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【メェナードさんの後悔②(Regret of Mr. Menard)】

 その後もサラは僕が仕掛けた数々のトラップやテストを“見事”と言う言葉が陳腐に思える程完璧に……いや完璧以上に乗り越えて見せた。

 テストを仕掛けた僕の方が逆に能力の差を見せつけられた気分だったが、サラはその事を自慢もせずしかも優越感さえ感じていない様子で清々しくて、苦労して作った難題を乗り越えられる度に僕も楽しかった。

 正直、全てのテストを最高の成績でクリアしたサラの研修所入りが決まり、しかもそれが十数年ぶりのA級幹部養成コースだと知らされた時は最高に嬉しかったが、いざ彼女と別れる時が来た事を思うと逆に最低なほど寂しさが込み上げてきた。

 将来の本部長クラスになるA級幹部コースのサラと、20代半ばにもなるのにまだ調査員にもなれない雑用係りの僕とでは住む世界が違う。

 もう二度と会う事は無い。

 もし会ったとしても、それはサラが上級幹部になり大きなホールで訓示をしている様子を列の最後尾辺りで眺めているだけだろうと思い、僕は少しでも前の席で彼女を応援したいと思って努力した。

 頑張った甲斐があって、やっと調査員の資格が取れた。

 一応僕だってスカウトされてPOCに入った訳だけど、サラの様な研修所入りが前提の新卒ではなく最初から現場入りが前提の中途採用だから、これから先サラに離されることは有っても追いつくことはない。

 つまり、僕はもうサラと肩を並べて一緒に仕事をすることはない。

 と、そう思っていたのに、最初の夏休みに彼女は僕の所にやって来た。

 理由は、5歳の時に離れ離れになってしまった当時0歳だった妹を探すため。

 妹の名前は“ナトー”

 ナトー・エリザベス・ブラッドショウ。

 もう7年も探しているのに見つからないなら、それはつまり屹度……つい悪い方向に考えてしまったが、サラの自信を目の当たりにしていると必ず妹は“生きている”生きていて必ず見つけ出し“会う事が出来る”と真剣に思う様になり、僕も仕事の合い間に妹の捜索を手伝った。

 4年経った今になってやっと、昔ファルージャに住んでいた一家に似たような子供が居たことだけが分かっただけ。

 でもサラの自信に後押しされた僕には、妹のナトーちゃんがもう直ぐ手の届く所に居るのではないかと思うようになった。

 成長するサラを見ていて、不安を感じた事がある。

 なんでも完璧にやってみせるサラの弱点をあげるとするならば、それは体が小さくて格闘に向かない事と、異性に他する敵対心。

 体が小さいと言っても16歳の現在で既に160cmは越えているので、もう少し背が伸びればヨーロッパの平均的成人女性の165cmくらいにはなりそうだが、格闘戦に於いて最も重要な要素のひとつである体重は未だに40㎏を越えていないから如何ともしがたい。

 確かに誰かに習って合気道を身に着けていてナカナカ筋は良いのだけど、所詮プロを相手に戦う事を想定したなら通用しそうにもない。

 サラには将来にわたってボディーガードも必要になって来る。

 ボディーガードの問題と、異性に対する一種の敵対心。

 その2つをクリアする人物として、僕はローランド・シュナイザーに目を付けた。

 本当は僕と同じ歳のローランドよりも未だ20歳と若いローランドの弟ハンス・シュナイザーの方に実は最初に目を付けていたのだが、子供の時から素晴らしい成績を収めてオリンピックでメダリストになるほど優秀で華やかな兄に比べると、ハンスの方は学業も射撃も見劣りする。

 今でこそ努力して士官学校に通えるほどになったが、ハイスクール時代までのハンスは不良で喧嘩ばかりしていた。

 そんな気の強いハンスを、同じ気の強いサラの相手に選んでしまえば、事あるごとに喧嘩が絶えず彼女の異性嫌いは更に加速してしまうだろう。

 幸い兄のローランドの方は、性格も穏やかで完璧すぎるくらいの“王子様”

 サラも始めは警戒するだろうけれど、ローランドの性格が有れば彼女は必ず彼に引き込まれて行くはず。

 なんたって世の中にある悪い所に一切手を触れずに育ったような“王子様”なんだから。

 僕の予想通り、サラは瞬く間にローランド惹かれて行った

 もちろんローランドも。

 ローランドの様に、生まれつき周囲の女子からチヤホヤされてきた男は、必然的に目が肥えてしまうから並大抵の容姿では引き付けられない。

 幸いサラの容姿は、そんじょそこらに居る並大抵を越える程度の物ではなく、ハリウッドのヒロイン役の女優も青ざめてしまう程の美貌の持ち主でスタイルもファッションモデル級。

 しかもその容姿だけではなく、どんな異性を前にしても決して失う事の無い気の強さも隠し持っている。

 ローランドの様な王子様は、このサラの性格の方により興味を抱くのではと思っていたが、案の定2人は直ぐに恋に落ちた。

 2人の恋にはホンの少し妬ける気持ちもあったけれど、僕はそれなりに満足して呼び出された本部に向かった。

 だが僕の考えは間違いだった。

 2人は僕が思う以上に惹かれあった。

 激し過ぎる恋はリスクを伴う。

 まるでロミオとジュリエットのように……。

 万が一ローランドが亡くなったとしても、赤ちゃんを宿していれば2人の恋は永遠に続く。

 それがDNAの役割。

 たった2週間ほどの短い期間で、2人の恋はそこまで成熟してしまった。

 早過ぎる。

 このままではサラもやがてローランドの後を追ってしまうかも知れない。

 僕の過ちは、僕が解決しなければ。

 決して、サラにその様な道を選ばせはしない!

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― 新着の感想 ―
[一言]  そうゆう事だったんですね。  なんだかサラが可哀想で、泣けてしまいました。  折角家族ができるはずだったのに、しかも相手はグリムリーパー。  サラは強くて頭もよいけれど、運命が哀し過ぎます…
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