【グリムリーパーの正体は?②(Who is Grim Reaper?)】
たまたま通りがかりに被害に遭った、通行人じゃなかったのか……。
サラの分析ではグリムリーパーの身長は140前後。
あの銀髪の少年も同じ身長。
もしかして、あの少年がグリムリーパーの正体!?
「ナトちゃんご苦労さま、桶はそこに置いて洗濯物をお願いできる?」
「OK! サオリ」
“ナトちゃん?”
確かサラの妹の名はナトー。
でも、まさか……。
あの子は男の子だ。
ロープに吊るされた洗濯物を、ナトと呼ばれた少年がカゴを腕にぶら下げて取り入れている。
洗濯物を見つめる少年の顔を見て、僕は息が詰まるほど驚いた。
“エメラルドとアクアマリンのオッドアイ‼”
以前聞いた、サラの妹ナトーの特徴と同じ目だ。
でもあの子は男の子で、 名前もナトーではなくナト。
いや、それは僕が勝手に思いこんでいるだけのこと。
確認しなければ。
「所長さん、あのナトと言う子は、男の子ですか?」
「いや、あの子は男の子のように見えるし、自分のことを最初は男だと言っていたが、ちゃんとした女の子ですよ。それに彼女の名前はナトではなくてナトーです」
“ナトー! そして女の子!”
「年齢は?」
「さあ……彼女自身、自分のことを殆ど話さないし、実は年齢も分かっていない」
「12歳では?」
「まあ、そのくらいだろうね。でも君、あの子になにか?」
「いえ、特に。あんな小さな子もココでは働いているんだなと、思って」
「まあ彼女も、命を救ってくれた恩返しがしたいのかも知れないね」
「恩返し?命を救ってくれたとは?」
「ああ、あのサオリと言う医師が、あの日ちょうどファルージャに居てね。そこで怪我をしていたナトーを連れて帰ったのさ」
なるほど、少し分かってきたぞ。
あのナトーという少女は、サラの妹である可能性が高い。
そしておそらくサオリという医師はSISCONのエージェント。
SISCONと我々のPOCとは考え方が真逆。
我々POCがグリムリーパーを利用するために捕獲作戦を展開する情報を知ったのであれば、SISCONは必ずその邪魔をするはず。
サオリという医師が、現場に居たのはグリムリーパーを僕たちより先に確保するため。
しかし何故、ナトーを?
と言うことは彼女がグリムリーパーなのか?
まさか……。
赤十字難民キャンプを出て、ファルージャのアパートに戻る道すがら僕は考えていた。
今日のことをサラに話すべきか、どうかを。
サラは両親が亡くなってからずっと、ただ一人生きているはずの妹を探していた。
それがナトー。
オッドアイの特徴や、見た目の年齢から言っても、あのナトーという少女がサラの妹である確率は限りなく高い。
問題は、もうひとつ見つけてしまったこと。
今回僕が発見した妹らしき人物のナトーについては、もうひとつの疑わしき事実がある。
それは、彼女がグリムリーパーなのではないかと言うこと。
サラにとってグリムリーパーは憎い敵。
サラは否定していたが、友人であるオビロン軍曹やジョン兵曹長やメアーズ伍長がグリムリーパーの狙撃によって殺害された事が、ゴッド・アローの開発に何らかの影響を与えたのは確かだ。
しかもグリムリーパーは、サラの初恋の相手であるローランド中尉も殺している。
実の妹によって、恋人や友達が殺されたと知ったなら。
実の妹を、自身の発明した武器で殺そうとしていたことが分かってしまったら。
サラは混乱して、自分を傷つけてしまうかも知れない。
今はサラにとって大切な時期だし、イラクに居る僕にはイスラエルの研修所に居るサラを守ることは出来ない。
それにあの少女がサラの妹であることも確率は高くとも、まだそれが決定しているわけではない。
オッドアイの特徴が酷使しているのは間違いないが、白人の場合オッドアイの確率は0,006%だから1万人に6人も居る。
純然たる白人の人口は約2億3500万人だから、オッドアイの瞳を持つ人は14万1000人以居る計算になる。
確かにナトーという珍しい名前と、オッドアイと似通った年齢ということで、彼女がサラの妹である確率は非常に高いことは間違いない。
でも現時点で言えるのは、それだけ。
ハッキリと白黒つけるには、チャンとしたDNA鑑定を行う必要がある。
DNA鑑定で間違いなく姉妹であることが確定されて、しかもナトーがグリムリーパーではないことが証明されない限り、サラに伝えることは出来ない。
幸いなことに、このことは僕しか知らない。
僕さえ黙っていれば、誰からもこの情報が漏れるようなことはない。
とにかくもっと調べなくては。
サラに伝えるのは2つの答えが出たあとだ。




