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【中学受験と妹の消息(Junior high school exam and sister's fate )】

 オートバイを走らせるには、数々の手続きが必要になる。

 ナンバープレートの取得と車両登録証から、運転免許証が無ければ乗る事は出来ない。

 これらのものは国によって発行されるもので、当然ある一定の年齢をクリアしないと許されない。

 当然、小学生の私では無理だ。

 だから、それらの物全てのレプリカを作成しなければならなかった。

 ナンバープレートは薄い鉄板に木を彫って作ったプレス加工に使う上治具と下治具を作って何度も叩いて型を作り、ペンキで仕上げるだけで本物と寸分違わないものが出来たし、車両登録書は普通の紙に印刷された物だったので簡単に作成できた。

 問題は運転免許証。

 先生の運転免許証を見せてもらったが、とても簡単に偽造できるような代物でもない。

 そこで外国人ジャーナリストを見つけて国際運転免許証を見せてもらった。

 こっちは紙ベースで何とかできそう。

 国際運転免許証を持っていると言う事はパスポートも必要となるが、これは既に持っていたので、写真や年齢に偽造を加えるだけで済んだ。

 サラ・ブラッドショウ18歳!

 6つも歳をサバよんだ。

 6つ……。

 4歳年下の妹、ナトーは丁度8歳。

 生きていたとしたら、いまどの様に暮らしているだろう?

 幸せに暮らしていればいいのだが……。


 試験当日の早朝。

 ついにラマーディーに出発する日がやって来た。

 午前4時、孤児院を抜け出して出発。

 学校の受付は8時開始だから、充分余裕がある。

 まだ暗い道を進む。

 早く出たのは、ラマーディーにアメリカ軍の基地があるため。

 バングラデシュとラマーディーを結ぶこの道では、毎日のように戦闘が行われていた。

 戦闘に巻き込まれれば、受付時間に遅れてしまう可能性もある。

 午前7時。

 早く出たのが功を奏し、戦闘に出くわすことなく無事試験会場に到着して、受付を済ませ試験をして面接をして帰途に就いた。

 試験内容にも面接にも特に何かを思うような事も無く、ただ“済ませた”と言うのが感想。

 所詮小学校卒業予定者を対象とした試験は馬鹿馬鹿しくって付き合っていられないレベルだったし、面接についても両親が亡くなって身寄りがない中でまともに生きていくためには学問と確りした宗教心を身に付けなければ……な~んて、心にもないことを神妙な顔で言っていたら面接の先生が涙を流していたわ。

 本当は泊まれる場所と中高の学歴をタダで手に入れることが目的なだけ。

 でも、それを言っちゃあ、お終いよ。

 結果の通知は後日郵送されるとの事で、ようやく身柄を解放されたのは午後4時を回った頃。

 実に8時間もこの退屈しか存在しない空間に閉じ込められていたと思うと、ぞっとしてしまった。

 駐輪場に置いていたオートバイを押し掛けして飛び乗り、その日は何事もなく午後7時にはバクダッドまで戻る事が出来た。

 とりあえず、これで一件落着。

 進学なんて私にとってどうと言うことは無い。

 試験を受けてから3日後には、ラマーディーの学校から手紙が来ていた。

 丁度オートバイで市内を巡回しに行くところだったので、封筒は開けずにポケットに捻じ込んで出発した。

 妹が生きていたとすれば今は8歳になっている。

 8歳と言えば、小学校2年生。

 各地域の小学校を周っては、妹の消息を聞いていた。

「右目がエメラルドで、左目がアクアマリンの白人の少女を探しているのですが知りませんか?名前はナトーと言います」

「さあ、うちにはそういう子は居ないねえ」

「右目がエメラルドで、左目がアクアマリンの白人の少女を探しているのですが知りませんか?名前はナトーと言います」

「オッドアイの女の子かい!」

「居るんですか!?」

「まさか、そんな猫の親戚みたいな目をした子なんて、うちの学校には居やしないよ。居たらお目に掛かりたいくらいだよ。さあさあ、忙しいんだから帰って頂戴」

 オートバイのおかげで捜索範囲は広がったが、それでも何の結果も出ない。

 “妹も、やはりパパとママと一緒にあの事件で死んでしまったのだろうか……“

 ラッシュディヤ地区の捜索を終え、チグリス川対岸のバダッド・アイランド・パークを眺めながらパンとミルクを食べる。

 この6年間で、バクダッド市内9区の公共地域にある幼稚園、保育園、託児所、それに小学校の全てを周り終えてしまった。

 目撃情報もなく、本当に何の成果も無い6年が過ぎた。

 中学になったらカミアやザーなどの郊外を周るつもりだけれど、時間だけが過ぎてしまう気がして辛い。

 ポジティブなつもりでいたが、今日はすっかり疲れてネガティブになってしまった。

 “はあ”

 溜息を吐き出したとき、ズボンのポケットに入れていた合格通知の入った封筒をまだ開けていないことに気が付いた。

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