【ガモーの提案(Mr. Gamo's suggestion)】
「有り難うございました」
栗林会長との面談は、失意のうちに幕を閉じた。
僕は何のためにサラを連れてワザワザ日本まで来たのだろう。
サラに今日の事を何と話せばいいのだろう。
やはり僕は間抜けだ。
エレベーターで1階まで降り、来たときに使った待ち合い用のソファーに座り込み、項垂れる。
「どうでした?」
項垂れた青白い僕の顔を見れば、内容はどうあれ今の失意は分かりそうな物なのに蒲生が肩をポンと明るい声で叩いてきた。
正直に僕は来るべきではなかったことを彼に告げると、彼から意外な言葉を返されて驚いて顔を上げた。
「メェナードさん、ホンマによう来て下さりました。ようサラお嬢様を助けて下さいました。会長もさぞ喜んでおられた事でしょう」
「でも僕は……」
栗林会長から聞いた話を蒲生に打ち明けると、彼は優しく笑ってくれた。
「八つ当たりでんな」
「八つ当たり?」
「そう、八つ当たり。考えてみて下さい。SISCONは情報を頼りに沢山の情報を搔き集め、それを分析して物事を良い方向に進ませるための努力をする。それに対してアンさんのPOCの初動は早い。もしもサラお嬢様の御両親が亡くなられた事件がPOCの内部抗争が原因だとしたなら、我々SISCONが気付いた時には、もう付け入る隙は無いでしょう。下手に動けばサラお嬢様自体が消されかねない」
確かに蒲生の言う通りだと思った。
もしあの事件がPOC内の強硬派の仕業だとすれば、両親の人間関係を追うためにサラは見張りを付けて泳がされていた事だろう。
関係者なら必ずサラの保護に駆けつける。
だから誰もサラを助けることが出来なかった。
「しかし、僕はサラを引き込んでしまった」
「さあ、そこもよう考えてみなはれ。アンさんがサラお嬢様の有能さを見い出していなかったら、お嬢様はどうなりました?」
事件から7年が過ぎ、その間誰も彼女を助けに来なかった事実を考えると、これ以上見張っている価値はもうない。
逆に頭脳明晰で好奇心旺盛なサラの事だから、両親の事件に気付き、自分で調べ始めてしまうかも知れない。
そうなれば……いや、そうなる前に事件を闇の中に隠すため、囮としての価値が無くなり新たな脅威になる前にサラは消されたかもしれない。
「アンさんが、サラお嬢様の有能さを本部に確り伝えたからこそ、お嬢様は組織内にいる悪者も手を出す事の出来ない存在になったんと違いますやろか」
「じゃあ、いずれサラは……」
「いつになるかは分かりまへんが、サラお嬢様が御両親の成し得なかった事を実現できたとき、必ず迎え入れられることでしょう」
僕も本当にそうなると思う。
サラなら確実にやってみせることだろう。
……しかしナトーはどうなる?
栗林会長は、彼女の事を“殺人鬼”だと言った。
「ナトーお嬢様がホンマにグリムリーパーやったかどうかは、まだ確実な証拠もないので確定した状態ではありません」
「もし、グリムリーパーであることが確定してしまったら、どうなる? やはり彼女は見捨てられるのか?」
「そうならないために、ナトーお嬢様には我がSISCON内随一のエージェントを付けています」
「柏木サオリか」
蒲生は僕が口にした名前をスルーして続きを離した。
「ナトーお嬢様がグリムリーパーとは何も関係が無ければ、直ぐにでも迎え入れられる事でしょう。しかし、もしその正体がグリムリーパーであるとしたならば、かなり難しいでしょう」
「でも、子供だったんだぞ!」
「子供だとは言え、戦場で300人前後の人の命を奪った事実は重いです」
「何故!?第2次世界大戦で広島や長崎に原子爆弾を投下させた関係者は誰も処罰されていない! 広島では15万人、長崎では7万人がこの爆弾で亡くなっているにも関わらずだ! ましてグリムリーパーのしたことは戦争犯罪でもなくただ単に狙撃を行ったに過ぎない。元アメリカ海兵隊員クリス・カイル曹長は160人以上を射殺して英雄と言われ、映画にもなった。なのに何故グリムリーパーは殺人鬼などと言われなければならない? 何故戦場で活躍したことが罪になる?」
「全ては立場の違いです。勝った者と負けた者の。更にマズい事にナトーお嬢様がグリムリーパーだとした場合、在籍していたのはイラクの正規軍ではなくザリバンと言う反政府テロ組織だと言うことです。つまり軍人ではなく単なる民間人となりますから、人を殺す事自体が犯罪とみなされます」
「もし、そうだとしたならどうなる?」
「まあ終身刑は避けられないでしょうな。だから、そうならないために最高のエージェントが付いています」
「事実を消すと言うのか!?」
「まさか、罪を償わさせるのです。誰もが納得いく形で」
「そんなことが出来るのか?」
「結局は、本人次第なのですが、ナトーお嬢様なら屹度やり遂げると思います」




