【アメリカへ!②(To USA)】
22時55分、定刻通りデルタ航空のエアバス A330はベン・グリオン国際空港を飛び立った。
これから大西洋を渡り、明日の昼にはペンタゴンに辿り着く。
飛行機の座席なんて広くても狭くても私には関係ない。
どうせ殆ど寝て過ごすだけだもの。
特に私の場合は体も大きくないのでエコノミークラスだって左程気にならないけれど、体の大きなメェナードさんにとってはシートが広い方が居心地は格段に良いことだろう。
飛行機が出発して直ぐにCAがディナーのオーダーを聞きに来た。
もう夜中の23時を過ぎていると言うのに、非常識極まりないわ!
私はこんな真夜中に食事を食べるなんて、まっぴら。
それなのにメェナードさんときたら美人のCAを前に、鼻の下を伸ばしてメニューの内容を聞いている。
「こんな夜中にこんなに沢山食べては駄目よ!」
「えっ!?でも、折角……ねえ」
食べる気満々だったメェナードさんがCAに助けを求める。
「すみません。この食事をキャンセルできますか?」
CAは少し困った顔を見せたが、直ぐにキャンセルできると笑顔で答えたので、私の分はキャンセルして後はメェナードさんに任せた。
「じゃあ僕もキャンセル。その代り軽いオードブルは有りますか?」
「はい。ご用意できます」
「じゃあ、それとビール」
メェナードさんが、チラッと私の方を向いたので、私はニコッと笑ってホットミルクを注文した。
特にホットミルクが飲みたかったわけではないけれど、メェナードさんが楽しみにしていたファーストクラスのディナーを取り上げてしまった手前、飲み物だけでも一緒に飲んであげたかった。
いや、あげたかったのではなく、一緒に飲みたかった。
「ゴメンなさい。折角楽しみにしていたファーストクラスのディナーだったのに」
「大丈夫さ。勿論メニュー表には心がときめいたのは確かだけれど、よくよく考えれば大切な仕事の前に体調を崩してしまったら元も子もない。注意してくれてありがとうサラ」
「そんな、本当に御免なさい。……帰りもファーストクラスに乗れるように、私頑張るから」
「うん。僕も助手として頑張る!」
ビールとホットミルク。
お互いのグラスを軽く持ち上げて、健闘を誓い合った。
機内で朝食を食べた。
私はオートミールとサラダに果物、それとフレッシュジュース。
メェナードさんの方はパンケーキにソーセージやスクランブルエッグにマッシュポテト、それにポタージュスープにビーンズとサラダとフルーツにデザート、更にヨーグルトに珈琲。
色鮮やかだけど、まるで豚のエサ。
朝からこんなに食べる事が出来る人間って居るのかしら……と思いながらメェナードさんのプレートを見ていると、テキパキと然も美味しそうに各食材を次々に口へと運んで行き、ほぼオートミールだけの私と同じペースで食事を終えたのには驚いた。
確かにメェナードさんは、いつも美味しそうに食べるけれど、それはチャンとしたレストランでの事。
こんなシェフも同乗していない電子レンジで温めただけの機内食まで、何故美味しそうに食べられるのか不思議だったので食後に聞いてみた。
すると、素晴らしい回答が返って来た。
「誰が作ったのかお互いに知らないけれど、人が人のために、そして航空会社が自分の会社を選んでくれた旅行者のために用意してくれた料理なんだから美味しいに決まっているだろう」
なるほど、人が人のため。
会社を、選んでくれた利用者のため。
ナカナカ好いことを言う。
「ねえ、今度私がお料理作ったら試食してくれる?」
「ええっ、サラが、料理を作るの!?」
「えっ、なんか変?」
「変じゃないけど、テルミット反応が起こるようなモノが入って無ければ、僕で良ければいつでも御馳走になるよ」
「そんなの入っている訳ないでしょ!」
朝食が終わると暫くして飛行機は着陸態勢に入り、無事ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に降りた。
乗る時は気にしていなかったけれど、降りる時はファーストクラスの有難さを感じずにはいられなかった。
なにしろ、混まずに真っ先に降りられるのだから。
この空港のラウンジで3時間余り待ってから、国内線に乗り換えてペンタゴンのあるロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港に降りた。
ここからペンタゴン迄はたった3㎞。
プレゼンは明日なので、会社が予約しておいてくれたペンタゴンと高速道路を挟んだ向かい側のホテルに泊まる事になった。
ここも広々とした、いかにも宿泊単価の高そうなホテルだった。




