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【陸上自衛隊富士駐屯地に行って(Go to the Ground Self-Defense Force Fuji station)】

 この旅館には各部屋に露天風呂が用意されている。

「ねえ、メェナードさん」

「んっなに、サラ」

「お酒を持って、露天風呂で飲んでみない?」

 一緒に縁側の籐椅子に腰かけて日本酒を飲んでいたメェナードさんが、急に咽て咳をした。

 まあ、普通は驚くよね……。

「私、先に行っているから」

 メェナードさんの返事も待たずに日本酒と御銚子を持って、離れにある露天風呂にフラフラと向かった。

 脱衣所で浴衣を脱いで、お湯に浸かる。

 ヒノキの桶に半分ほどお湯を入れて、そこに徳利を乗せて浮かべる。

 お月様が奇麗な夜。

 このまま狼に変身しちゃいそう。

 しばらくするとメェナードさんがやって来た。

 タオルで前を隠しているけれど、あきらかにパンツを履いているのが分かる。

 私の誘いを断らず、それでも私の事を大切に思ってくれているのが嬉しかった。

 もう私は処女ではない事は前に話したのだから、ヤル気満々で来てくれても構わなかったのに、相変わらず“紳士”

 でも、そういう所が大好き。

 いつまでも、一緒に居たいのに……。

「お風呂でお酒を飲むと悪酔いしないかい?」

「大丈夫よ。アルコール度数はワインとほぼ同じだから」

「そうか、なら僕も頂こうかな」

「見て、お月様がとっても綺麗よ」

「本当だ!」

「……今夜は狼に変身しても、いいよ」

 私の言葉に、メェナードさんがまたむせた。


 最近サラは時々意味不明と言うか、大人を揶揄からかっている様な行動を取る事がある。

 仕事の時は相手が男性の場合や、気にいらない時にそういう態度に出る事は子供の時分からたまにあった。

 この旅行中でも寝ているときだけど飛行機の中で僕の手を抱いて寝たり、カプセルホテルでは何度も呼び出したり、さっきも芦ノ湖でふざけて転びそうになったりこの露天風呂に僕を誘ったり。

 相手が僕だから良い様なものの、他の、特に肉食系の性欲盛んな男たちの前でこの様な事をすると危険な事は分かっているはずなのに。

 今も僕を露天風呂に誘って……。

 もちろんサラの事だから裸ではない事は分かっていた。

 案の定水着を着ていたが、他の男性を寄せ付けないのに、僕の前では余りにも警戒心がなさ過ぎる。

 僕を家族だと思ってくれているのは有難いし、僕も幼い時に家族をなくしたサラの為にも家族であってあげたいと思っている。

 だけど僕だって“男”。

 そこのところを少しは分かっていて欲しい。


 布団はふすまを挟んで別々の部屋に敷いてある。


 いつも寝つきのいい私が、メェナードさんの事が気になって


 いつも寝つきのいい僕が、サラの事が気になって


 なかなか眠れない夜を過ごしていた。



 翌日は陸上自衛隊富士駐屯地に行って、演習を見た。

 世界で2番目に価格の高い10式戦車。

 当然、これには“生産台数”が影響する。

 各国の主力戦車が60トン前後の重量がある中で僅か44トンの車体に同じ攻撃力と防御力を持たせるだけでなく、最新のC4Iシステムを搭載し指揮・射撃・危険度・損害などの戦場にあるあらゆる情報を部隊内で共有できる。

 その他にも、これは重要機密事項なのだが対特殊部隊や市街戦を想定した歩兵による携行対戦車ミサイル防御や、敵が歩兵である場合の戦闘システムも組み込まれており、まさに“走るコンピューター”と言っていいほどシステムは充実している。

 また射撃管制装置は他に類を見ない程優秀で、狙った獲物は逃さない。

 しかも相手は戦車だけでなく、低高度を300km/h近いスピードで飛ぶ攻撃ヘリをも撃ち落してしまうほど精度が高い。

 中でも私が特にこの戦車に期待するのはその重量で、自重44トンのうち4トンの装甲モジュールは必要に応じて取り外せる仕組みになっている。

 これにより日本国内の主要道の橋梁通過率は84%にも及び、日本に侵攻した場合の海外主力戦車の約40%を倍以上も上回ることになり、敵からしてみれば常識破りの神出鬼没な戦車と見える事だろう。

 更に軽いと言うことは車体への負荷が少ないと言うことにつながるから、当然足回りの故障の頻度は低くなり稼働率は上がる。

 だけど、こうして人前で見せる10式戦車の姿はただの“お利口さん”

 もっと実力を前面に出せば注文が殺到しそうなものだが、日本人はそう言うことを好まない。

 午後には駐屯地に呼び出していた軽装甲機動車の製造元のK松製作所の担当者とサロンで話をした。

 用件は軽装甲機動車の改造について。

 10式戦車などはエンジンから各種システムに至るまで機密のオンパレードで安易な輸出は難しい。

 だけど、この軽装甲機動車は特別機密にしなければならない技術はない。

 言ってみれば“ただの動く箱“

 その箱の性能を7.62mm弾程度の防御力ではなく、重機関銃の12.7mm弾にも耐えうる能力と欧米人でも乗れるよう一回り大きいサイズと対地雷防御能力への変更ができるかどうか聞くと、担当者は「燃費が悪くなります」と少し嫌な表情を見せた。

「たしかに燃費が良いに越したことはありません。ただ、何のための装甲車両なのか考えて頂きたい。イラクやアフガニスタンでのハンヴィーの被害を考えれば、この手の車両の開発に見合う収益は計り知れないものが有ると思います。しかもトップシークレットな事は殆どありませんので、日本が得意とする自動車販売と同じ。必要な武器の搭載を可能にしてあげれば良いだけです」

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― 新着の感想 ―
[一言]  この二人、近いようで遠くて、遠いようで近いです。  メェナードさんは何を試されているのだろう❔  頑張れ、メェナードさん❗❗  ほんとにもう、こんなに意識してるのになあ。  日本で戦車作…
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