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【あしながおじさん(Daddy-Long-Legs)】

 ホテルからペンタゴンまでは、たったの700mだったので私はタクシーを使わずに歩いて行くことにした。

 デパートの角を右に曲がって次の交差点を左に曲がり、高速道路の下を抜けると直ぐそこはペンタゴンの駐車場があり目の前に見える建物がアメリカ国防総省本庁舎。

 通称“ペンタゴン”

「サラ、大丈夫?」

「何が?」

「何がって、緊張しない?」

「どうして私が緊張しなくてはいけないの?もう!メェナードさんの方こそ緊張していない?」

「だって、ペンタゴンだよ」

「名前や形に惑わされては駄目よ」

「でも、普通はこんな所に来ないぞ」

「とんでもない。ここに頻繁に来ないで武器商人が務まると思うの?」

「あー……さすがサラ!その通りだ。僕はどうにかしていたよ」

「ペンタゴンと言ったって、只の公的機関。市役所の大きいバージョンだと思えば大丈夫よ」

「なるほど」

「それに中の人間だって気にすることはないわ」

「でも、有能だろう?」

「まさか、それは公務員試験に合格したかも知れないけれど、それは只の学力の問題で、学力=頭が良いなんて思うのはナンセンスもはなはだしいわ。それに奴等の殆どは単なる“事務屋”よ。私たちに比べると比較対象にもなれはしないわ……どう?これで合格?」

「えっ!?」

「あらっ、私を試していたんじゃないの?」

「まさか!これは僕の正直な気持ちだよ」

「もう、確りしてよ!好い人過ぎ‼もっと悪党になる努力をしなさい!」

「それ、4年前にも言われたね」

 メェナードさんは、そう言ってハハハと笑った。

「もうっ!」

 足を止めてメェナードさんを睨んだ私も、その穏やかな笑顔につられて思わず笑ってしまった。


 入り口に入り、インフォメーションカウンターで用件を伝えると、担当者を呼んでくれた。

「さあ、ここからは気合を入れていくわよ!」

「OK、サラ」

 担当の職員に連れられて会議室の前まで行く。

「ちょっと待っていてください」

 職員は廊下に私たちを待たせたまま、ドアの横に付いているインターフォンを押し会議室の中に居る職員と連絡を取り合って、私たちがプレゼンを行なえる順番を調整していた。

「時間通りに入れると思っていたのに、やけに待たされるんだな」

「仕方ないわ。お偉いさんたちが集まっているのは、私たちのプレゼンがメインと言う訳ではないから」

「えっ!そうなの?」

「えっ!?そうよ。メェナードさん、なんだと思っていたの?」

「いや、普通にゴッドアローの購入の是非についての会議……違うの?」

「違うわよ。この会議室で行われている話はイラクの治安問題がメインよ。その中でも最も時間が割かれるのは“グリムリーパー”に関する事で、そのためにアメリカ国内の担当者だけではなくイギリスやドイツなど多国籍軍からも担当者が派遣されているのよ」

 メェナードさんが、私の腕を取ってペンタゴンの職員から離れた場所まで誘導して声を押し殺して言った。

「でも、そんなことどこで調べたんだい?僕もペンタゴンの内部サイトにハッキングして見たんだけど会議室の予約状況しか分からなかったし、そもそもこの会議室の場合はメンバーの名前すら掲載されてなかったのに」

「あー、メェナードさん惜しい!」

「惜しい?」

「そう。折角ハッキングして中に入っても、誰でも覗けるところだけ見たんじゃ仕方ないわ。そこは職員だって閲覧できるんだもの」

「えっ、じゃあ、どこを見るの?」

「ハッキングで目的のサイトに入ったら、システムに進入してから管理者権限のプログラムを探すの。この会議室の場合モニター上は空白になっている内容でも、管理システム上では予約者のEメールアドレスが表記されているわ。あとはペンタゴンのサーバーの中に入って、このEメールアドレスが発信した相手や内容を追っていけば、誰が出席するのか、キーマンが誰なのかが分かるの」

「それって、バレたら大変なんじゃないか?」

「システムやプログラムを書き換えれば直ぐに発覚してしまうけれど、管理者としてプログラムを閲覧するだけならシステム管理上毎日行われているから管理者コードが重複していない限り発覚する可能性は少ないわ」

「管理者コードが重複すると言うのは?」

「ここで言う管理者と言うのは、システムを運営するサーバーの管理者のことね。こっちの管理者は限られた数人だけになるけれど、急なメンテナンスに対応するためリモートに対応しているから意外に侵入は容易いの。要はその管理者の生活状況を確認して、相手が使用する時間に鉢会わないようにすればいいの」

「うわぁ~……マイッタ!僕がサラと初めて会ったときは頭の良い綺麗な女の子って言う印象で、でもまだ君は子供だったから僕の方が上だって思える所もあったけれど、もう君には完ぺきに敵わない。いや本当にマイッタ!」

 メェナードさんが笑顔で、しかし真剣な眼で私を見て言ってくれた。

 メェナードさんに認められるのはいつも嬉しいし、綺麗だって言ってもらうと尚更心が暖かくなる。

 でも“敵わない”とか“マイッタ”なんて言われるのは嫌!

 そんな風にメェナードさんに思われて、距離を取って欲しくはない。

 だいいちメェナードさんは、私なんかより凄く強いくせにそんな所を見せびらかしもしないし、自慢もしない。

 人当たりも凄く良くて、思いやりもある。(時には、それが欠点になる事もあるけれど)

 そしてなによりもメェナードさんは、私の大切な“足長オジサン”なのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言]  もっと悪党になる努力しなさい❗  は、本当に笑っちゃいます。  サラちゃん、本当にメェナードさんが大好きなんだなあって思います。  私は個人的にメェナードさんの自慢したりしない処が好きです…
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