【オビロン軍曹の死(Death of Sergeant Obiron)】
「えっ、誰が撃たれたって!?それに、“たち” って、どういう事??」
「撃たれたのはオビロン軍曹と、ジョン曹長、それにメアーズ伍長の3人だ」
「で、3人は大丈夫なの?一体何で撃たれたの!?」
「……3人はグリムリーパーを誘き出して射殺するための作戦中だった」
メェナードさんは、私の最初の問いには答えないで、後の問いだけに答えた。
つまりオビロン軍曹たちは『グリムリーパー掃討作戦』の最中に、そのグリムリーパーによって撃たれた。
グリムリーパーが狙った的を外すわけがないから、メェナードさんは私の最初の問いには答えなかった。
何という事だろう……。
頭がクラクラして、立っているのがやっと。
出来る事なら、何も考えずに思いっきり泣きたい。
けれども悲観していても意味がない。
私は直ぐにメェナードさんにコンタクトを取るべき人物を指名して、グリムリーパーへの復讐作戦の段取りを行った。
イラクの方はメェナードさんに任せておいて私はこちら側の段取りをするためイスラエル国防省と、ゴッドアロー試作品の製作を依頼している工場へ直接電話を掛け生産済みの砲弾数の確認をした。
イスラエル国防相にはアメリカ向けの出荷注文が近日中に入るので、その輸出手続きを進める様に依頼した。
「発注数はどのくらいですか?」
「1発です」
「たったの1発ですか!?……で、価格は幾らくらいで販売するつもりですか?」
「――」
私の価格回答に、イスラエル国防相の担当者が素っ頓狂な声を上げて驚いた。
次はメェナードさんから説明を受けた人物からの連絡を待つだけ。
ただボーっと待っていても仕方がない。
おそらく、こっちは今日の事にはならないだろう。
もっともこの話を断るつもりなら話は別だが、回答までの時間がある程度長い方が脈は有るだろう。
一応、開発の件も含めてPOCの本部には今回の事も報告しておいた。
オビロン軍曹たちの戦死から丁度1週間が過ぎた日に、ペンタゴン(アメリカ国防総省)から直々に連絡が入った。
購入を検討するにあたって、単価や実績などが知りたいとの事でペンタゴンにてプレゼンテーションをして欲しいと言うものだった。
先方からはプレゼンテーションをするにあたって資料などの作成にどのくらいの時間が掛かるか聞かれたので、それはもう出来ていると答え日程はそちらで好きに調整してもらって構わない旨を伝えた。
電話を切ると直ぐにメェナードさんに連絡して、近日中の予定を全てキャンセルしてイスラエルの研修所に直ぐ来るように伝えると自分の事のように喜んでくれた。
「そんなに喜ばないで。確かにプレゼンまでは漕ぎ着けたけれど、購入が決まった訳ではないわ」
「でもサラは、そのプレゼンで落とすつもりなんだろう?」
「まあね」
「じゃあ僕も直ぐにそっちに行くから」
「スケジュール調整は大丈夫なの?」
「君から根回しの依頼を受けた日。つまり僕がオビロン軍曹たちの戦死を君に伝えた日に、既にこうなる事を予想してスケジュールは開けておいた」
「まあっ!そんな事をして大丈夫なの?もし、私が何もしなかったら仕事が遅れちゃうだけになるのよ」
「大丈夫さ。だって依頼主はサラなんだもの」
メェナードさんの暖かさが染みる言葉だった。
私は常にメェナードさんを信頼していて、メェナードさんも私の事を信頼してくれている。
5歳の時に家族と別れてしまったのは不幸だったのは間違いないけれど、そのおかげでメェナードさんに出会える事が出来たのは神様の思し召しだと私は信じている。
最初の連絡から2日後にプレゼンテーションが行われる日にちの連絡が入り、その次の日のこと。
メェナードさんより先に、嫌な奴が研修所に訪れた。
「よう。久し振りだな。ナカナカ頑張っているみたいじゃないか」
やって来たのは北アフリカ担当幹部のジュジェイ。
「何の用です」
「何の用とは御挨拶だな。折角応援に来てやったと言うのに」
「応援?」
「そうさ、ペンタゴンでプレゼンをするそうじゃないか。不慣れな君だけでは心もとないと思ってね」
「それで?」
「俺が代わりにプレゼンをしてやる。プレゼン資料を見せろ」
「嫌だ」
「嫌!?どうして?」
「アナタは確かに幹部ですが、担当が違います」
「確かにな。だけど会社の為を思ってワザワザ担当地区の垣根を越えて、こうして応援に駆けつけてやった。いくらで売るつもりだ10か?それとも15?」
「安売りするつもりはない」
「おいおい。安売りって競合相手のエクスカリバーは開発当初こそ26万ドルもしたが、いまでは10万ドルも掛からないで手に入るんだぜ。いくら性能が上だと言っても15を超えて迄相手は欲しがらねえぜ」
「ゴッドアローは、エクスカリバーの性能向上型ではない。全く別物だ」
「まったく分かっちゃいないね。開発者と言うのは、毎度そう言う事を言って商機を逃しちまうんだ。ここはプロに任せて、素人は引っ込ん居てくれないか。それが会社のためってもんだ」
「会社のため?アナタは御自身のために、ここに来たのではないですか?」




