【親睦会で出会った男④(Germans I met at a social gathering)】
そのあとローランド中尉は話題を変えて、学生時代の失敗談など楽しい話をしながら上手に私の気持ちを癒してくれた。
食事も全て終わった頃、中尉が「ちょっと待っていて」と言って何かを取りに行った。
おそらく珈琲か紅茶でも取りに行ったのだろうけど、なんで私にリクエストを聞かないで行ってしまったの?
たとえ珈琲にするか紅茶にするかと聞かれても、私はそのままこの緑茶を飲み続けるつもりでいたから断っただろう。
中尉のほうも、私との会話や表情を見て、賢い人だからそう判断したのだと思うけれど、でも聞いてもらえないのはチョッと癪に障る。
いや、チョッとどころではない!
いつもなら、そのはずなのに、私は平然と呑気に緑茶を飲み続けていた。
「お待たせ~」
「なにコレ‼こんなもの、置いてなかったでしょう??」
ローランド中尉が持って来てくれたのはフルーツパフェなのだけど、何だかアイスクリームが緑色。
「サラの為に作って来たのさ」
「中尉の自作なの!?」
「そう」
ローランド中尉は、そう言ってニコッと笑顔を私に向けてくれた。
一番下がシリアルで、二段目に真っ白なアイスクリームがあり、三段目にはパイナップルの切り身とメロンの切り身が乗り、四段目には抹茶の粉末をアイスクリームに混ぜた緑色のアイス、五段目にはラズベリーとブルーベリーが白いとんがり帽子の様に伸びた白い明日クリームの上に撒かれていた。
「とても綺麗、しかも美味しそう♪ありがとう中尉」
「あんなに凄い武器を発明してしまうサラでも、やっぱり甘いものは好きなんだね」
「女の子だからね♬だけど、与え過ぎには要注意よ」
「なんで?」
「カロリー過多で体型が崩れてしまうでしょっ」
「なるほど!」
ローランド中尉が然も楽し気に笑うものだから、私もつられて自然に笑っていた。
それからも作戦実行が実行されるまで私は毎日のように基地に出向いて、夕方には士官用サロンでローランド中尉と一緒に話をするのが日課となっていた。
メェナードさんは担当地域がこのイラクと言う事も有り、用事が多くあってナカナカ顔を出す機会がなく、ローランド中尉の弟さんも訓練中の姿は遠くから見た事はあるけれどまだ学生なので士官用のサロンに来ることはなく未だに会った事は無い。
その日はローランド中尉が珍しく、外で食事がしたいと言い出した。
「幾らアメリカ兵では無いと言っても、任務以外で勝手に基地から出られないんじゃないの?」
「それが、チャンと外出許可を取ってあるのさ。しかも明日の分も」
「あら、ホント」
つまり、お泊りもOKってこと。
丁度、この日は金曜日だから、基本的に土日が休みの私に合わせたのは見え見え。
士官学校での敏腕スナイパーでも、やはり男の子は単純なものだ。
唯一単純でないメェナードさんは、この土日休みを返上して本部に出張中。
あら、私のナイトの留守を狙ったのかしら?
「どこへ行くの?」
「とりあえずコンサートに行かないか?」
「ジャンルは?」
「クラシック」
「OKよ」
中尉はポケットから楽しそうにチケットを取り出して私に見せた。
演目は、シェーラザート。
車でバグダッドのコンサート会場に向かう車の中でローランド中尉に聞く。
「もし私が断ったら、どうするつもりだったの?」
「そうなったら、俺は自殺していたかも……」
まるで悪ガキの様な笑顔で明るく応える中尉。
「じゃあ、私は命の恩人ね。感謝しなさい」
「ダンケ(ドイツ語で“ありがとう”の言葉)」
車を運転しながら、今日のローランド中尉はいつもより更に楽しそうに色々な話をしてくれた。
ドイツの話し、子供の頃の話し、そして家族の話し……。
「ゴメン、家族の話しまでしてしまって」
「知っているのね」
「ああ。だから……」
「いいよ、もう済んだ事だもの。両親が死んで私は孤児になった。でも、他の人たちもそんな私に付き合う必要なんてどこにもない。家族が居て幸せならそれでいいし、そういう話を聞くのは嫌じゃない。寧ろ家族が居るのに親兄弟の悪口を聞かされる方が嫌だわ。アナタには両親が居て、暖かな家族に育てられた。それはアナタの誇り」
「ありがとう」
「正直言うと私も家族への憧れは有るの。でも両親はもう戻ってこないでしょう。だったら、どうすれば良いと思う?」
「誰かの養女になる」
「ブッブー、不正解!親の代りなんて求めていない。それはどちらかの親が居れば、親の幸せのために再婚は応援したいけれど、両方とも居ないんじゃ仕方ないわ」
「じゃあ、どうするの?」
「私がパーフェクトな家族を作るの」
「さすがサラ。考え方の土台が凄い!」
「ダンケ!」




