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アン・ファミーユ(家族とともに)第1部  作者: 湖灯


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【浴衣を着たサラ②(Sara wearing a yukata)】

 一旦昇った階段を降りて、休憩所に入って一旦私を降ろすとベンチにハンカチを敷いてくれた。

「さあ座って」

「でも……」

「僕のハンカチより、傷の手当の方が大切だろう?」

 メェナードさんの優しい笑顔に、励まされて明るく元気に有り難うと言った。

「さあ、足を見せて」

 靴を履いていない足を異性に見せるのは物凄く抵抗があるはずなのに、私はまるでパパやママにそうするように素直に従って足を差し出された大きな手に預けた。

「どう?」

「思った通り鼻緒に擦れて赤くなっている。放っておけばマメが出来て、普通の靴でも不自由になってしまう」

「ちょっと待っていて」

 メェナードさんはそう言うと手水舎に走って行き、もう一つ持っていたハンカチを濡らしてきて私の足を綺麗にして冷やしてくれた。

 そして肩に下げていた小型のバッグから絆創膏を取り出して患部に貼り、その上から剥がれないようにテーピングをしてくれた。

「こっちも見せて」

「ハイ」

 こっちの足は、何ともなかったけれど、私はメェナードさんに言われるまま足を出した。

「痛みはない?」

「うん」

「少し赤い気もするからワセリンを塗っておくね」

 鞄の中に何が入っているのか覗くと、中にはファーストエイドキットだけでなく鎮痛剤等の薬品類も豊富にあるだけでなく、なんと応急用の気道確保器具に超小型の簡易AEDまであった。

「まあ、まるでお医者さんみたいね、何に使うつもりで持ってきたの?」

 私が驚いて明るく言うと、メェナードさんは少し恥ずかしそうに「日本は交通事故が多いと聞いて……」と答えた。

 “えっ!? それって全部、わたしのため!??”

 私がこの旅行とメェナードさんの今後の安全のために搭乗している航空機の情報を収集するシステムを開発した様に、メェナードさんもまた私の為に応急セットを用意してくれていた。

 その事を知ると胸が熱くなった。


 しばらく休憩して、また箱根神社にお参りするために階段を昇る。

「どう?」

「おかげさまで、もう何ともないわ。有り難うメェナードさん」

 境内迄上ると、中央には草で編んだ直径数メートルの輪が迎えてくれた。

「これは何??」

「“の輪くぐり”よ」

「ちのわくぐり?」

ちがやという草で編んだ、この輪をくぐることにより心身を清めて災厄を祓い、無病息災を祈願するという初夏の行事よ」

「面白そうだね」

 メェナードさんが、そう言って輪に向かって行くのを止めた。

 “茅の輪くぐり”には作法が有る。

 くぐり方は「水無月の夏越なごしはらえへする人は千歳の命延ぶというなり」という古歌を唱えつつ、左まわり・右まわり・左まわりと、八の字を書くように三度くぐり抜ける事により身心が清められ、災いが取れる。

「Me na zoo Key no……」

 メェナードさんが、教えた古歌を唱えようとするが、さすがに日本語は無理な様なので“The person who goes to the harae of Natsukoshi in Minazuki will prolong the life of Chitose”と英語で唱える様に言った。

「日本の神様なのに、英語でも大丈夫なのかい!?」

「キリストだってガリラヤ地方のナザレ村の出身なのよ。今の国に直すとイスラエルとヨルダンの国境付近。だったら言語的にはヘブライ語かアラビア語、またはローマが占領していたギリシャ語になるはずで、ケルト人しか使っていなかった言葉から5世紀ごろにようやく確立された英語なんて知るはずもないでしょう? つまり神様は言葉ではなく、心を理解するのよ」

 そう言ってメェナードさんと一緒に、作法通りに古歌を唱えながら茅の輪をくぐり本殿へと向かった。

 さすがに“茅の輪くぐり”は知らなかったメェナードさんだけど、神社の参拝の作法は知っていてチャンと一度浅くお辞儀をしてからお賽銭を捧げ二拝二拍手の後に神様に心を伝え深く一拝した後、一歩下がって浅く一礼する完璧な作法が出来ていた。

 何故メェナードさんが作法通りに出来ているのかが分かったかと言うと、別に監視していた訳でもなく、私自身が特に神様への願い事などなかったから健康だけお願いしたから早く済んだだけ。

 逆にメェナードさんは、何か特別な願い事でもあったのか、結構長い時間神様に手を合わせていた。

「ねえっメェナードさん。何をお願いしていたの?」

 参拝を終えたメェナードさんの腕にしがみ付いて願い事を聞くと、神様への願い事は人に話さない方が良いって聞いたから教えてあげられないと断られた。

 “チェッつまんないの……”

 それから2人で“おみくじ”を引いて、お互いに見せ合ったあと一緒におみくじ掛けに結び、お守りを買い箱根神社を後にした。

 広い神社通りを通らずに、車の通らない細い芦ノ湖沿いの道をメェナードさんと肩を並べて歩く。

 もう、その頃には空はほんのりと紅を溶かし、ヒグラシが鳴く森の中は薄暗くなっていた。

「チョッと降りて休憩したいわ」

「いいよ」

 道を逸れ湖畔に降り、下駄を脱いで水に足をつける。

 冷たい水が、疲れた足に心地良い。

「気持ちいいよ! メェナードさんも入ってみれば」

「ああ、じゃあ僕も、ひと浴びしようか」

「浴びるの?」

「足だけ、ねっ」

 メェナードさんは体が大きいから、足も大きい。

 当然その大きな足が勢いよく水を叩くので、私とは比べ物にならないくらいの水飛沫を上げる。

「きゃーっ! 散らさないで‼」

 私はメェナードさんから逃げるように、浴衣の裾を上げて少し沖に逃げる。

「サラ! 急に深くなるかもしれないから危ないよ!」

「あー! 水の底も見ないで体を動させたらバランスを崩すよ!」

 私が逃げるとメェナードさんが追って来て、その度に綺麗な水飛沫が上がるのが可笑しくて、私は注意も聞かずにまた逃げる。

 それを何度も繰り返しているうちに、とうとう私は本当にバランスを崩してしまった。

「キャー‼」

 あわや水の中!

 と思ったところ、信じられない程の高速移動でメェナードさんが私の体を抱きかかえてくれた。

「ありが……」

 ありがとうと言いかけた時、メェナードさんから一瞬遅れて水飛沫の塊が私たちを襲った。

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