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【アメリカへ!①(To USA)】

「自分のため?」

「そう。美味い話を聞きつけて、それを自分の手柄として横取りするために。違いますか?」

「ま、まさか、そんな……誰に唆された?」

「誰にも」

「じゃあ何故、そんな事を言う」

「それは、アナタの心に聞けば分るでしょう?とにかく北アフリカの幹部にワザワザ手伝って頂かなくても、ここは中東の担当者と私でチャンとやってみせます」

「ちっ。商談が失敗させることは、会社に迷惑を掛けると言う事なんだぞ。まして商談などした事もないド素人の分際で海千山千の連中の前にノコノコと出て行って、恥をかかされた泣いても知らねえぞ」

「商談は失敗しませんし、そんなちっぽけな事で私は泣いたり後悔したりする事はありません。もちろん会社の恥になるような事も、会社に迷惑をかける事もありませんので御心配には及びません」

 そう言って私は出口の方に手を伸ばし帰るように促すと、ドアの向こうから呑気にこっちに向かって来ている人物が目に入って驚いた。

 何とタイミングの悪いことに、こっちにやって来るのはメェナードさん。

 ジュジェイもメェナードさんを見つけて、私を睨んで言った。

「なんと、お前さんのパートナーと言うのは調査員のメェナードか!?」

「だったとしたら、何なんです?」

「これはお前の言う通り、俺様が絡まない方が良さそうだ。商談をしたこともない調査員とお前じゃあ、話をする前から御破算になる事は火を見るより明らかだろうからな。じゃあ、くれぐれも先方に失礼の無い様に頼んだぜ」

 そう言い残すとジュジェイはワザと声を上げて笑いながら、そして入って来たメェナードさんにワザと肩をぶつけて出て行った。

「ジュジェイさん、どうしたの?」

 ワザと肩をぶつけられた事くらい分かっているくせに、怒るどころか相手の心配をしてしまうメェナードさん。

「さあ?虫の居所が悪かったんじゃないの」

 私は、そう言って笑った。

 笑ったのは、愛想笑いではなく、メェナードさんの人の良さに呆れて……いいえ、そういうメェナードさんが羨ましくて、好きで思わず笑みがこぼれてしまったのだと思う。


 上層部には既にメェナードさんが連絡を取ってくれていたので、私はプレゼンの段取りに集中でき、その日のうちに研修所を出てテルアビブにあるベン・グリオン国際空港に向かった。

 このベン・グリオン国際空港は、1972年5月30日に日本人過激派3人によるテルアビブ空港乱射事件が起きた空港で、テロリスト流出入防止のために最もセキュリティチェックが厳しいことで有名な空港のひとつ。

 一応イスラエル国籍を取得している私は大丈夫だったが、アメリカ国籍でイラクでの特派員と言う肩書のメェナードさんは全ての荷物をチェックされ、その時間は約2時間にも及んだ。

「やれやれ、僕のどこが不審者に見えるんだろうね?」

 まるでテロリスト扱いみたいに厳重な検査に、うんざりしているメェナードさんが可哀そうでもあり、またそのことで特に不快感をあらわにすることも無いいつもの態度が可愛くも感じてしまう。

「初めてでは、ないですよね?」

「そうなんだよ。この空港からどこかに行こうとすると、毎回この様な扱いを受けてしまうんだ。いい加減僕の顔くらい覚えてくれもよさそうなのにね」

「まあ、顔に似合わない立派な体格が、余計に怪しいと思わせるのかも知れないわね」

「そうかなあ……」

 私の言葉に、何だかメェナードさんは少し嬉しそう。

 男の人、特に体を鍛えている人は、何よりも体格の事を褒められるのが好きみたい。

 イスラエルからペンタゴンのあるバージニア州へ行くには、一旦ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に降りてから飛行機を乗り換えてロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港に向かう約18時間の旅になる。

 それにしても、2人の大統領の名前のついた空港に降りたつなんて、なんと名誉な事でしょう。

 機内に入ると、メェナードさんがまるで子供のように喜んでいた。

 原因は座席のこと。

 会社が私たちのために取ってくれた座席はファーストクラス。

 私自身、飛行機に乗るのは初めてではない。

 けれども、その記憶は遠く、私が未だ幼い子供だった頃の記憶。

 その時も広くゆったりした座席に家族3人で座っていた。

「なんで、そんなに嬉しいの?」

「だって、ファーストクラスだよ」

「いつも、そうではないの?」

「まさか、僕の様な身分の低い社員は、普通エコノミーか良くてプレエコだよ。それに商談目的の幹部に何度か付き添ったこともあるけれど、その時だってビジネスクラスでファーストクラスなんて幹部連中だって滅多に乗る事もないよ。やっぱりサラは余程期待されているみたいだな」

「そうなんだ。じゃあ頑張らないといけないのね」

「あれっ、もしかしてたいして嬉しくないとか?」

「嬉しいよ、一応」

「サラは、いつもクールだな」

 会社に期待されていると言われて、嬉しくないわけはないけれども、まるで他人事のように返事をした。

 何故そんな態度をとってしまったのか分からないけれど、ただ一つだけ言えるのは、私はおそらくメェナードさんに褒められたいと思ったからなのだろう。

 なんでこんな風に思ってしまったのだろう?

 会社は私の為にファーストクラスを奮発してくれたのにワクワクもしない。

 それに引き換えメェナードさんが奮発してくれるレストランでの食事は、いつも私をワクワクさせてくれる。

 金額的には遥かに会社が私に掛けるお金の方が大きいのに、なんだか不思議……。

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