今日は何の日?
朝食のテーブルについたら王子がソワソワしていた。結婚して一年経ったのに、相変わらず落ち着きの無い。
一瞬、
トイレかな?
って思ったけど流石に違うだろう。どれだけ犬っぽくても王子は人間だ。それもいい歳の。
でも、じゃあ何だろう?
わからなくて首をひねる。
何というか、期待のこもったキラキラした視線を向けられている。
厨房で骨からスープを取った日に愛犬のクーが向けてくる視線に似ている。クーはスープを取り終わった後の、あのでっかい骨を齧るのが大好きだ。
でも今はそのスープの匂いはしていない。というか今は朝だ。仕込みにはまだまだ早い。いや、そもそも王子に骨を齧る趣味はない…筈だ。
うーん、わからない。
サクッと諦めてターニャを呼んだ。わからない事は人に聞けばいい。
近づいてきたターニャに顔を寄せる。
「王子の様子が変なんだけど、何か知ってる?」
ひそひそと囁くと、ターニャは小さく顎を引いた。
「少し調べて参ります」
ススっと、ターニャが裏に姿を消した。
よし、これでオッケー。
直接聞けばいいのかもしれないけど、王子からは何となく「察して欲しい」オーラが出ている気がする。
正直そういうのは面倒くさいのだけれど、できれば王子を喜ばせたいとも思ってしまうわけで。
………私もそれなりに王子にメロメロなのだ。
それに王子のことは、周囲の人に聞けば大抵わかる。私の王子はわかりやすいから。
きっとターニャが答えを見つけてきてくれる筈だ。
「き、今日はいい天気だな!」
ターニャが部屋から出て行くと、王子が挙動不審に話しかけてきた。
外を見る。
雨が降っていた。
まあ、雨も嫌いじゃない。
今日くらいのシトシトした雨は、音もなかなか落ち着くし。
あと微妙に湿気がある感じも好きだ。
「そうですね」
頷いてサラダにフォークを刺した。
炙った肉のカケラとカリカリの小さいクルトンが、たっぷりの葉野菜に乗っている。ドレッシングはシンプルに塩と植物油だけど、めちゃくちゃ美味しい。
素材がいいって事なのだろう。
野菜も肉も良いけれど、特に油が良いのだと思う。
うちの領地は、この植物油の生産が盛んだ。ただし品質に結構ばらつきがある。
領主館に届くのは一番良いやつらしくて凄く美味しいのだけれど、街で食べるとそうでもない。その所為か、あまり領外に良さが伝わっていない気がする。私もこの領地に来るまで聞いた事なかったし。
それをもう少しこう、どうにかしたい。等級管理とか使い道とか何かしらでプッシュしたら、他領との取引材料になる品になりそうな気がするんだけど…。
考え事をしながらモグモグ食べていたら
「今日は…何か予定はあるのか?」
と聞かれた。
朝の着替え中にターニャに確認したところ、外出の予定も来客の予定もなかった。
「特にありませんよ」
答えて何気なくそちらを見ると、王子の前の皿はほぼ手付かずだった。
どうしたんだろう?らしくない。
「具合でも悪いんですか?」
眉を寄せた私の視線に気づいて自分の皿に目を落とした王子は、慌てて首を横に振った。
「いや、そんな事は無いぞ!」
そして勢いよくパクパクと食べ出したので、ちょっと安心する。
ならいいんだけど。
私も自分の食事に戻る。
朝は基本、サラダとスープとパンと卵料理だ。王子はそれに肉が付く。肉は重いので、私は朝には食べない。
王子はソーセージをナイフで切って着々と口に運んでいる。厨房で作られている、ハーブ入りの美味しいやつ。
うん。無理して食べてる感じはしないな。
夫の健康管理は妻の務めだ。
少し挙動不審ではあるけれど、今日も元気そうな王子を眺めながら朝食を終えた。