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【隠し事(Hiding things)】

 その日は鬼怒川温泉に泊まり、翌日サラは横須賀に海上自衛隊とアメリカ海軍の訪問に、僕は東京の商社を訪問することになり浅草の浅草寺をお参りした後に分かれた。

 向かった先は都内にある大手総合商社“東亜東洋商事”

 ここはSISCONを支援している栗林会長の会社。

 何故POCと敵対するSISCONの栗林会長を訪問する事になったかと言うと、それはサラと深い関係がある。

 サラと、その妹である可能性の高いナトーの親、アンドリュー・ブラッドショーと、その妻であるナオミ・ブラッドショーは警察や軍の操作の結果で偽名とされている。

 偽名が確定するには大きく2通りのパターンがある。

 ひとつは戸籍上、存在しない名前である事。

 もう一つは、その戸籍に同一人物がいる場合。

 サラの両親の場合は後者にあたる。

 つまり彼等の使用していた戸籍には、既に同姓同名の別人が暮らしていたのだ。

 僕はグリムリーパー暗殺作戦が行われる前に、イギリスにある本社に呼び出されてサラには内緒でグリムリーパーの捕獲作戦を命令された。

 そのことは後日、サラには話したが、実は話していないことがもう一つある。

 それはサラの両親のこと。

 イギリスで気になって調べたところ、サラの両親が偽名とされる証拠になった2人が、その事件の数年後から所在が掴めなくなっていると言うこと。

 これは仮説に過ぎないが、元々サラの両親でない方のアンドリューとナオミは実際に存在しない、つまりこっちのほうが何かの目的のため偽名を使っていたのではないかということ。

 事件が終わったのちに居なくなったのは、もう役目が終わったからか、口封じのために消されたかのどちらか。

 いずれにしても我が社の強硬派と言う奴等なら、このくらいの事はやりかねない。

 サラの両親が何者であったか分からない以上、彼等が何の目的の為に何をしたかを特定する事は困難になる。

 でも、この事はしばらく僕の頭の中で“結果”として既に処理されていた。

 サラの両親が何をしようとしていたか分かったとしても、政財界に強力なパイプを持つ我が社なら、たった2人の人物の記録など簡単に抹消されてしまうだろう。

 更に、それを探ろうとしていることが上部に見つかれば、僕だけでなくサラにも迷惑が掛かってしまうのだ。

 だから僕は忘れたことにしていた。

 しかしここに来て、どうにも忘れたまま放置できない状況になって来た。

 そのカギがナトーの調査で浮上した、柏木サオリと言う人物の存在。

 表向きは赤十字の医師と言うことになっているが、彼女にはもう一つの顔がある事が判明した。

 SISCONの疑いのある柏木サオリを調査しているうちに、彼女が東亜東洋商事の社長室長と言う別の肩書を持っている事と、頻繁に栗林会長にコンタクトを取っている事実が分かった。

 捜査線上に現れた栗林会長を調べていると、彼の亡くなった奥さんがハーフであることが分かった。

 サラのお母さんは金髪だが目はブラウンと言う特徴を持ち、名前は日本名に多いナオミ。

 突飛な発想だけど栗林会長夫妻に娘が居たとしたらと思い、調べて見ると夫妻には直美と言う一人娘が居たことが分かったが、直美はアフガニスタンで不慮の航空機事故に遭い死んでいる。

 ところがその直美が死んだとされるアフガニスタンに、まだPOCにスカウトされる前の棒は海兵隊員として赴任していて、偶然その事故現場に一番に到着したのは僕の分隊だった。

 だから知っている。

 その事故の被害者の中に金髪の女性は居なかった。

 サラのお母さんであるナオミは事故にあってはいない。

 事故を境に栗林直美がナオミ・ブラッドショウにすり替わったとすれば納得がいく。

 SISCONと言う組織は情報網がずば抜けているから、そのSISCONと深くかかわっている東亜東洋商事の栗林会長がその事を知らないはずはないし、そのことは遺体の一部でも確認できれば分かる事。

 栗林会長が娘の無事を知っていたのは間違いない。

 しかしサラの両親が亡くなったイラクでの爆弾テロでは勝手が違った。

 既に娘である栗林直美は死んだことになっているので、手出しができない。

 しかもこのテロは、表向きは反体制派過激組織ザリバンの仕業となっているが、POCの内部抗争によるものと言う情報もあった。

 迂闊に自らが動けば、孫であるサラにも危険が迫る可能性もあった。

 それだけ当時は緊迫していた。

 僕は知らなかったけれど、既にサラはPOCの監視下に置かれていたので手を差し伸べることが出来なかった。

 だから残ったナトーの捜索を全力で行っていたに違いない。

 そこで思いついたのが、この日本旅行。

 サラは優秀でPOC内での評価も高い。

 しかも仕事熱心。

 サラが日本に行くと言う情報は、直ぐにSISCONの情報網に察知され、栗林会長の知る所になる。

 もしも僕の推察通り、栗林会長がサラと関係がある人物であれば彼は……いや彼が動かなくても必ず彼の周囲にいる誰かが動くはず。

 だから栗林会長との面談を許されたのだと思う。

 そうでなければPOCの幹部でも幹部候補生でもない下っ端の僕が、彼との面談を許されるはずがない。

 この面談が許されたことそのものが、栗林会長とサラに何らかの関係があることを物語っている事実。

 おそらく箱根と江戸村に現れたあの男も関係者に違いない。

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― 新着の感想 ―
[一言]  なんだか面白い事になって来ました。  ここでこの話が出て来るとは、思いませんでしたよ。  メェナードさん、いつもはほのぼのとしているけど、やる時はやる人なんてすよね。  次話が楽しみです。…
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