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【日本への旅行(Travel to Japan)】

 あれから僕は、遠くからナトーと言う少女を見ている。

 監視する訳でもなく。

 観察する訳でもなく。

 ただ時々、立ち寄っては、遠くから見ているだけ。

 そうすることによって、先入観を払う事が出来る。

 彼女がサラの妹だと思えば、ついつい比較したり似たようなところを探したりしてしまう。

 彼女がグリムリーパーだと思えば、あくびをすれば怠けようとしているように、くしゃみを我慢していれば何か悪いことを企んでいるように見えてしまうだろう。

 だから僕は監視や観察といった見かたはしないで、時間をかけて先入観を無しにありのままの彼女自身を見ることにした。

 半年も過ぎると、彼女の色々な事が、僕の思っているイメージと随分違うことが分かって来た。

 ナトーはサオリをはじめ、他のスタッフの言うことを素直に聞いてよく働く。

 それだけではなく誰かが見ていても誰も見ていなくても、幼い子供やお年寄りのどんな小さな困ったことにも気付き、微笑んで優しく丁寧に対処する。

 吸収力の速さは、さすがにサラの妹だけあって素晴らしく、分からない事があっても1度教えてもらえば直ぐに出来るようになる。

 しかもタフで日中は大人並みに働いていると言うのに、昼休憩の時にはサオリに護身術を学び、夕方からは他のスタッフにも勉強を教えてもらい夜遅くまで学んでいる。

 勤勉で頭脳明晰、協調性もあり決して労力を惜しまない努力家。

 未だ姉妹と決まった訳ではないけれどサラとナトーの共通点は、やはりその賢さと努力家であると言うこと。

 相違点は、唯我独尊で常に我が道を行くサラに対して、妹のナトーは周囲に気を配る能力に長けていると言う所だろうか。

 ナトーを見ながらサラの事を考えると、凄く面白い。

 例えば“水くみ”の作業にしてもナトーは黙々と毎日何往復も桶を持って水くみに行っているが、サラならこの様な単純な作業には直ぐに飽きてしまい、この難民キャンプにある物資を利用して“水くみ”をしなくてもいい方法を発明してしまうだろう。

 そしてナトーはサオリと言う女性だけでなく自分を取り巻く全てのスタッフの言うことを良く聞いているが、サラなら絶対にそんなことはなく、彼女が従うのは彼女自身が認めた極限られた人間のみだ。


 呑気に面白がっている場合ではない。

 いくら先入観なしにと言っても、ナトーがグリムリーパーである可能性は否定できない。

 ナトーがグリムリーパーではないという確信がない限り、たとえDNAの採取に成功して彼女が本物の妹だと分かったとしてもサラに合わせることは出来ない。

 いや、妹だからこそグリムリーパーであってはならないのだ。

 僕に課せられた使命は、この子がサラの妹である事とグリムリーパーで無い事を立証してサラに合わせてあげる事。

 妹であることを立証するには、赤十字難民キャンプに通うだけでは無理だから内通者を作る必要がある

 更にグリムリーパーではない事を立証するには、テロ組織であるあのザリバン内部に入って探る必要もある。

 これを成し遂げるには、いまの僕のままでは難しいだろう。

 サラが僕にいつも言う通り、好い人のままでは前へ進めない時が来た。


 7月。

 サラの夏休みに合わせて、僕も長期休暇を取った。

 目的は旅行。

 行先は、サラが憧れていた日本。

 僕たちはテルアビブにあるベン・グリオン国際空港で待ち合わせて1回の乗り換え時間を含む16時間の旅に出た。

 出発ゲートを潜る時、サラの持ってきたハスキー犬の縫いぐるみが金属探知機に引っ掛かった。

 サラが話し掛けると返事をする仕組みだと言い、縫いぐるみのハスキー犬に「元気!?」と言うと「ワンワン!」と元気良く吠え、「寂しいよ~」と言うと「クゥ~ン」と甘えた声を出して検査員を笑わせていた。

 あまり子供らしさや女の子らしさもなかったサラなのに、酷いことになって叶わなかったとは言え、恋をすると女性は変わるものなんだなと感心して見ていた。

 無事手荷物検査も負え、座席に着く。

「ごめんね、プレミアムエコノミーで。窮屈じゃない?」

「全然大丈夫よ、それにビジネスクラスなんて贅沢だし、一人旅でもないんだからコッチの方が私は好きよ」

「よかった」

「気を使わなくていいの。私なら別にエコノミーでも、窓際の席を確保してくれさえすれば何の問題もないわ」

「窓際が好き?」

「好き嫌いじゃないの」

「と、いうことは?」

「窓際の席なら状況確認ができるでしょう」

 サラはニッコリ笑って、何故か窓際に可愛い縫いぐるみを置いた。

 いつもながら笑顔も美しいけれど、今日の笑顔はそれにも増して可愛く見える。

 だって、窓際で状況確認できると言っても、それは外の景色が見えるだけの事。

 あれほど頭が良いのに、思いがけず子供みたいな素直な答えが返って来て可笑しかった。

 しかし、サラの話しにはまだ続きがあった。

「飛行機の場合GPSの信号が届くのは、だいたい窓際から1m以内。そして……」

 サラはバックから小型のノートパソコンを取り出して僕に見せた。

「これは市販のスマートフォンのアプリを参考にして、より高精度に解析できるように私が改造したモノなんだけど……チョッと待っていてね」

 丁度その頃、タキシングしていた飛行機が滑走路に到着し、CAが全員のシートベルト着用確認を終えたところだった。

 チャンとこう言うところに気が付いて話を自分から中断するなんて、サラも随分大人になったものだと感心していたが、それは僕の思い過ごし。

 いきなり飛行機が滑走路を走り出した途端「ほらココ、よーく見ていて」と、僕の目の前にノートパソコンを突き出してきた。

 画面を見ると飛行機の絵を中心に、等高線の記載の入った地図が動いている。

 地図には等高線の他には主要な都市やビル、それに施設が記入されているだけ。

「道路が書かれていないね」

「道路!? だって必要ないもの」

 地図に道路が必要ないなんて、イマイチ意味が分からない。

 やがて飛行機が加速し始めると、飛行機の絵の下に書かれた幾つかの数字のうちKm/hと書かれた場所の数字が勢いよく上がり始めた。

 “なるほど! GPSを使って飛行機の速度が分かる仕組みか!”

 超頭が良いのに、考えていることは子供のように素直なサラの頭をクシャクシャに撫でてあげたい気持ちになった。

 今の僕の気持ちを端的に表すなら“サラってメッチャ可愛い‼”だ。

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