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【メェナードさんの後悔①(Regret of Mr. Menard)】

 サラはローランドとの関係の一部始終を僕に話してくれた。

 ローランドと初めて会ったあの食堂でのパーティーの時、彼の事を嫌だと思ったのに直ぐに好きになってしまったこと。

 グリムリーパー暗殺作戦の実行が決まった日に、ローランドからデートの誘いを受け、その夜、初めてお酒を飲みホテルに泊まり彼に処女をあげたこと。

 一夜限りの関係だと割り切っていたはずなのに、ずっと一緒に居たくて基地内の秘密の場所で毎晩会って愛し合っていたこと。

 彼からプロポーズされたこと。

 そしてローランドにもしもの事があった時のために、彼の子供を宿そうと考えたこと。

 サラは“もしもの事が”と前置きをしていたが、僕にはサラの気持ちが手に取るように分かる。

 サラはローランドと家族になりたくて、彼の家族を持ちたかったのだ。

 16歳と言えば、まだハイスクールに通っている年齢。

 異性に興味を持ち、異性をSEXの対象として意識するようになり、SEXを楽しみだす年頃でもある。

 けれども、家族を持ちたいと本気で思う16歳の少女は殆ど居ない。

 サラにそこまで思わせたローランドは、やはり僕が思った通りの好人物だった。

 しかし僕が気を利かせて2人を出合わせなければ、この不幸は起こらなかったと思うと罪の意識を感じて辛い。

「気にしないで」

「えっ!?」

「私、彼と出会えて倖せよ。そしてこの思い出は、永遠に私の心の財産として残ると思うの。ねえメェナードさんもそう思わない? 彼は確かに物体としては亡くなった。けれども私が思い続けている限り、私の心の中で生き続けるの。屹度そうよ。そうでしょうメェナードさん」

「ああ、僕もそう思うよサラ」

「彼に合わせてくれて有り難う、メェナードさん」

 サラはもう泣いてはいなかった。

 それどころか僕に笑顔を見せてくれた。

 やはりサラは強い。

 でも何故かその強さを寂しく思うときもある。

 もっと弱ければ支えてあげる事も出来る。

 けれども彼女は決して弱みを見せない。

 でもそれは強がっていると言う訳ではない。

 幼い時に両親が亡くなった後それまで周囲から可愛がられて育てられていた環境が急変して周り中の人たちから見放され、裕福な家庭から粗悪な孤児院に放り込まれ、孤児と言うだけの理由で学校では酷い虐めの対象にされる。

 自分の身は自分で守らなければ。

 自分が確りしていないと、とてもまともには生きていけない。

 そんな環境を、誰の助けも借りず、自分の知恵と勇気だけで乗り切った。

 同じイラク。

 しかも同じバグダッドに居ながら、見つけてあげられなかった。

 サラの最も辛い時に、何の手も差し伸べることが出来なかった。


 僕が君を見つけたのは、本部の指示で君がイラクからイスラエルを目指して旅立った時だった。

 もちろん本部からの命令で、その女の子をテストするように言われて出会っただけ。

 どのルートを通って来るかは分かっていたが、さすがにどのホテルに泊まるか、そもそもホテルに泊まるのかさえ分からなかった。

 そこで僕は、街の入り口に立つ、一番豪華なホテルに泊まって待つことにした。

 12歳の女の子なら、躊躇して先ず泊まらない。

 ただし街に入って一番に目の前に現れるホテル。

 過酷な長旅で疲れているツーリストなら誰でもこう考えるはず“次の街で最初に見つけた宿に泊まろう”と。

 最初に見つけた宿が自分に相応しい宿だと人は勝手に考えているが、それがもし宿泊費の高そうなホテルであればどうだろう?

 多くの人は、考え直して“身の丈に合った”ホテルを探し直すだろう。

 もちろん彼女の所持金が多いことは調査して知っていたから、ひょっとすると金銭感覚のない浪費家であれば話は別。

 ここで、サラがどんな人間かを見極めるのが僕の仕事だった。

 只の浪費家なら、ここでこの仕事は終了。

 僕だって、忙しい。

 チョッと賢いくらいの子ども相手に、そうそう時間を取っていられないし、会社の方からも時間を無駄に使わないように、面倒だと思ったら直感だけで振るい落としても構わないとも言われていた

 駐輪場で改造された彼女のバイクを見て、話しをしてから決めることにした。

 バイクの改造と言えば普通はハンドルやマフラーを変えるとか外観的な改造が多いが、サラの乗って来たバイクは幾つかのバイクを組み合わせて1つのバイクに作り直したもの。

 しかも砂漠仕様。

 賢いだけでなく、実に器用だ。

 サラと直接会って最初の試験は、人に対しての気遣いが出来るかどうか。

 万が一彼女が採用されて、どの部署に配属されたとしても対人関係は重要。

 人の輪を乱すような者を入社させるのは御免だ。

 だから僕は彼女がイスラム教徒では無い事を確認したあとで、握手を求めた。

 イスラム教では女性はみだりに他人と肌が触れる行為をしてはならない。

 もちろん彼女はイスラム教徒ではないが、従業員を含めホテルには沢山のイスラム教徒が居た。

 彼女はチャンとこの土地のマナーを守って、僕の握手を断った。

 なかなか気が利く。

 ここで初対面の僕と握手したなら、彼女は余所者として否定的にみられてしまう。

 もちろん僕も。

 次に色々な質問をしてみた。

 子供は大人からの質問に対して、嫌だと感じても普通は答えるか、黙ってしまう。

 だが彼女は幾つかの質問に答えたあと、不平等だと言って話を断って来た。

 大人に対してチャンとした理由を話す事が出来る子供は、そうそう居ない。

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