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【プレゼンテーション①(Presentation)】

「サラ・ブラッドショウさん、ロビンソン・メェナードさん、入室して下さい」

 職員が私たちの名前を呼ぶ。

 いよいよ順番が回って来た。

 この会議の議題は『Grim Reaper Assassination Conference(死神暗殺会議)』イラクのラマディー、ファルージャを中心にイラクの新政府軍や多国籍軍を苦しめているザリバンの狙撃兵『グリムリーパー』を抹殺する事を目的とする会議。

 会議のメンバーの中には先日行われたゴッドアローの実射テストを見学に来ていた武官たちも居た。

「それでは、これより精密誘導弾“ゴッドアロー”のプレゼンテーションを行ってもらいます。このゴッドアローは、――」

 司会者が予め私が用意した“ゴッドアロー”の概要を説明している間に私たちはプレゼンの準備に取り掛かる。

 メェナードさんが、持ってきた小型パワーアンプに会議室のスピーカーをプログラムで繋ぎながら、チラッと可愛らしい眼を私の方に向けたので私も出来るだけ可愛い眼でウィンクしてみせた。

 パソコンの保存ファイルの中からプレゼン資料が読み込まれ、インジケーターが上がって行く。

 ゲージがオレンジから徐々にグリーンに変わり、準備完了を表す。

 あとは、表示された開始ボタンを押すだけ。

「――。それでは、ブラッドショウさん、メェナードさん、宜しくお願いいたします」

 タイミングよく、司会者が私たちにバトンを渡すと、会場の人達の視線が一斉に壇上に居る私に集まる。

 そして私は、開始ボタンを押す。

 けれども、お喋りは始めないで黙って会場に集まった人たちの顔の一つ一つを見つめていた。

「……」

 何も話し出さない私に、始めは黙っていた人たちが暫くするとざわつき出す。

 耳鳴りの様な甲高い音が一瞬聞こえた。

 その音は極微かな音にも拘わらず、全ての人々の心の中にある恐怖と不安を急き立てる。

 やがて音は急激に大きくなったかと思うと、地鳴りのような爆発音を轟かせる。

 会場の至る所で椅子から転げ落ちそうになる人や机の下に潜り込む人、只茫然としているだけで身動きできない人たちが居て、次の瞬間には何が起こったのか理解できない表情で壇上に立ったまま自分たちを見下ろしている私に目を向けた。

「狙った獲物を外さない。これがゴッドアローです。予告なしで大変申し訳ありませんでしたが、いま疑似的にこの会議室の中央にゴッドアローが着弾して爆発が起きました。2発目は必要のない状況かと思いますので、皆さんどうか安心してご着席ください」

 今起きた事件を仕掛けた当事者の分際なのに落ち着き払って言うと、誰も文句を言う事もなくおとなしく私の指示に従い、皆が席に着いた。

 これで話の主導権は完全に私が握った。

 あとはテストの結果に合わせて、なぜその様に精密な射撃が出来るのか原理を説明し、全ての気象状況に左右されにくい利点などを競合する兵器と比較しながら説明を進めていくだけ。

 その前に、私たちのPOCという組織が何の目的で生まれ、そのバックに居る企業が何者なのかの説明をしておいた。

 POCはFor the Peace of children's(子供たちの平和のために)の略で、世界平和のために武力戦争抑止力を目的とした組織で、母体は世界各国の中央銀行を運営する金融組織。

 もちろんアメリカの中央銀行も運営していることを話した。

 こういったスピーチで最も大切なのは、いかに上手く話すかではなく、いかに上手く聞いてもらうか。

 要は聞く態度が良ければ、話の内容は耳から脳に肯定的に伝わりやすい。

 問題は、最後の価格提示。

 最初の“しかけ”で上手くペースをこっちの方に引き込み、バックに居る企業が身近でしかも信用度も高い企業であることも説明し信頼度も上げる事に成功した。

 あとは効果の説明をして、最後は価格等の話し。

 人間と言うやつは金の臭いがした途端目が覚めてしまう奴が多いから、ここを論理的に納得させてやらなければならない。

「ゴッドアローが素晴らしい兵器である事は充分分かりました。そこで、そろそろその価格を教えて貰えませんか?」

 予め打ち合わせしておいた段取り通り、司会者が値段の話を催促すると、会場の他の人達も身を乗り出した。

 でも直ぐには価格の話には移行しない。

「その前に教えていただきたいことがあるのですが、命の価値はアメリカ軍の場合、どのように扱われているのでしょうか?」

「と、申しますと?」

「つまり兵士が戦死したときの賠償は、どのようになっているのか?ということです」

 私の質問に、国務省の役人が軽く手を上げてから答えた。

「死亡補償金と、お子さんがいた場合は大学卒業までの学費が無料になるようになっています」

「ちなみに、死亡補償金の額は、お幾らでしょう?」

「以前は一律1万ドル程度が支払っていましたが、今は10万ドルと+保険に加入しておりますので、それよりは随分多い金額が支払われています。詳しく知りたければそこに保険会社の担当者が居りますので……」

 そう言って、会議室の斜め向かい側に座っている女性の方に回答を促した。

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