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4.談話室にて。これまでの事とこれからの事

 男の人の肘のあたりに手をやるエスコートは二人の身長差を理由に断念。ガリィと手を繋いで屋敷の中へ。

 談話室で二人並んでソファに座れば、バルトロメオ家のメイド達がお茶の準備をしてくれる。

 といってもそれをしてくれるのはうちからここまで連れてきてくれた四人ではない。彼女達は長旅で疲れてるだろうから休憩だそうだ。他のメイドである。

 さすが伯爵家。人材が豊富だ。


「ガリィ」

「なに?」

「私が婚約者でいいの? ちんちくりんで暗い女は嫌いだってはっきり言ってもらっても構わなかったんだけど」

「自己評価低いわねえ……それを言ったらアタシだってこんなんだし、マリーも嫌じゃない?」

「別に。オネエなだけなら無害だし」

「オネエ?」


 やっぱりオネエという概念が無いのか。社会にオネエが浸透する前に生まれた、最先端の存在がガリィなのだろう。


「オネエ様。みたいな感じなのかな。よく分かんない」

「ふふ、何それ。アンタが言い出したんじゃない。でもなんかいいわね、オネエ様って呼ばれ方」


 用意されたお茶に一口手を付けて、ガリィはぽつりと言う。


「本当はね、結婚なんて諦めてたのよ。アタシ、マリーの言うところのオネエってやつみたいだから」


 そう言って、彼は語り始める。


「アタシのゴーレム研究が軌道に乗り始めた学生時代。周囲は婚約者作りに勤しんでたわ。アタシは自分の事で手一杯で、婚約者なんて作ってる余裕は無かった。気付けば卒業で、気付けば瑕疵物件扱い。

 とはいえそれは間違いじゃなかったんだけどね。当時からこんな喋り方だったし」


 うーむ、他人事とは思えないな。どうやって生物をぶち壊してやるかを考えてた自分の学生時代を思い返す。


「でも、研究は捗ったのよ。おかげで領地を発展させることができて、伯爵を継げた。まあアタシもなんだかんだ男だし、それから婚約の話も出なかった訳じゃないの」


 貴族も瑕疵物件同士で傷の舐め合い……なんてのも無くは無いからね。とはいえ、問題があるから売れ残りなんだけど。


「でもやっぱりアタシはこんなんで。伯爵って名前に釣られてきた女の子達もアタシの喋り方を聞くと引いちゃうの。分かってることだったけど、結構傷ついたわ。だから結婚は諦めてたんだけど。マギちゃんが言うのよ。柔軟な発想の女の子がいる。試しに会ってみないかって。それがアンタ」


 満面の笑みで、隣に座る私を見る彼の姿はこっちが恥ずかしくなるくらい嬉しそうで。


「婚約してもいいって言ってくれた時、アタシがどれだけ嬉しかったか、きっと分からないわ。だけど、それでいい。

 アンタはアタシを認めてくれた。それが事実よ。だからアタシはマリーを愛する事に決めたの」


 そう言うと、私の小さな指先を取ってキスをする。

 私の返事としては。


「愛されるだけではいられない」

「マリー?」

「今は婚約だけど、いずれ結婚する。そうすれば伯爵夫人。ともなれば、この領地をガリィと発展させる義務がある」


 ただ愛されるだけで満足なんて、そんな事は言わない。


「私には魔力を持つものを中心に、破壊する魔法を使い磨いてきた。魔物はこれで倒せるから領民を守る事はできる。悪人の処刑もできる。色々と領地を発展させるヒントを持ってる自負もある」


 これは日本にいた時の知識を活用しようという訳だ。貧乏領地の男爵家では出来なかったあれこれも、伯爵家の潤沢な資金があれば出来るかもしれない。


「お茶会は……頑張る」


 これは一番自信が無い。根暗な性格は前世からだと思うので筋金入りだから。人と話すのは得意じゃないのだ。


「無理はしなくていいのよ。アンタがいてくれる。それだけでアタシは百人力なんだから……とはいえ、気になるわね。うちをより発展させる方法を何か思いつくものかしら」


 よくぞ聞いてくれた。とはいえ、これはもうあるのかもしれないけど。


「バルトロメオではゴーレムが盛ん。この屋敷に来るまでも何度か見た」

「ええ」

「でも、ゴーレムは全身でしか活用していなかった。部分的に活用することも出来るはずなのに」

「ゴーレムの……部分? それじゃ動かないわよ」


 そうではない。そうではないのだ。


「例えば、足が悪い人を補助するための足腰ゴーレム。手を骨折した人に装着する腕ゴーレムといった医療用の使い方もできるはず」

「っ! なるほど――全身あってこそだと思ってたけど、そういう使い方ならゴーレムのコストも下がる。マギちゃんが言ってた柔軟な発想ってこういう事なのね」


 まあ、パワードスーツから着想を得てるだけなんだけどね。


「怪我した芸術家も、これで復帰できるかも? ここは芸術家がたくさんいるって聞いた」

「素晴らしいわ! 早速研究を……あっ、マリーを放置していくわけにはいかないわよね」


 そういって苦笑するガリィ。うーむ、足枷にはなりたくないな。


「大丈夫。ここの芸術品見てる」

「あら、そう? 悪いわね。人をつけるから色々聞くといいわ」


 そう言うと、テーブルの上に備え付けられたベルを鳴らす。

 すると、白髪でナイスミドルな執事服の男が談話室に入ってきた。


「お呼びでしょうか、ご主人様」

「ええ、マリーにうちの美術品を説明してあげてくれる?」

「かしこまりました。まずはこの部屋のものからでよろしいでしょうか」


 そう、この談話室にも話のタネにする為なのか、いくつもの絵画や彫刻といった様々なものが置かれていた。


「そうね、そうして頂戴」


 そんなわけでとんとん拍子で話が決まったのだが……生憎私は授業で習った程度の教養しかないので芸術品の細かい説明とか聞いても楽しくないのだ。

 知ってか知らずか、いくつかの品を紹介してくれたところで雑談に移ってくれた。


「お嬢様は、ご主人様の何が良かったのです?」

「……優しいところ?」

「とはいえ、あの喋り方ですよ」

「個性の範疇」

「お嬢様は懐が広くていらっしゃる」


 そう言って苦笑する執事は、こう言うのだ。


「ご主人様に婚約者が出来る日が来るとは思いもしませんでした」

「あの喋り方、そんなに駄目?」

「貴族は完璧であってこそですからね。少なくとも、直せる部分を直さない貴族は怠慢だと思われます。あとあの見た目で女性の喋り方なのは普通に嫌です」

「普通に嫌」


 手厳しいなこの男。でもこの世界でのガリィの評価はそんなものなのかもしれない。


「領主としての実力があるから、あれでもギリギリ許されているわけでして。屋敷のものもまあなんとか許容してますが。なにかしらもう一つ問題があれば離れていく者も出るかもしれません」


 なるほど。今はアウトのラインとセーフのラインの中間にいるわけだ。


「……お判りになっていないかもしれませんが、そこには選んだ婚約者の選択も含まれているのですよ」

「え?」

「婚約者を選ぶ目が曇っているともなれば、見限る者も出るかもしれないという事です。例えば、相手を若さだけで選んでいるとか……」


 なるほど。そういう趣味だと思われるのは瑕疵だろう。なにせこちらの見た目は十歳の頃から五年間ほぼ変わってないロリボディだ。性癖歪んでるとか思われるのも仕方なし。


「貴方の名前は?」

「セバスと申します」

「そう、セバス。貴方は自分の主人をただの変態だと思ってる?」

「まさか。有能な変態だと思っていますよ」


 冗談なのか本当に好感度がそんなものなのか。どちらにせよそんなに敬われていないのか。


「そう……」

「お嬢様のところのメイド、ユリン様と申しましたか。彼女からお聞きしましたが、お嬢様は大層優秀な魔法を使われるとか」


 破壊専門だけどね。


「どうです、うちの領地のダンジョンにでも潜りませんか。そこで魔物を大量に処分する実力を見せればご主人様は実力で婚約者を選んだと内外に示せましょう」


 なるほど、それが言いたかった訳だ。今までのは単なる挑発だな?

 乗ってやろうじゃないか、その作戦に。

 魔物退治は貴族の義務。やって悪い事は無い。


 ダンジョン、それは魔物が生まれる場所。魔物だけではなく、宝物や素材なんかも発生する謎の場所。ここで発生した魔物が溜まると外に出て、活動するようになる。

 逆に言えば、ダンジョンさえきちんと処理できれば戦えない平民が犠牲になる事は無い。

 とはいえ、貴族もダンジョンにずっと張り付いてられるほど暇ではないため、冒険者なんかがいくらか狩りをしていたりする。


「セバス、ダンジョンに行くからついてきて。そしてその目でガリィが選んだ婚約者がどれだけ強いのか見定めて、そして屋敷の者にも教えてあげて」

「畏まりました」


 恭しく礼をするセバス。

 割と狸だなとは思うし乗せられてるのも分かっている。でも、ガリィの足を私が引っ張るんじゃないかという恐れはもっと怖い。


 名も知らぬ下男や侍女。メイドにセバスを引き連れて、私は馬車でダンジョンに向かう。

 滞在時間およそ一時間という短さでバルトロメオの屋敷を出て、出発した。

 さあ、屋敷の皆よ。私がただのロリガキでないと教えてあげる。

 そして、セバス。あなたが挑発した相手がどれほど恐ろしいか見せてあげよう。

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