【グリムリーパー暗殺作戦④(Grim Reaper Assassination Operation)】
「どうしたの? 作戦が終わるまで、夜は会わないって言っていたのに」
「なかなか終わらないからよ。まったくCIAとかチャンと仕事をやっているの?」
「さあ、そこのところは俺達には分からない」
「ねえ、大丈夫?」
「大丈夫さ、サラに自身をつけてもらったから」
「なら、いいけれど。くれぐれもムキにならないでね。じゃないと私の出番が無くなっちゃうでしょう」
ローランドの剥き出しの逞しい腕を人差し指でなぞりながら、自分で出した声が甘えていることに少しの嫌悪感を抱く。
一体、私は何がしたくてローランドを呼び出したの?
しかも、自分から言い出した決め事を自ら破ってまで。
こんな事は今までに無かった。
戸惑う私の指先を、ローランドの大きな暖かい手が優しく包んでくれた。
隣に並ぶ彼の人差し指が、まるで小鳥を撫でる様に私の喉を撫で、星空を眺める様に彼を見上げる私。
彼の大きな体が、徐々に満天に広がる星空を隠す。
私はホンの少し唇を尖らせて、眼を瞑る。
温かい彼の唇が私の唇を捉え、彼の逞しい指が私の繊細で敏感な場所を弄る。
スッカリ準備の整った私を前に、彼がスキンを取り出そうとしてズボンのポケットに手を突っ込む。
「待って!」
私が沸てて彼の手を止めると、ローランドは驚いた顔をして私を見て止まった。
「そのままして」
「そのまま!?」
「生で……」
「後悔しない?」
「後悔なんて、しない。私は最初から、そのつもりよ」
直ぐに宿舎には帰らないでローランドと少しだけ基地内を散歩した。
こうして夜の滑走路を肩を並べて歩いていると、まだお腹が温かい気がして、その事が私を更にロマンチックにさせる。
滑走路脇で誰かがバーベキューをしていた。
「なに?あの人たち」
「今日の夕方に到着したフランス外人部隊の隊員たちだ」
「あの“荒くれ者”で有名な?」
「しっ、聞こえちゃマズい。彼等の大好物は、戦場と酒と女と喧嘩だから」
「まあ。好きな物が多いって、幸せな人たちね」
私たちは知らんぷりして、その横を通り抜けようとしたが、彼等はそれを許しはしなかった。
背の高い男が声を掛けて来て、その後ろに居た2人が横に広がり行く手を塞ぐ。
「よう、こんな真夜中にデートか?」
「散歩だ、そこを通してもらえないか?」
「散歩ねえ……。俺もこんな上玉と夜道を散歩がしてえ、悪いがチョッと借りるぜ」
背の高い男が私の腕を取ろうとした。
私が手を取られまいと慌てて引っ込めるより早く、ローランドが背の高い男の伸ばしてきた手を取り、あっと言う間に捻る。
「イテテテテ‼」
“合気道だ!”
「ヤロー!兄貴に何をしやがる‼」
背の高い男の両サイドに居た2人が、同時に飛び掛かるが、ローランドの華麗な合気道によって2人ともあっと言う間に投げ飛ばされてダウンした。
「調子に乗りやがって!」
手を捻られた背の高い男が、いきなりナイフを取り出してローランドの背後を襲う。
「危ない‼」
私の声に気付いたローランドが、不利な体勢から後ろ蹴りを放ち、見事に相手の持っていたナイフを蹴り飛ばした。
“さすが!”
「いい気になるな、後ろは貰ったぜ!」
たしかに後ろ蹴りでナイフを蹴り飛ばしたのは良いが、そのせいで背の高い男が言う様に背後が無防備になり、そこを突かれて体をホールドされた。
「オラオラ、なにも出来ねえだろうが……」
優位に立ったと背の高い男が思った瞬間ローランドは万歳をするように両腕を真上に上げたと思う間もなく勢いよく腰を下ろし、いとも簡単にホールドを抜けた。
”このあとは、どうするの!?”
私が次の展開を予想する暇も与えず、ローランドは再びジャンプするように背を伸ばすと、その頭が背の高い男の顎を捉えた。
顎に頭突きを食らった背の高い男の脚が数センチ地面から浮き、再び着地した時にはもう彼の体重を支えることはなく地面にひれ伏した。
「この野郎!」
それまでビールを飲みながら、ニヤニヤと笑っていた一番ガタイの大きなモヒカンの男が数人の部下と共に私たちを取り囲んだ。
これは、さすがにピンチ……。
しかしそのモヒカンを、同じ外人部隊の黒人の男が止めた。
「モンタナ止めろ」
「でもブラーム、フランソワ達がヤラレタんだぞ」
「こんな所まで来てまで揉め事を起こして、また俺達をアフガンに連れて行きたいのか!? それに相手は将校だぞ」
「……」
「まあまあ、みんな落ち着けって」
膠着状態を打ち破る様に、背の低い陽気なイタリア系の男がビールの入ったジョッキを両手に割って入って来た。
「折角のビールパーティーが台無しになるぜ。さあ中尉さんも姉さんもこれで手打ちとしようぜ!」
ジョッキを手に渡された。
イタリア人は人懐っこい顔を向けて「生だからな」と笑う。
「生……?」
この時は“生”が“生ビール”を指す言葉だと言う事をまだ知らなかった。
「やっぱ姉ちゃんも“生”は大好きだろう!?」
“生でして……”
これは、ついさっきポケットからスキンを取り出そうとしたローランドの手を抑えて私が言った言葉。
“コイツ、どこかでコッソリ見ていた!?”
「イェーイ“生”最高!」
男が私にビールを飲むように煽る。
私は手渡されたビルのジョッキを逆さまにして、そのまま男にビールを浴びせその場をスタスタと歩いて帰った。
まあ、“生”が最高なのは確かだけど、“あの痴漢野郎!”
「なんで、俺、こうなったの??」
後ろから小さくイタリア人の情けない声が微かに聞こえた。




