなっていた、だが話を聞かないと先には進めない、そう判断し、俺は口を固くする決意を固めた。


が、その前に川上がグイッと俺の顔に詰め寄り、こう強調するように俺に言う。


「い・わ・な・い・で・す・か・?」


そんな必死な顔で強く言われても………とは思うが、別に俺は学内で親しい人間がいるわけではないので誰かに川上が何か碌でもないことをやっている、と噂で流しても信用する人間は皆無だろう、おそらく。


漏らす理由がそもそも無いし、その環境下も作れないから喋る気もない。


「………あのな、大体ダチもいる方じゃねえしよ………そんな俺が誰かに喋る理由、なんかあんのかよ??」


「む、言われてみれば。」


「そこは否定しろよ………」


「………じゃ、2人だけの秘密ってことで。」


俺は固唾を飲むことしか出来なかった。


目が本気だからな。


川上は重い口を開く。


「………実は私………『くノ一』、なんです。」


「………………は??? 頭打ったか、川上。」


「くノ一」って、一昔前の女忍者だろ??


今でもいるのか? そういう生業の人間が。


「打ってなんていません、だいたい大雑把で考え方がクルクルパーな先輩に言われたくないですね。」


「………お前、それは悪口じゃね??」


「それはいいじゃないですか、とにかく私の話に戻しましょうか。コレ………今誰もいないから言えますけど、私は()()()()()()()なんです。『公安警察直属非公開組織』の『くノ一部隊』。公安監視対象の団体や汚職疑惑のある企業から重大機密事項を抜き取る組織ですね。今回はある企業に潜入して、データベースを写し取って本部へと送る………その情報を本部へと送った矢先に先輩に出会ってしまったわけです。」


なるほど分からん。


スケールがあまりにもデカすぎて俺では処理しきれんとしか言いようがない。


しかも監視カメラも多く聳え立つだろう一般会社のオフィスによく忍び込めたものだ。


まあ、川上は小柄だし冷静だし、そういうのにはこと向いているのだろう。


そしてもう一つ聞きたいのが“追っ手”の件だ。


「お前さ………なんで俺を“追っ手”だと思ったんだよ? まあ、機密がバレたら黙っちゃらんねーのは分かるけどよ、向こう側の言い分として。」


「仮に潜入がバレて追っ手が来る、というのも無論想定しています。ライトに照らされた時に先輩を追っ手と勘違いしてしまった、知らなかったとはいえ、私に落ち度がありますからね、そこは。それに………」


「それに?」


まだ何かあるらしい。


ただ、本人の想いを発するような目をしていたため、ここで聞いておくことにする。


「私は………2年前に母を亡くしたんです。いわば殉職です。母も公安の人間で………母を殺したのは私がさっき言ったターゲットの団体の1つ。だから誓ったんです、母の分まで、()()()()()()()()()()()戦うって。父にくノ一(そういうの)を紹介されて、今はそこに所属しているんです。」


「そうだったのか………じゃ、尚更言えねえな。今日のは黙っとく。約束するぜ?」


「ありがとうございます。もし破ったら………その時は()()()()()()。」


「こえーよ!! ………ったく、約束くれえ守ってやらあ。とにかく帰って寝るぞ、朝早えんだから。」


「冗談ですよ………ホント、面白い人ですね、先輩。」


「あ? なんか言ったか?」


「なんでもないですよ、そろそろ行きましょうか。」


………まあ、秘匿主義の公安に属しているなら冗談も冗談に聞こえないし、川上は真面目だからマジで口封じで消されかねないからな………それに、俺は別に告発(チク)る理由はないし、告発(チク)ったとしても誰かに信用してもらえるほど俺に人望があるわけではない。


………それにしてもやっぱり変なヤツだな、川上。


まあ、そういうところがアイツらしいっちゃらしいけども。


そういうわけで俺たちは帰路へと着いていったのである。





 翌朝。


「「あ。」」と同時に発した通り、本当に偶然の出来事だった。


同時に家の玄関から出てきて、俺と川上は顔を合わせた。


「お、おはよう、川上。」


「おはようございます、先輩。」


「一緒に行くか?」


「いいですよ。もう()()()()()()()()。」


「そ、そうだな………」


以前より表情に硬さが取れたように、川上の顔は明るく見えた。


ただし彼女比では、あるが。


それにいつにも増して気まずい………そう思っていると。


川上が何やら包みを差し出してきた。


「………これ、お弁当です。先輩のために作ったんですよ?」


「………へ???」


声色自体はいつもの川上だが、どういう風の吹き回しなのか………俺には理解不能だった。


………いや、昨日の今日だし、それはまあ、仕方ないとして。


「あ、ありがたいけどよ………なんで俺なんかのために弁当なんて………」


「ふっふー♪ それは秘密でーす♪」


………はぐらかされてしまった。


それは別に構わないとして、俺も生憎弁当を持ってきてるから交換でもしておくか………そう思って俺はバッグから弁当を俺も取り出す。


「ホラよ。折角だから俺のもやる。」


「………いいんですか?」


「作ってもらって礼も返さなきゃあよ、男が廃れるってモンだ。つべこべ言わず受け取れ。」


そう、互いに秘密を知って知られての関係だ、こういうスキンシップで関係を深めていかなければ。


「じゃあ………お言葉に甘えて。」


川上は少し照れた表情をしながら、俺の作った弁当を受け取ったのであった。





 昼休み。


外は快晴、俺は屋上で川上が作った弁当を開けた。


俺の弁当のような冷凍物から、ではなく唐揚げだったり卵焼きだったり、綺麗に飾られたタコさんウィンナーだったり。


美味そうな飾り付けで食欲を唆られる。


箸を出して開けようとした時、ガチャ、とドアが開く音が。


さよなら俺の聖域(サンクチュアリ)、そう思っていたら見えた姿は川上だった。


「なんでここが分かったんだ?」


「教室に行ったら先輩が居なかったので。伝手で聞いたら屋上に居る………そう聞きましたから。」


「あー………そうですかそうですか。」


それはそうとして、折角だから一緒に食うか、と俺は川上と弁当を食べる。


秘密を共有している仲だし、屋上(おれのすみか)を汚されても川上になら別にいいや、と割り切れるし。


にしても川上の弁当は美味い。


見た目通りで、俺は川上に女の子らしく家庭的な一面を垣間見た気がした。


「先輩、ひとつ聞きたいのですが。」


「………なんだよ?」


今朝からヤケにぐいぐい来るな………そう思いつつ、質問を待つ。


「なんで先輩は………昼休みの時、いつも屋上に居るんですか?」


ああ、そんな事か………といっても大した答えなんてないんだがな。


一応答えるとするか。


「風がな………気持ちいいんだ。ここに居ると。クラスで騒々しいのは俺は苦手でさ、1人の時間をゆっくり過ごせる、だから昼ん時はいつもここに居るんだよ。」


「………似た者同士、ですね。私もそういうの、苦手なので。」


「お前馴れ合いが嫌いって言ってたもんな、そりゃそう思うよな、川上も。」


俺が同情するように笑うと、川上が何故か俺の腕にくっついてきた。


突然のことに俺は思わず顔を紅くしてしまった。


そりゃそうだ、こういうのは俺は慣れちゃいないから。


そして当の川上は、不敵な笑みを浮かべながらニヤニヤとしている。


実は小悪魔なのか、川上って………そう思ってると川上が話しかけてくる。


「………いいな、って思ったんですよ、”2人だけの秘密“って。だから………」


だから………なんだ? そこが気になって夜しか眠れなくなっちまうじゃないか。(いやそれはそれで健康的なんだけど!)


俺が固唾を飲んでいると、川上が続けてきた。


「こうやって先輩と()()()()()()()()()()()()………先輩の(ハート)、盗み取っちゃいますから♪」


「ちょ、ちょっと待て、急にどうした?? そういう仲じゃねえだろ、まだ_____」


「私は逃がしませんよ、ヘビみたいに。絶対にその気にさせますからね?」


………川上に気に入られたのか、俺は。


ただ俺は逃げる気はねえんだけどな、今コイツと仲違いにでもなったら公安に消されかねないからな、冗談抜きで。


だからとりあえず、川上にこう言っておく。


「分かった分かった、俺なんかで良かったらさ、いつでも一緒にいていいから。」


「ハイ!」


川上が俺に初めて見せるような満面の笑みを浮かべていた。


しばらくはコイツをヨイショしとけばいいか………俺はそう考えた。




 だけど俺はこの時はまだ気付いていなかった。


川上が立ち向かおうとしている「()()()()()()()()()()()()()()」の想像以上の想定外の重さに、そして川上が俺に抱いている「純粋な気持ち」を理解しているわけではなかった、その事実に。


軽く登場人物紹介。


主人公

竹園海(たけぞのかい) 詩仙学園2年図書委員 170センチ62キロ


クラスでは変人ぼっちのインキャとしているが、根っこは熱血漢で人情家。

ピザ屋のバイトをしている時に唯の正体を知り、甘えられるようになる。



ヒロイン

川上唯(かわかみゆい) 詩仙学園1年図書委員 151センチ42キロ B83W53H80


海とよく一緒に仕事をする事が多い図書委員の後輩で家が隣同士という不思議な関係。

実は公安直属下の「くノ一部隊」に所属しており、運動能力や運動神経が非常に高い。

馴れ合いを嫌うクールな性格ではあるが、気を許した相手には小悪魔の本性を出す。




今後連載も予定していますので、その際はまたよろしくお願いします。

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