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6.稼いだお金で買い物を

 ダンジョン制覇から二日が経過した。

 屋敷ではユリンを中心にして私の部屋が整えられ、客室を一つ利用させてもらう事になったのだが。

 広い、広すぎる。持ってきたものが少なかったのはあるかもしれないが、それでも広い。伯爵家と男爵家とはこうも差があるのかと同じ貴族でも明らかに違う。

 ガリィにダンジョンを完全に制圧した話をしたら流石ね、と褒めてくれたが一緒に行きたかったともちょっと文句も言われてしまった。

 今は談話室で、実は執事長だったセバス・オーエンから魔物の素材をギルドに売り払って出来た金銭を受け取っていた。


「大金貨二枚と金貨三十五枚? 桁二桁間違ってない?」

「いえ、これで正しいのですよ。お嬢様の仰られている金額は、学園にあったダンジョンでの金額でしょうか。あそこは魔物が弱いのもあって安く買い叩かれますからね」


 ちなみに大金貨が一枚で日本円にして一億円。金貨が百万円くらいだと思ってくれればいい。

 銀貨が一万円で銅貨が百円。百倍ずつ変わっていくのだ。鉄貨とかいう一円もあるが、貴族が金貨未満まで気にしてるとみみっちいとされている。


「魔物の強さ? 何か違った?」

「お嬢様にしてみればそんなものなのかもしれませんが、格段に違いますよ。伯爵家の治める領地の魔物は基本的に強いものなのです。これが侯爵家ともなればさらに強くなります。授業でやりませんでしたか」


 言われてみればやったな。偉い貴族ほど強いダンジョンを領地に持って定期的にダンジョンを掃除して魔物が外に出るのを防ぐ。

 これが大事な仕事なので、貴族の屋敷というのはダンジョンに近いものなのだ。


「普通は伯爵家のダンジョンなんてよっぽどでない限り冒険者とはいえ平民が最下層までなんていけないのですよ。うちの場合はご主人様が作っているゴーレムあってこその活躍です」

「ガリィの発明は凄いんだ。でも男爵家みたいなところは金銭面の都合で買えなかったらしいけど、公爵家なんかでは取り入れられてないの?」

「芸術家連中の力添えがあるとはいえ、まだまだ見た目が未熟。とてもではないですが尊き方々にはお出しできませんな」


 いかにも岩の塊に腕と足ついてますって感じだからかな。とはいえ、使うのはどうせ平民なんだしいいと思うけど……どうなんだろ。


「それはともかく、今日は買い物などいかがでしょうか。ご主人様もダンジョンを攻略した次の日は芸術品を買い漁っていますからね」


 そういえばガリィは結構浪費家だと聞いている。そのあたり、私がきちんとすべきだとは思うが経済を回すのも貴族の仕事っちゃ仕事か。


「いいよ。来てもらって」

「かしこまりました」


 そう発言してそんなに経たないうちにガリィよりちょっと年上くらいかな? っていうくらいの年齢の男が到着し、談話室に入らず部屋の前で扉だけ開き膝を付き、頭を下げている。

 平民のマナーだ。


「入っていい」


 入室の許可を出すと男は立ち上がり、部屋の中に入ると再び頭を下げる。


「そこに座って」


 そう言ってソファを示すと、やっとまともに会話のできる姿勢となる。そうして先に口を開いたのは男の方だった。


「貴女様は将来の伯爵家の奥方様と聞いております。わたくし、商人のアキンドルと申します。どうぞお見知りおきを」

「マリア・トワネット。今日はいい買い物が出来る事を期待している」

「はっ。それでは下働きの者達を部屋に入れてもよろしいでしょうか」

「構わない」


 すると、アキンドルという男の合図と共に絵画や彫刻といった芸術品が運び込まれてくる。


「いかがでしょう。――いえ、これは失策でしたな」


 セールストークに移るより早く、彼はそんな言葉を口にした。


「何?」

「ガリウス様が芸術品がお好きということで、その未来の奥方もそうなのかと思って準備させていただきましたが、奥方様は芸術品に興味が無いご様子。いえ、なにも仰らなくて結構。品々を見るその冷めた瞳を見れば、商人なら誰でも失敗を感じ取れるもの」


 確かに興味無いけど、そんな冷たかったかな。ちょっとショック。


「とはいえ、二の手三の手を用意するのも商人ならば当然。美容関係の商品も用意しております……さあ」


 重そうな芸術関係の商品は早々とどかされ、代わりにいくつかの容器が下働きの男達の手によってテーブルの上に置かれていく。


「洗顔、保湿の美容液。花の香りの香水。石鹸。様々な物をご用意しております」


 なるほどなるほど。見た目的にはロリな私だが十五歳だしな。こういうのに手を出すのに遅いという事は無いだろう。


「金貨三十五枚程度で適当に見繕って」

「かしこまりました」


 あとは何を買おう。そういえばあれはあるのかな。


「娯楽関係の商品はなにかある?」

「……ふむ。それはどのような? 楽器の類ならある程度は揃えておりますが」

「盤上ゲーム。リバーシみたいな。あとトランプとか。あるよね?」

「申し訳ございません。わたくしめは存じておりません」


 てことはリバーシってないの? というかトランプないのはおかしいでしょ。ここの男爵家のメイド、一緒に来た四人の苗字がトランプだぞ。


「こう、九かける九マスに区切って白と黒の石を中央に二つずつ置いて、順番に相手の色を挟んで反対側にひっくり返して自分の色に染めるゲームなんだけど……本当に無い?」

「聞いたことがございません。どこでそのようなお話を」

「知らないならいい。トランプについても教えるから、作ってもらえる? 販売してもいいから」


 芸術の都とまで言われているバルトロメオなら木工も製紙も余裕だろう。流行らなくても最悪うちのメイドのユリンとやろう。


「大金貨一枚出すからリバーシとトランプを広めて。初期投資はするからそれ以上売るなら自分でね」

「かしこまりました」


 さて、これで残りは大金貨一枚か。貯金してもいいんだけど、さっき気になる事言ってたんだよな。




 ……

 …………

 ………………




 その日のうちに届くって言うんだから現代でもびっくりだよ貴族主義ってやつは。

 誰よりも優先して届けられるものだから、こんなでかい買い物だってその日のうちに。

 でも使いすぎたかなーとは思う。

 踏み込み、鍵盤に触れると音が鳴る。

 そう、私のいる客室があまりに広かったから、ピアノを買って運び込んでもらったのだ。

 確か転生前もピアノは習っていた気がするし貴族の嗜みの一つとして、学園でも習っていた。

 そうして、リバーシやトランプが出来るまでの時間つぶしとしてちょっと、いやかなり高い買い物をしてしまった訳だが、そこには意外な効果が。


「ふふ、こうして二人で楽器を演奏するなんて。楽しいわね」


 なんと、ピアノを買ったと知ったガリィがバイオリンを持って私の部屋に遊びに来た。

 演奏曲は『朽ちゆく薔薇の香り』。ちょっと物悲しい、けれど気高い雰囲気の曲。

 はじめての共同作業がセッションだなんて、なんかおしゃれだ。

 音を鳴らしながら、たまにアイコンタクトを取る。

 いい感じね。もっとゆっくり。こうかしら? いい感じ。

 そうして私達二人は心行くまで演奏を楽しんだ。


「部分型ゴーレム、うまく行きそうよ」


 ガリィは演奏を終わらせてのんびりしている時間にそう切り出した。


「早いね。もう出来そうなんだ」

「元々の理論があるもの。あとはそこに手を加えるだけ。といっても、マリーが考えてくれなければ、とてもじゃないけど思いつかなかったけど、ね」


 ウィンクを一つ、こちらに投げつけてくる。私は微笑で返した。


「ゴーレムが代わりにやってくれれば、人間が楽できていいと思ってゴーレムの改良ばっかり考えてたけど……やっぱり人間がやりたい事もあるものね」

「そうだね」

「演奏もいい気晴らしになったし、またこれで頑張れるわ」


 そういえばトランプとリバーシについてはまだ話してなかったな。ちょっと話しておこう。


「私の知ってる遊びを出入りしてる商人に教えたよ。お金出して広めるように言いつけた」

「あらそう、楽しみね。アタシとも遊んでくれるんでしょ?」

「もちろん」


 そう言うと、ガリィは楽しそうに笑った。


「まだ出会ってそんなに経ってないのに、アタシこんなにアンタに振り回されてる」

「いや?」

「まさか。とっても楽しいわ」


 それはよかった。


「マリーはどう? なにか不便な事とかない?」

「まったくない。食事も美味しい」


 いや本当。さすが貴族って感じ。でもいくつかこんな料理がいいってリクエストは出せるかな? ってくらい。

 あ、パンは元から白かったよ。柔らかい。誰か思いついたんだろうね、凄いね。


「……人間関係大丈夫? 結局、ユリンだっけ。あの娘くらいしかついてこなかったじゃない」


 みんな尻込みしちゃったんだよね、ガリィが変態伯爵ってイメージ持たれてたから。ユリンだけは絶対に自分が私を守るって言ってついてきた。


「一人だった時期が長いから大丈夫」


 そう、学園では私は一人だったと言える。マギス先生とか、一部の先生とは仲が良かったかもしれないが、同級生と仲良くってのは出来なかった。


「そう……アタシもよ。こんな口調だとどうしても、ね」


 私達は似ているのかもしれない。魔女と呼ばれ、孤独だった私と、オネエ口調で、人から理解されないガリィ。


「でも、これから私達は二人一緒にいる」

「そうね、二人一緒! 約束よ!」


 嬉しそうに話す彼を見て、こんな約束のきっかけになったピアノに感謝する。

 ピアノを一撫ですると、ガリィが切り出した。


「さあ、もう一曲奏でましょう? 曲は……『バドの比翼連理』」


 それは晴れやかな空を飛ぶ鳥の歌。約束の歌。

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