【グリムリーパー暗殺作戦③(Grim Reaper Assassination Operation)】
「やあ、いよいよだね」
「えっ、ええ」
「ゴメン、君が忙しい時に何も手伝えなくて。」
「あっ、いいの気にしないで」
メェナードさんは、いつも呑気。
12歳の時に出合って、もう4年も経つのに、イライラしたところや怒ったところなんて見たことも聞いたことも無い。
しかも悪いこともしないし、悪いことも考えない。
常に戦争と隣り合わせの会社なのに、そんな雰囲気は微塵も感じさせない。
呑気で、好い人だけど、ただそれだけでは只の凡人。
メェナードさんの凄いところは、何でも良く気が付き、必ずその気付いた事に対しての対処策を講じているところ。
もしかしたら幾ら私が隠していても、既に私とローランドの事を知っていて見守ってくれているのかも知れない。
メェナードさんは決して私の邪魔はしないもの。
土曜と日曜、今回の作戦に直接携わるローランドたち兵隊さんはお休み。
けれども私とメェナードさんは、ゴッド・アローの最終チェックに忙しかった。
今回使用する弾頭は、爆発により弾頭を覆っている金属片を巻き散らすタイプではなく爆圧のみで相手を吹き飛ばすタイプ。
破片を巻き散らすタイプだとかなり広範囲の敵に対処できる反面、それだけ被害を受ける範囲も大きくなる。
もしグリムリーパーが市街地に紛れ込んでいた場合、それだけ巻き添えになる人数も増えてしまう。
爆圧を利用するタイプなら、状況に応じて有効範囲を変える事が出来る。
今回用意した最も強力なタイプは有効範囲100mのもので、こちらはグリムリーパーが車やバイクと言った直ぐに移動できる手段を持っている場合に使用する。
逆にもっとも小さなものはその1/20の5mに過ぎなくて、これは人通りの多い場所に紛れ込んでいる場合に使用する。
最も想定されるのは有効範囲10m、15m、20mの3つのタイプで、これらは集合住宅やビルの室内に隠れている場合に使用するもの。
3タイプあるのは建築物の強度によって使い分ける。
古い市営住宅などは10mタイプを使用しないと爆圧により上下左右の家庭まで吹き飛ばすことになってしまう。
いずれにしても有効範囲20m以下のタイプについては炸薬に香りの付いた塗料を含ませているので、致命傷を待逃れたとしても体に付着した塗料により逃げたグリムリーパーを追う事が出来るし、もし仮にザリバンの仲間が負傷したグリムリーパーを連れ去ったとしても壁などに付着した塗料から奴の身長や身体的特徴を割り出す事も出来る。
つまり、万が一奴がゴッド・アローから逃れることが出来たとしても、その足跡迄消す事は出来ないと言う事。
塗料による目視や、臭いによる軍用犬や探知機で追跡が可能になり、決して逃げ伸びる事は出来ない。
炸薬量は予め準備しておかなければならないが、信管の方は砲弾が飛翔中に調整できる。
目標の正確な座標が分かっても、距離や天候などによって目標箇所に達する侵入角度が変わって来るからだ。
これは特に目標地点が建築物の室内である場合に最も顕著で、奴がガラス窓の傍に入れば信管はガラス窓を破った途端に作動するべきだし、室内の奥の部屋にいる場合はその上階の壁を突き破って更に床を突き破って部屋に到達するまで爆発しないように信管の作動を遅らせる必要がある。
このような場所でも有効範囲100mのモノは使用できるが、それはつまり一瞬でビルごと廃墟にしてしまう事になり犠牲者が出過ぎる。
つまりターゲット以外の殺傷を極端に控えた、戦場に居る民間人に優しい事もゴッド・アローの特徴と言える。
メェナードさんには155mm榴弾砲の傍に居て、どのタイプの炸薬量の砲弾を使用するのかを砲兵隊員に指示し、もし発射までに砲弾に何かのトラブルがあった場合は速やかに他の物に交換する役目を担ってもらい、私はタカダム空軍基地の管制塔に上がりレーダーで砲弾を追尾して必要な調整を行う。
もちろん通常のレーダーでは、たった1m足らずの砲弾を捉える事は不可能に近いが、これもゴッド・アローが発信する電波や特別な反射波を特定する事で可能になる。
もっとも困難なのは、秒速900mで撃ち出された砲弾が中間地点に達するまでに各種入力作業を終了しておかなければならないと言う事。
これはグリムリーパーがファルージャに居れば約9秒、もっとも近いアルブ・ジェジェルならば約3秒しか余裕がないことになる。
まあ私にとって、このことは何の問題も無い事だからまだ手付かずでいるが、今後はこのシステムの自動化プログラムの開発も必要になるのは間違いないだろう。
月曜、火曜と私はいつでも配置に着けるように空軍基地を出て行くローランド達を見送り、管制塔に登りその時を待ったが、結局は何もないまま終わった。
更に2日が過ぎたがグリムリーパーは引っかからない。
木曜の晩、私はローランドを秘密の場所に呼び出した。




