【プレゼンテーション②(Presentation)】
「んっ、んっ」
急に出番が回ってきた人物は、発言の前に自らの緊張を和らげるために咳払いをした。
「アメリカ軍兵士の保険を担当しておりますプルデンシャル・ファイナンシャル社の、ジェシー・ファーガソンです。保険料については階級と勤続年数によって変わって来ますが、実績ベースで言いますと25万ドルから40万ドルの範囲内で支払いが行われております」
「保険料は、個人負担なのですか?」
「いいえ、国が支払ってくれています」
「つまり国からの10万ドル+保険会社から25~40万ドルの補償が行われて、学費も免除と言う訳ですね」
「そう言う事になります」
「大変すばらしい!昔はたった1万ドルだった補償が50倍も引き上げられ、ご遺族の方々もプルデンシャル・ファイナンシャル社さまのおかげで安心して生活が出来るようになりましたね。でも、それは全部国費からまかなっていると言う事ですから税金からの支出。つまり国民が支払っているのと同じこと。という事ですね」
「そうです。戦争が起きない事が一番大切なことなのですが、兵士にとって保険は重要だと思います」
「確かに戦争は恐ろしいです。ちなみにこの会議の議題にも上がているグリムリーパーと言うザリバンの狙撃兵ですが、彼によって戦死した兵士は200名を超えると言われていますが、実際彼のせいで支払われた金額はどのくらいになるのですか?もし御存知なら教えて頂きたいのですが」
この会議に保険屋が来ていると言う事は、保険絡みの議題もあると言うことだろう。
つまりグリムリーパーのせいで、死亡者が増えて保険支払金が想定を越え値上げせざる負えないから、彼に関する詳細なデーターを保険屋のファーガソンさんは用意しているに違いない。
もう発表されのか、まだなのかは会議全体参加していない私には分からないが、国務省・国防省の役人にとって保険料の値上げの話しは聞きたくない話に違いない。
「はい。私どもの資料では使用された銃弾などで割り出されたデーターにより、グリムリーパーによって射殺された兵士は全体で1週間前の時点で270人に上り、その中でアメリカ兵は半数以上の164となり、支払われた保険金は死亡保険金だけで6478万ドルに上っていますし、破壊された車両や機材の損害を合わせれば優に1億ドルは越えます」
「死亡保険金が約6500万ドルで、全体の損害が1億ドル!?それがグリムリーパーたった1人の為にもたらされた損害なのですか!まるで小国家の国家予算並みですね」
「そうです、現時点での損害額はドミニカ共和国の国家予算1年分に相当します」
ドミニカ共和国は、アメリカから左程遠くないカリブ海の国。
近年では五輪陸上競技で有名で、アメリカでも馴染みの深い国の国家予算相当と聞かされて、会場がざわつく。
「でも、もう御心配の必要はありません。このゴッドアローは対人用狙撃砲としての運用も可能なのですから」
「それで価格は一体いくらなんだね!」
少し、じらし過ぎたせいで先方から価格提示の催促を受けた。
「1発100万ドルです」
「100万ドル……」
「たった1発では、物足らない。10発、いや100発購入した場合は幾ら迄下げられるんだ?」
「いいえ、このゴッドアローは対人狙撃として運用されますので、1発で充分です」
「しかし、もしも……」
「失敗は有り得ません‼概ね狙撃兵と言うものは現場を暫く離れない事が多いですから問題ないかと思います。もしグリムリーパーが臆病者で、素早く現場から逃げたなら別ですが、そのような場合に備えて勿論予備の砲弾はお持ちしますのでご安心を」
「その、予備の砲弾の価格も1発100万ドルなのかね?」
「いいえ、お客様に購入いただくのは1発だけです」
「では、あとの砲弾は?」
「使用する事も無いでしょうけれど、万が一使わなければならなかったときの費用は、こちらで負担します」
「それは有難い!」
「ところで、グリムリーパーの死亡判定は、一体どうやって行うつもりだ?なにせ我々は彼の正体を全く知らない」
「知っているのは、殺害された一部の兵士だけか……」
「しかも155mm砲弾の直撃とあっては、我々が彼の正体を知っていたところで、確認すらできないだろうな」
「では、成功か失敗かは、どうやって確認する?」
グリムリーパーに殺害された人たちの死亡保険金や損害額を並べたので、100万ドルと非常に高価な価格にもとらわれずに、会議室に集まった人たちの話題は“結果の確認”と言う使用した場合の“最良な結果”に対する議論に向かった。
つまり金額など、もう眼中には無いと言う事。
「待ってみたらどうでしょう」
ナカナカ結論が出ないので、思わず口を出してしまった。
「待ってみるとは?」
「いえ、……つまり、次の狙撃が行われるかどうかを待てば直ぐに彼の生死が分かると思います。なにしろ100発の銃弾で100人の兵士を射殺してしまう天才スナイパー。彼の代りになるようなスナイパーは、そうそう出現しないでしょう」
「でも、一体どのようにして待てばいいのですか?」
「今まで通り、なにも変えないで作戦を続けるのです。もしグリムリーパーが生きていれば、直ぐに次の狙撃が行われることでしょう。違いますか?」
「確かに、サラさんの言う通りだが、その間のサポートは行って貰えるのですか?」
「もちろん。全てセットで対させて頂きます」
「それは有りがたい!」
「グリムリーパーは出来るだけ早く始末しなければならないと思います。何故なら1日長引けば、それだけ彼による犠牲者が増えるだけです。私共もなるべく早く準備を終わらせる様に努めますが、これだけの大仕事なので準備にはある程度時間が掛かります。もし、差し障りが無ければ、どなたか決定権のある方に口頭でも構いませんのでGoサインを出していただけば私たちも動きやすいのですが、どうでしょう?」
「OK!Goで行こう。皆さん構いませんか?」
「Go!Go!Go!」
会場に集まった人の中で一番位の高そうな人が私の提案に即座に答え、他の人たちの同意を求めると、他の人たちも快く同意してくれて一応の契約を勝ち取る事に成功した。




