【江戸村(Edo Village)】
250年以上も戦争のない世界を築いた江戸幕府が終わり、それまでの日本文化を壊してまで西洋の文化を取り入れた日本が明治から昭和の第2次世界大戦敗戦までの僅か80年足らずで国内外で幾多の大きな戦争を起こしたことは言うまでもなくこの国の指導者たちの失態に他ならない。
なのに日本では、この時代を作ってしまった創始者たちを“維新の革命児”と英雄視している。
彼等がもし西洋人に唆されずに。
江戸幕府を倒そうとしなければ。
日本はどのような時代を迎えていたのだろう?
やはり産業革命の渦に呑み込まれて明治政府と同じ道を辿ったのだろうか?
それとも、敢えて緩やかに近代化に向い他国に干渉しない江戸幕府の基本方針である戦争の無い世界を貫き通すことができたのだろうか?
時代にIFは通用しないが、このIFは現在の日本をとてつもなく大きく変える分岐点になったことは間違いない。
日光東照宮の参拝を終えたあと、江戸村と言うアミューズメントパークに行った。
この施設は、名前の通り江戸時代を再現した施設。
日本の家屋は、すべてが木造建築でお城や寺社仏閣以外には基本的に2階建て以上の建築物は殆ど存在しない。
中世ヨーロッパのような石造りやレンガ造りの背の高い建造物は街にはほぼ無いから、空や山々などの自然の景観がより奇麗に見える。
もっともこれは景観の為ではなく、日本で頻繁に起こる地震への備えと言うものも大きいのだと思う。
石造りやレンガ造りの場合、一見頑丈な建物に見えるが、地震が起きた場合直ぐに崩れてしまう。
日本の木造建築は地震と言う災害時に起こる揺れの力を分散させるために釘で柱を固定する方法は取らなくて、全ての柱の組み合わせはそれぞれの柱に施された凹凸を組み合わせ、そこに鎹と言う巨大なホッチキスの針を打つことによってワザと柱同士が動ける余裕をこしらえているのだ。
奈良にある法隆寺は1300年の歴史を誇るが、これは特別な存在ではない。
他にも日本では1300年近い歴史を誇る建物が多く残っている。
これは奈良時代(710年-794年)に全国に建てられた国分寺があるからで、この時代から既に日本では耐震構造と言う概念が全国に浸透していたのだから驚くべき文化力だ。
しかし欠点もある。
木で出来ている以上、火に弱い。
第2次世界大戦でアメリカ軍は自国内に日本式家屋を沢山作り空襲による有効性を研究した結果、欧州で使用していた火薬による爆弾などは殆ど効果が無い事が分かり、熱による火災を目的とした焼夷弾を発明して使用した。
「ねえ、折角だからコスプレしない?」
「コスプレ??」
サラが指さす建物を見ると“変身処”と書いてあった。
中に入ると様々な衣装が用意されていて、僕は同心と言う江戸時代の街警察の衣装を着た。
女性用のメニューを見ると、花魁と言う華やかな芸者やお姫様の衣装もあり、サラがこのどちらを選ぶのか楽しみだった。
花魁を選んだなら――。
日本髪のカツラをかぶり、派手で煌びやかな衣装を着たサラ。
元々派手で目立ち過ぎる容姿のサラがこの衣装を着ると、もう殆どラスボスになってしまうだろうな……。
お姫様を選んだなら――。
上品で落ち着いた美しい着物に包まれたサラは、まさにジャニーズ・プリンセス!
だけど、どちらかと言うとサラには戦国時代の戦うプリンセスの方が似合いそう。
町娘や武家の娘というのもアリだぞ。
なにしろサラは着物が似合うから。
サラがいったいどんな衣装を着て出て来るのか楽しみ待っていると、その期待を更に超えてしまったサラが登場した!
しかも一瞬驚いてしまった僕よりも早く、サラが僕に言ってくれた言葉は一生の宝物にしたいくらい僕に感動を与えてくれた。
その言葉は「キャーッ! メェナードさん素敵‼」だ。
僕なんかテキトーに選んだだけで、髪の毛だって薄いオジサンなのに褒めてくれるなんて、やっぱりサラは本当に好い子だ。
「サラの方が凄いよ! まるで日本版ジャンヌ・ダルクみたいじゃないか!」
サラが選んだのは女剣士。
派手な花魁姿にならなくても、綺麗なお姫様用の衣装を着なくても、充分サラは派手で綺麗だ。
だから、ありきたりの紺色の和服にグレーの袴を着ただけでも、派手で綺麗。
いや、着ているものがありきたりなだけに、余計にサラの外見的特徴が際立ち、しかも内面の良さも浮き上がって来る。
まさに、最高のチョイス!
江戸村では芝居見物をしたり和弓や手裏剣の体験をしたり和食を食べたりしたが、箱根の時と同じ様にその所々でサラは多くの人たちに写真をせがまれていた。
そして、その中に僕の目的の人物が手配した男も潜んでいた。




