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7.来る

「仕立て屋を呼ぶから新しい服を作ってもらって頂戴」


 二人で楽しく演奏をした翌日、ガリィがそう切り出した。


「なんで?」

「アタシの両親がアンタの顔を見に王都から来るのよ」


 大変じゃん。え、何話せばいいんだ。まじかー、えー。


「……いつ?」

「一週間後。まったく何考えてるのかしらアタシの両親。

 衣装間に合うかしら。あー、もっと早くマリーに服を贈ってあげるんだったわ。

 そのままでも可愛いからって後回しにしてたわね」


 そんな事を言いながらそわそわしてる様子のガリィがいた。

 うーん。この様子から見ると。


「ガリィのお父様、怖い人?」

「アタシにしてみればね。あー、どうしましょ。お母様もマリーに変な事言わなきゃいいけど。ああ、今から不安だわ。

 とりあえずマリーは仕立て屋が来たらデザインを決めて欲しいのよ。欲しいならドレスとかも頼んでいいけど……とりあえずアタシの両親を出迎える格好だけすぐ作るように伝えて」

「分かった。けどその間ガリーは?」

「部分型ゴーレムの細部を詰めたり書類整理したりね」

「一緒にいないの?」


 そう言ったらガリィは顔を赤らめて叫んだ。


「お馬鹿! 身体のサイズ測るんだから男が一緒の部屋にいられるわけないでしょ!」


 なるほど。言われてみればそうだ。でもなあ。


「婚約者だからよくない?」

「よくないわよ! 節度を守ったお付き合いをするのよアタシたちは!」


 口調の割にお堅い貞操観念だ。いやオネエの貞操観念が緩いか固いかなんてよく考えたら知らないわ。ゲームとかだとどっちが多かったっけ。覚えてないなあ。


「仕立て屋の方が到着致しました」


 名も知らぬ侍女がそう告げると、ガリィは言った。


「通しなさい。それじゃマリー、いい子にしてるのよ」


 なんか地味に子供扱いしてない? 私はお前の婚約者だぞ。

 とはいえそんな文句をつけても仕方がないので。


「わかった」


 とだけ答えておく。

 ガリィは手をひらひらさせて部屋から出ていくと、少し間を置いてから一人の女性がドアの前で跪いた。


「入って」


 仕立て屋らしき女に入室の許可を出し、続けて座るように促した。


「座っていい」

「本日はありがとうございます。ガリウス様の婚約者の方」

「私はマリア」

「失礼しました、マリア様。仕立て屋のザイナーデと申します」

「今日は急ぎの仕事を頼みたい。ガリィからそう伝えるように言われている」


 仕立て屋は頷くと、ではサイズを測らせて頂きます。と言うので言われた通り背やら胸やら足やらを測らせた。


「……では、イメージは大人っぽく。でよろしいのですね?」


 その間にどんな感じの服にするかを相談した。婚約者としてはガリィに釣り合うような、大人の女性っぽさが出せる事が理想だ。


「そう。だから、かかとも高くていい。このくらい」

「えっ! そんなに高く!? ですか」


 素で驚いてしまい、敬語を付け足した仕立て屋。

 私が提案したのはつまるところのハイヒール。

 この世界にはまだない文化である。


「すみませんが、新しい靴に興味はありますが、急ぎの仕事なんですよね? そういう挑戦を入れるのは、その……」


 しまった。そうだった。無茶を言ってしまったようだ。貴族からの仕事を無理と言えない平民に無茶振りをするのは恥ずかしい事だ。


「分かった。とりあえず服の雰囲気だけ大人っぽくしてくれればいい」

「かしこまりました。メインにする色の要望などは」

「なんでもいいけど、強いて言うなら赤」


 私の瞳の色だ。


「ではそのように。五日後に完成させてお持ちいたします」






 時間は飛んで七日後。

 そこには新品の真紅のドレスを身に纏った私が、さらにいくつもの装飾品の類を身に着けていた。

 ドレスは分かるだろう。完成したのだ。

 装飾品はドレスを着た私を見て、ガリィがすぐ商人のアキンドルに声をかけて色々買ってくれたのだ。その様子と言ったら、なるほど浪費家。


「それとそれ、それも。全部似合いそうねえ。ふふふ、マリーがもっと綺麗になっちゃうわ」


 何のために衣装を新調したのか。それを忘れているかと思うぐらい、楽しそうに宝石のついた装飾品を買い漁っていた。

 ちなみに値段とか聞かずに買っていた。これが伯爵か……


「元領主、ガリレオ・バルトロメオ。元領主夫人アイニー・バルトロメオ夫妻ご到着いたしました」

「分かったわ」


 ガリィが立ち上がったのを見て、私も立ち上がる。手を繋いで二人でガリィの両親を迎えにいく。

 そこにいたのは、厳格そうな男の人と穏やかそうな女の人。これがガリィの家族なんだ……。

 目つきの悪さは父親似、全体的な雰囲気は母親似といったところか。


「……はぁい、お父様、お母様。お元気そうね」

「お前はまだそんな喋り方をしてるのか。未だに平民の女に入れ込んでおるわけだ」


 何の話だろうか。ガリィの話し方は確か姉による影響だと聞いたが。


「で、やっと貴族に目を向けたと思ったら、まだ子供ではないか! 一体何を考えている!?」

「マリーはれっきとした学園卒のレディよ! 馬鹿にしないで!」


 深い、深い溜め息がガリィの父親から漏れた。

 そして、私を見ると出来る限り穏やかな声を出そうと努力しているのが見て取れるような優しそうな声で話しかけてきた。


「一応、噂には聞いていた。男爵令嬢のマリアくんだったね。この男はやめておいた方がいいと思うが」

「ちょっとお父様!」


 苦言を呈したのは父親の方だけではなかった。黙っていたガリィの母親も、私に注意を促す。


「伯爵夫人の肩書に釣られただけなのならば婚約などおやめなさいね、辛い事も少なくありませんよ」

「お母様まで!」


 そこまで言われたからには仕方がない。諦めよう。

 私の本心を隠す事を諦めよう。


「ガリレオ様、アイニー様。私、ガリィがいいです」

「ほう」

「あら」


 三人の、六つの瞳がこちらに集中する。


「口調が女でもいい。気にしない。伯爵夫人が大変でも、ガリィの為なら頑張れる」

「マリー……」

「ガリィは私と一緒にいるって約束してくれたから、好き」


 沈黙がその場を支配した。

 しかしそれも長くは続かず。


「マリーぃ! アタシも大好きよぉぉぉ!」


 そんなガリィの大声と共に抱き着かれた私は潰れそうになりながら、頬と頬をくっつけられながらガリィに溺れた。

 いやそんな詩的な大層なものではない。めっちゃ愛でられただけだ。

 化粧水でよりぷにぷにになったもち肌を大層ぷにぷにされた。


「仲がよさそうで何より、とでも言うべきなのだろうなあ」

「若いっていいわよね」


 そんなわけで? ガリィの両親にも認められたっぽい雰囲気だけ出したところで気になる事がある。


「さっきガリレオ様が話してた平民の女って誰?」

「ああ、それね。お父様が昔、酒場に連れて行ってくれた事があるのよ。平民の」


 意外だ。すごい厳格そうな人なのに。


「そこにいた女の人が、凄い良くしてくれて。あの人みたいになりたいって思ったからお姉様って呼んで慕って、その人を真似るようになったってワケ」

「おかげで私がまだ小さかったガリウスを夜の酒場なんぞに連れ出した事がアイニーにバレて雷が降ったがね。未だに恨んでいるからな、ガリウス」

「ふふふ、ごめんなさいお父様。でもあの出会いをくれた事には感謝しているわ」

「私は後悔しているよ。貴族の男が平民の女の真似をするなど……」


 楽しげに話す父親と息子。

 母親の方は、私に話しかけてきた。


「どう? 心の中に自分以外の女のいる男。嫌じゃないかしら」


 答えは一つだ。


「今、ガリィの隣にいるのは私です。その女じゃない」

「ガリウス、この子貴方より男らしいかもしれないわ……」


 その言葉に含まれているのは驚きか呆れか感動か。

 なんにせよ、少しだけガリィの両親との距離が狭まった気がした。


「マリアくん、そこまで言うなら息子を頼むよ。女の真似をする不甲斐ない男だが……」

「困った事があったら言うのよ。母である私も、力になりますからね」


 こうしてガリィの婚約者として、一応認められた形となった。今回の顔見せは成功だと言っていい。


「ところでここに来るまでに幼い少女の姿をした『殺戮の貴族』がほぼほぼ一人でダンジョンを制圧したと聞いたが……それはマリアくんの事だね?」

「え?」


 こうして私は血生臭く物騒なあだ名をお義父さん経由で知る事となった。

 この時の私の心境を答えよ。配点十。

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― 新着の感想 ―
[一言] 問.この時の私の心境を答えよ。配点十。 答え. そのあだ名つけて広めた奴、マジ殺す。 とりあえず、20文字以内におさめてみました。
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