【夢の中の狙撃兵(Sniper in a dream)】
部屋に戻り33時間振りにベッドに横になると、スーッと体中の疲れが真っ白なシーツに吸い取られて身が軽くなった様な気がした。
やはり睡眠は大切だ。
シャワーも浴びたかったけれど、今は睡眠欲の方が優先。
それにイラクの孤児院では、あんなに衛生的に悪い環境にもかかわらず、シャワーさえ数日おきにしか使わせてもらえなかったから左程気にならない。
もっとも痩せているからなのか、他の人に比べて汗を掻かない体質なので体臭もないし、いつでも綺麗で居たいとも思わない。
綺麗さは、それを必要とする場面で発揮できさえすれば充分。
睡魔は直ぐに私を迎えに来て、闇の中へと連れて行った。
真昼なのに、真っ暗な街。
そう。
これは夢の中の街だ。
生暖かい風が嵐のように吹く通りを駆け抜けて行く私。
一体私は、どこにに向かっているのだろう?
着いた先に有ったのは、崩れたビルの残骸。
これは?
「ゴッドアローが、もたらした悲劇の残骸」
闇の中から、誰かが私に話しかける。
「ゴッドアローが?」
「サラ、妹の消息を探すんじゃない」
「誰!?」
声の主に問うが、返事はない。
いつの間にか風は止み、辺りが鮮明に見えて来る。
地面には、おびただしい瓦礫の山が積み重なり、その中には何人かの人の体も見える。
これが戦争……。
戦争は軍人だけが危険な目に遭うわけではない。
広大な野原で戦い合う昔の戦争であれば、一般市民が巻き込まれる確率は低いが、今の戦争は都市を攻撃することが殆ど。
都市には大勢の市民が住んでいる。
戦争は建物を破壊し人の命を奪うだけではなく、文化やインフラをも破壊して、生き残った者達の生活も困難なものとする。
「だから私は敵の司令部や戦争の鍵を握る非道な人間を殺すために、このゴッドアローを」
「戦争は開発者の思いをも呑み込んで成長する化け物だ!」
私の声に、再び反応する謎の声。
確かに謎の声の言う通り。
第二次世界大戦で広島と長崎に投下された、たった2発の原子爆弾は一瞬にして20万人以上の命を奪い去った。
アメリカ政府はこの戦果を恥じる事もなく喜んだ。
これで戦争は終わると。
そして原子爆弾を持つアメリカこそが、世界の覇者になれると。
しかし、原子爆弾は直ぐにアメリカだけの物ではなくなり、世界は常に核戦争に怯える事になってしまった。
「アナタは、もしかしてパパなの!?」
だが、やはり返事は帰ってこなかった。
「サラ!妹さんを見つけた!」
謎の声に代わって聞こえてきたのは、オビロン軍曹の声。
「妹が?どこで見つけたの‼」
オビロン軍曹の返事も待たずに、私は不覚にもベッドから飛び起きてしまった。
夢。
そう、これは全て夢の中の出来事。
現実とは何の関係もない。
それにしても酷い寝汗。
普段は殆ど汗なんてかかないのに。
ベッドに入ってから、そう時間は経っていなくてまだ外は明るかった。
とりあえず、シャワー室で体をサッパリする必要がありそうだ。
不潔な体には、不快な悪魔が宿る。
シャワーを浴びてサッパリして部屋に戻ると、携帯電話が光っていた。
ボタンを押すと、メェナードさんからの着信通知。
いつもならウキウキするはずなのに、嫌な夢のせいもあって何だか嫌な予感がして電話をかけ直すと、いつもノンビリ携帯を取るメェナードさんがワンコールも経たないうちに電話に出た。
「どうしたの?」
恐る恐る聞いた声が伝わったのか、メェナードさんは直ぐには答えずに一呼吸間をおいた。
そして私に伝えた。
「オビロン軍曹たちが撃たれた」




