【逃げた死神を探し出せ!②(Find the escaped Grim Reaper!)】
半年が過ぎ、僕はようやく“あること”に気が付いた。
もしかしたら奴は、病院ではない所で治療を受けたのではないかと。
もちろん捜索は病院や診療所だけではなく、医師免許を持っている住民の家まで押しかけて捜索はしたが、ひとつだけ見逃している場所がある事に気が付いた。
それは赤十字難民キャンプ。
あそこなら医師は居る。
だがファルージャから出て、赤十字難民キャンプに向かうにしても、その前に検問に引っ掛かるはず。
あの当時の検問は、それだけ厳重に行われていた。
検問が手薄になった1ヶ月以降に赤十字難民キャンプに向かったとしても、地上4階から砲撃で放り出された事を考えると、何の治療も受けずに生き延びているなんて考えられない。
ただ一つだけ可能性が無い訳ではないが、赤十字社自体が奴を搬送したとなれば話は別。
赤十字社は国際的に事故や災害、紛争・戦争に於いて敵味方区別なく中立な立場で人道的支援を行い特殊な権限を与えられている
しかも彼等の活動を支える原則として、大きな3つの柱がある。
1つは、国籍や人種などに基づく差別はしない。
2つ目は、戦地や紛争地では友軍敵軍どちらにも与しない。
そして3つ目は、政府の圧力に屈さず、また活動への干渉を許さない。
つまり、彼等なら凶悪なグリムリーパーであっても治療が必要であれば必要な医療を提供出来得るだけでなく、3つ目の原則通り検問や検閲も逃れる事が合法的に出来る。
僕は早速アメリカ軍の駐屯地に出向いて、グリムリーパー暗殺作戦当日から今日に至るまでの検問所での車の通過記録を調べることにした。
さすがに膨大な量のデーターに、思わず怯みそうになったが、調査はあっと言う間に終わった。
なんとグリムリーパー暗殺作戦が行われて、僕が現地に到着するよりも早く、国際赤十字社のジープが検問所を通過してファルージャの街から出ていた。
まさにそれはゴッド・アローによる砲撃の10分後。
有り得ない。
たまたま居合わせたとしても、それならグリムリーパーと一緒に落ちた少女が拾われていない事がおかしいし、緊急を要するのであれば近くの病院に搬送するはずだから、この車両には奴が乗っていないと見るのが普通。
もしグリムリーパーが乗せられた赤十字社の車両があるとすれば、それはザリバンの……いや、イスラム教の司教から搬送の依頼があったとき。
そう思って、それ以降の赤十字社の通過記録を調べたが結局検問所を通り過ぎた赤十字社の車両は最初の1台だけだった。
“当てが外れたか……”
サラなら直ぐに答えを導き出すはず。
でも、こればかりはサラに頼るわけにはいかない。
何か秘密があるはず。
グリムリーパーが逃げ遂せた、秘密が。
僕はラマーディからの帰り道、ふとアル ナスル ウォル サラムの街に立ち寄った。
なんの当てもないが、サラの妹が5歳まで住んでいた街。
義母のハイファが亡くなって、義父であるヤザに連れられて妹のナトーはどこかに消えた。
一体、ナトーはどこに……。
いや、止めよう。
今はグリムリーパーを探すのが先だ。
もう7年も消息の分からないサラの妹を探すには、そうとうな時間が掛かってしまうだろう。
それよりも半年前に姿を晦ましたグリムリーパーなら、まだ手掛かりはあるはず。
ハイファ……、そう言えばサラが大学院に通っているテクニオンもハイファにある。
奇遇と言えば奇遇……。
“ちょっと待て!”
義母のハイファは何者だった?
ハイファとサラのお母さんとの関係は?
“SISCON‼”
(※SISCON:Secret Intelligence Service Control秘密情報制御部と言う民間の組織で、その情収集能力はCIAをはじめ各国の諜報機関に提供するほど豊富な組織であるが、平和を常に重んじる組織であり、平和目的以外に軽々しく情報提供は行われない)
2人はSISCONの人間!
もしも国際赤十字にSISCONの人間が居たとすれば、グリムリーパー暗殺計画の詳細を知っていてもおかしくはない。
しかし何故、SISCONがグリムリーパーを助ける?
彼等は、完全なる平和組織で、我々POCとは180度考え方が違うはず。
彼等が“殺し屋”であるグリムリーパーを捕らえたとしても、何の利用価値も見いだせないはず……。
とにかく考えても無駄だ。
僕はサラじゃない。
考えて答えを導き出す事は出来っこない。
ここは行動を起こすのみ!
慌てて車に乗り、バグダッド郊外の砂漠にある赤十字難民キャンプに向けて車を飛ばした。




