【逃げた死神を探し出せ!①(Find the escaped Grim Reaper!)】
サラに着弾時の状況を解析した結果を見せてもらった。
爆発の被害に遭って死んだ中学1年生の少女とシルエットが重なってはいるものの、グリムリーパーの身長は大凡140cm前後で体型は痩せ型だと言う事と、髪型が長髪では無い事が分かった。
丁度胸のシルエットが重なっているので、身体的な特徴は分からない。
「少年なのか?」
「そこまでは分からないわ。ここはイラクだから」
子供だと断定しにくい要因が、この地にある。
イラクの成人の平均身長は男性で171cm、女性では157cmとなる。
ヨーロッパならほぼ女性か子供に特定しても構わないが、アジア圏では150cm以下の成人男子が居ても特におかしい事ではない。
性別は分からないが、このシルエットの重なりから奴が少女に何をしようとしていたのかも分かった。
「レイプよ、レイプ! 信じられないわ!」
「と、言うことはグリムリーパーは小男と言う事なのか」
「ねえ、メェナードさん協力してくれる」
「いいよ」
断る理由などない。
グリムリーパーはサラの友人を殺しただけでなく、初恋で処女を捧げたその恋人の命までも無残に奪い、更に一縷の望みを託していた家族の夢までも奴は壊したのだから。
どのみち僕が本部に呼ばれて受けた命令は“グリムリーパーの捕獲”
グリムリーパーへの復讐のためサラはゴッド・アローを開発したと言うのに、そのサラには内緒で奴の捕獲を企てようとする奴等が気にいらないで断っていたものの、うまい話をチラつかせても首を縦に振らない僕に奴等はグリムリーパー暗殺作戦からの撤退を言い出して僕を脅しに掛かって来た。
サラにとって復讐だけでなく兵器開発の実績と言う、折角掴んだチャンスなのだからこれを潰してしまう訳にはいかないから、僕は不承不承承諾する事にした。
まあ後になってよく考えてみれば、捕まえたグリムリーパーを持ち帰る必要はなく、そのままアメリカ軍に渡してしまえば僕が処罰されるだけで済む話。
死体が発見されていない以上、このグリムリーパー捕獲作戦は未だ失効していない。
必ず僕が捕まえて、その醜い姿を彼女の前に突き出してやる。
ローランドが死んだ『グリムリーパー暗殺作戦』が終わって1ヶ月、いまだにグリムリーパーらしき人物の手がかりは無いまま。
アメリカをはじめとする多国籍軍も奴の身柄を拘束するのに躍起になって居たが、今では“もう死んだ”と言うのが定説になりつつある。
と、言うのも、あれ以来グリムリーパーによる狙撃はおろかザリバンからの狙撃自体がなくなったからだ。
グリムリーパーは砲撃により致命的な傷を負い、仲間が助けに来たものの直ぐに死んで、どこかに埋められた。
一見楽観論の様にも思えるが全ての病院を調べても、それらしい人物や、それらしい怪我を負った人物が居ないのではそう考える方が妥当。
サラの方も、いつまでも勉強を放っておくわけにもいかず、本部の命令で既にイスラエルの研修所に戻った。
彼女は別れ際に“グリムリーパーの死体が見つからないのは残念だったけれど、私も軍部の考えを尊重するわ。だからメェナードさんも、いつまでもグリムリーパーに振り回されないで、自分の為の仕事をして”と、淑やかに僕に言ってくれた。
僕はいつもの様にハイハイと返事を返し、サラはいつもの様に“ハイは1回、2回言うのは分かっていない証拠よ”と言って出発ロビーから旅立つサラが久し振りに笑顔を見せてくれた。
いつものハッチャけた笑顔よりも、優しさの籠った大人の笑顔。
何気ない振りをしながらサラに手を振る僕の胸は、悪魔に心臓を掴まれたように苦しくなる。
サラを大人にしたのはローランドだが、サラの笑顔を曇らせたグリムリーパーだけは許せない。
ローランドさえ生きていれば、大人になったサラの笑顔がこんなに変わる事は無かった。
サラからは自分の仕事に戻る様に言われたが、僕は諦めない。
深手を負っているのは間違いないが、その死体が発見されるまで地の底にでも追いかけて必ず見つけてやる。
死体として埋められていたとしても、僕がその寝床を暴き、決して安住の地は与えない。
あれから僕の1日はファジールで始まりファジールで終わる。
もちろん会社を辞めた訳ではないから最小限だけど仕事もするが、バグダッドのアパートを早朝に出て先ずファジールを訪れてから仕事に向い、仕事が終わればまたファジールに立ち寄ってから深夜にバグダッドのアパートに帰る。
そんな暮らしを2カ月も続け、3ヶ月目にはバグダッドのアパートを引き払ってファジールにアパートを借りた。
もちろんサラには内緒。
しかし手がかりは何一つ見つからない。
あの暗殺作戦からもう4ヶ月。
既に多国籍軍やCIAさえ、グリムリーパーの消息を追う事は諦め、報告書にも“グリムリーパー暗殺作戦は成功した”と書かれていた。
奴の狙撃が無い事が、その事実を物語っているのは確かだが、何か僕には引っかかる。




