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【報復のキャンプファイヤー(Campfire is retaliation for society)】

 兎に角小学校はつまらなかった。

 6年生の時、学校でキャンプに行くことになり、キャンプファイヤーに火を灯す“女神”の役を誰がすると言う事になった時に、私とは違う子が選ばれた。

 どこにでも居る、たいして気の利いた顔でもない子。

 勉強だっていつも私の次いで2番の成績を収めているが実際は私の足元にも及ばない。

 彼女の100点は100点中の100点だけど、私の100点は1000点中の1000点から10分の1を切り取ったものだから、ライバルとも呼べない。

 結局、育ちが良くて少しだけ賢いと周囲から認められている者だけが、学校と言う世界では持て囃される仕組みになっているのだ。

 キャンプの前から私は楽しいことを思いついて、しばらくはそれらを集めるのに夢中だった。

 そしてキャンプの日に、それらを持って行った。

 用意したのはアルミニュウムを粉末にしたものと、錆びた砂鉄をペットボトルに入れて混ぜたもの。

 それともう一つは少量の酸化銅の粉末と砂鉄を混ぜてアルミ箔で何重にも包んだもの。

 それをキャンプファイヤー用に木を井桁に組むときに、コッソリ入れておいた。

 生徒みんなで自炊して夕食を食べたあと、今日のメインイベントであるキャンプファイヤーが始まった。

 いつもはつまらない合唱も、今夜は滅茶苦茶楽しくてハイテンションになって歌っている私を見て、先生の何人かが“やっぱり子供だな”と笑っているのが聞こえて余計可笑しかった。

 いよいよ点火の儀式。

 真っ白なドレスに見立てたヘンテコな衣装を着た、あの子が火を付けた“たいまつ”を持って井桁に組んだ木に近付く。

 井桁の真ん中には燃えやすいように小さな小枝の上に新聞紙を乗せている。

 その下には私の仕掛けた物があるとも知らずに……。

 たいまつをくべると、新聞紙に火が付き、先生がマイクで「点火しました。いよいよキャンプファイヤーの始まりです!」と真面目に言った時は、思わず吹き出しそうになった。

 点火係りの女の子が、たいまつを奥に突っ込む。

 写真係りの先生が、女の子にポーズをとるように言って写真を撮る。

 周りが急に明るくなり、みんながワアー!と歓声と拍手をしたその時、凄まじい勢いで炎が上がり火花が飛び散った。

 何があったのか、炎の前で茫然と立ち尽くしてしまう女の子と先生。

「早く逃げろ‼」

 危機意識の欠如している2人に声を掛けると、我に返ったように2人は逃げ出した。

 瞬く間に大きく高く上がる青い炎を、先生も生徒たちと一緒にまるで魂を抜き取られたように見つめていた。

 ペットボトルに入れたアルミニュウムと酸化鉄が化学反応を起こしてテルミット反応が始まったのだ。

 焚火の時の炎の温度は通常800~900℃。

 木材の発火点は250~300℃

 そこにテルミット反応時の温度2000~2200℃が来るのだから、あっと言う間に井桁に組んだ木々は燃え尽きてしまった。

 何が起きているのか分からない皆は、ついさっきの点火係りの女の子と同じ様に、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 次の瞬間、ドン!と言う爆発音と共に5メートルくらいの炎とキノコ状の煙が上がり、驚いた皆が揃って尻もちをついた。

 これは酸化銅と酸化鉄によるテルミット反応。

 “タイミングは良かったが、少し量が多過ぎたな……”

 あっと言う間にキャンプファイヤーが終わってしまい、泣き出す子もいて先生たちも何が何だか分からないで右往左往するばかりで、私の小学校生活最後のイベントは大成功のうちに幕を閉じた。


 卒業が近付いて、考えなければならない大問題を処理する必要があった。

 それは進学の事。

 イラクでの義務教育期間は、小学校の6年間だけと決まっている。

 義務教育が終わると、働くこともできるため、強制的に孤児院からも追い出される。

 身寄りのない私は、今後住み込みで働く事が出来る職場を探さなければならない。

 たかが12歳の子供に沢山の給料を払ってくれる会社などないから、この時点で私は進学を諦めるしか仕方がない。

 小学校時代の図書館通いで、自分の保有する知識が既に高校レベルを超えていることは知っているが、それを証明するためには学歴が必要となる。

 どれだけ賢くとも、学歴が無ければ良い就職には着くことは出来ず、逆に学歴が良ければどんな人間であろうが良い就職を得るチャンスは多くなる。

 これが現代社会の構図。

 能力主義を謳いながら、実際に本人と会って確かめる事をしないで書類選考から始めるので、どうしても学歴の高いものから順に面接の機会を得る事が出来るのだ。

 小学校しか出ていない場合の最良のスタートはホテルの清掃係といったところになるだろうが、時々街のどこかで戦闘による銃声が聞こえるような不穏な情勢では、そこから先の未来には暗雲が立ち込めているのは確か。

 自力で調べたところ、ここから100キロほど西にあるラマーディーの街に貧しい家庭の子供を対象とした全寮制の学校がある事が分かり、試験を受けることにした。

 ここで問題なのは、どうやってそこに行くかだ。

 孤児院では、お小遣いは貰えない。

 この日のために、色々な事をしてお金を稼いではいたが、まともに子供が働いて得られる収入などチップ程度のもの。

 だから私は武器を作って売った。

 自作の護身用スタンガンから、銅と砂鉄を溶かした厚紙で包んだテルミット爆弾まで。

 取引は小学校にある職員用のパソコンを日曜日に学校に忍び込んで使用して告知して、銀行口座は無いので私が“受け子”として現物と引き換えに代金を受け取っていた。

 やばい代物なので、受け取る側も子供だからと言って物だけ取って逃げたり支払いを誤魔化したりするような事はしない。

 子供だからこそ、どこかで大人が見張っているという意識がはたらくのだ。

 こんなヤバイ物を作って売るような奴だから、変な事をすれば命の危険があると思う。

 まさか小学生である私本人の仕業だとは誰も思わない。

 武器は高く売れた。

 この頃から、武器は使うより売る方が“美味しい”と言う事が分かった。

 どんな高性能な武器でも、使う方は常に危険を伴う。

 使い方を間違えれば、小学校1年生の時に死んだあの担任の先生の様に、思いがけず他人を巻き込んでしまう事もある。

 ところが売る方は、常に安全な場所に居て、悲惨な死体などの映像がカットされたニュースで効果を確認すればいい。

 お金は幾ら稼いでも、使ってしまえば意味がない。

 沢山使う癖がついてしまえば、不況に陥った時に惨めな思いをするだけ。

 要は使い方が重要なのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんどは何をしでかしてくれるんだろうと、本当にワクワクしてます。  テルミット反応、初めて目にしました。  少し量が多過ぎたな、って処、受けました。笑  本当にサラちゃん、逞しいです。  …
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