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【親睦会で出会った男①(Germans I met at a social gathering)】

 イラクのラマーディー・キャンプで作戦会議が行われた後、親睦会を兼ねて簡単な立食パーティーが行われる事になった。

 会場に移動する兵士たちは皆、作戦会議の緊張が抜けて明るい表情で、中には冗談を言って笑いながら移動している兵士も居た。

 オビロン軍曹たちが亡くなったと言うのに、なんという奴等!?

 移動している列の中で、一人憤慨している私をメェナードさんが手を引いて外に連れ出してくれたので、私は今の自分の気持ちをメェナードさんにぶつける事が出来た。

「何で戦いの前にパーティーなの!?」

「今回の作戦は多国籍軍でグリムリーパーを取り囲み、絶対に逃がさない事が目的だからね」

「でも、作戦会議で充分話し合ったのだから、パーティーは余計な事よ。気が緩んでしまうわ。それに何よ、アイツ等!仲間が何人もグリムリーパーに殺されていると言うのに、冗談を言っている奴も居たわ!」

「そうだね、明日は我が身。いつグリムリーパーに狙われて死ぬかもしれないのに不思議だよね」

「ホント、それ!バカじゃないの!?」

「でもさ、四六時中グリムリーパーに殺されるかもって思っていたらどう?緊張感って、そんなに長い時間維持し続けられるほど人間は強くはない。それこそストレスで神経が参ってしまって作戦どころじゃなくなる。サラは、どう?誰かと話をすることによって、気持ちがリラックスする事って意外にあるんじゃないの?」

 苛立っていた気持ちが、まさにそのメェナードさんとの会話で急に納まった。

 しかも、それは話しの最後に私に振られた言葉。

 もう、本当にメェナードさんは私の足長オジサンなんだから。

 でも、怒っていた都合、そんなに子供みたいには素直になれない。

「そ、それは、そうだけど、そもそもその緊張するって事自体が問題なのよ!」

 ツンっと膨れっ面を見せて答える私の心を知っているのか知らないのか、メェナードさんは私の肩にそっと優しく手を置き「さあ、用意された食事が温かいうちにパーティー会場に食べに行こう。僕の胃は、もうあの匂いだけで胃酸が大量に噴き出して、このままだと胃酸によって胃壁が溶けてしまうかも知れない」と言って、ゆっくりとエスコートしてくれた。

 胃酸が出ても胃は溶けたりはしない。

 それも知っているくせに……。

 私はメェナードさんに優しくエスコートされるまま、パーティー会場へと入って行った。


 パーティー会場と言っても特別な部屋ではなく、そこは亡くなったオビロン軍曹たちと夏休みで会ったときに何度も御馳走になった事のある思い出深い食堂。

 既に亡くなっていることが分かっているにも拘らず、ここにこうして立っていると今にもオビロン軍曹たちが食べ物をいっぱい載せたトレーを持って笑顔で話し掛けてくれそうな気がしてならないと、そう思っていた私に誰かがぶつかった。

 “えっ、もしかしてオビロン軍曹!?”

 そんな予感がして振り向くと、そこに居たのはオビロン軍曹とは似ても居ない金髪の白人将校。

 背の高いスラッとした逞しい体つきに、恋愛映画にでも出て来そうな端正な顔立ちに優しい青い目が印象的。

 しかも安っぽい二枚目気取りとは違い、生粋の二枚目でしかも大人の落ち着いた雰囲気が漂う。

 メェナードさんとは全く異なる、何かもが恵まれたパーツで構成された、まるで空想の世界からやってきたような王子様に私の心は一瞬でときめかされてしまう。


「あっ、ゴメン。大丈夫?」

 知らない間にバランスを崩していた私の体は、その王子様の逞しく鍛え上げられた腕に支えられて……いや包み込まれていた。

 まるで巣の中で親鳥に大切に温められている卵の様な気分。

「ローランド中尉、さすがに手が早いですね」

「よしてくれよラルフ、そんなんじゃないって」

「えっ!?そんなんじゃないって??」

 思わず私としたことが、不意に思ってしまったことを口に出してしまった。

 私に好意を持っていたからワザとぶつかって、ワザとぶつかったからバランスを崩した私を直ぐに支えられたと私は思っていたのに違うの?

 それだとこのパーティーに対してメェナードさん相手に文句を言いながらノロノロと歩くワガママ娘に、後から入って来て全然気が付かないでボーっとしてぶつかっただけの注意不足な中尉さんと言う事になる。

 戦場でのパーティーとは言え、私だけ女性と言う訳ではなく、事務職やコンパニオンみたいな女性もいる。

 でも、どの女も私に比べれば美しさのレベルは段違い。

 いくら胸を強調したり脚を見せびらかそうとしたりしても、造形物としての私の美しさに叶う女はこの会場には居ないし、顔だけの比較でもそれは何ら変わらない。

 まあ人にはそれぞれ好みというものがあるけれど、一般的に考えるなら彼女たちは素人で私はモデルに分類されて然るべき。

 だからワザとぶつかって来たんでしょう?

 私の不満気な顔に気付いたのかどうかは分からないけれど、メェナードさんがぶつかって来たローランド中尉に挨拶を始めた。

「やあ、あなたがローランド・シュナイザー中尉ですか。私はPOCのロビンソン・メェナードです。そして今あなたがぶつかって支えている人物が、今回の会議で話題になって居たゴッド・アローの開発者であり私の上司でもあるサラ・アルテミス・ブラッドショウ主任です。ナカナカの美人でしょう?」

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