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【オビロン軍曹からの手紙(Letter from Sergeant Obiron)】

 実射テストは予想通りの結果が出て、開発の継続が認められイスラエル当局からも開発に対する援助が確定した。

 けれども私は、正直これでゴッドアローがどこかの国に採用されるなどとは思ってもいない。

 砲弾の威力や撃ち込める砲弾数を考えればエクスカリバーでも贅沢過ぎるのに更に高価になってしまう物の需要は少ないだろうし、ゴッドアローの一撃必殺が必要となるシチュエーション自体そうそうあるようなモノでもない。

 言ってみれば新しい“技術”の為の研究。

 技術者の立場から見た場合は、これで大成功だと言える。

 けれども私は技術者としてこの組織に雇われている訳ではなく、あくまでも幹部候補生と言う立場で将来的に良いマネジメントを行える事を期待されているのだ。

 技術は、その一環として身に着けているだけでいい。

 言ってみれば“やり過ぎた結果”だったのだ。

 ゴッドアローの開発は、将来なるべき自分への足かせにもなりかねない。

 と、そう思っていて適当な時期に適当な担当者を見つけて引き渡すつもりでいた。

 その日はヘブライ大の講義を朝から昼過ぎまで受けて、夕方前にテクニオンに戻ってから徹夜でゴッドアローに関する様々な研究を夜通しして、朝には迎えの車でまたヘブライ大に行き昼過ぎにようやく研修施設に戻って来ることが出来た。

 玄関に入り、レターケースの中を見ると1通の手紙が入っていた。

 既に組織の誰かが読んだらしく、封筒には“検閲済”の封印がされてあった。

 差出人はイラクのラマディーに駐留しているアメリカ軍のオビロン軍曹から。

 他の研修生は皆大学に出ていて誰も居ない研修生専用のフロアーにある食堂の自動販売機で珈琲を買い、昨日の夕方にテクニオンの売店で買ったサンドウィッチを開けて手紙の封を破る。

 達筆とは言い難いけれど、オビロン軍曹の優しさが良く伝わる丁寧な字が並べられていた。


 ≪よう!俺達のリトルエンジェル「サラちゃん」元気に大学での勉強頑張っていますか!?今日は重大なニュースが合って久し振りに手紙を書きました。

 学がないのでスペル間違いはお願いだから気にしないようにして!

 実はこの夏を最後に私オビロン軍曹は帰国する事になりました。

 イラク赴任から5年、戦争とかテロとかで嫌な思い出ばかりだったけど唯一サラと出会えたことは俺の大切な良い思い出になり、毎年夏にサラがラマディーに来てくれるのを楽しみに頑張って生きて来られた。

 あっ、いや、これ大袈裟じゃなくマジですから。

 4年前、あの国道でザリバン兵の待ち伏せに会ったとき、俺の人生は此処で終わってしまうと思っていた。

 仕掛け爆弾で分隊の車両はヤラレテいて、半数以上が負傷して向こうは無傷。

 応援部隊の到着までマダマダ時間が掛かる状況。

 そんな絶望の中、ヘンテコな(失礼!でも事実だろう?)オートバイに乗った君が現われて、躊躇する事もなく道端に転がっていた負傷した仲間の銃を拾い、次々と敵を撃退してくれた。

 その姿は、折れかけていた俺の心に火を灯し、生きる希望を与えてくれた。

 それからも毎年大学の夏休みにイラクに来た時にラマディーに立ち寄ってくれて、ありがとう。

 俺を含めて分隊の仲間たちやジョンやメアーズなんかも、サラが毎年夏休みに来てくれて一緒にキャンプファイヤーをすることを楽しみにしているんだ。

 あっ、これホントだから。

 クリスマスの時だって皆で、また来年も生きてサラに会えますようにって皆で神様にお祈りしたんだぜ。

 そして、もう直ぐ夏休みだね(2か月もあるから、まだ早いか!?)

 妹さんの手がかりは見付かった?

 現地の情報局員にも依頼はしてみているんだけれど、相変わらず少人数で街や道路のあちこちで起こるテロに振り回されて全然手が回らない状況で、なんか役に立てなくてゴメン。

 アメリカに帰ったら、CIAの本部に直々に掛け合ってみるつもりだ。

 この前、メェナードさんからサラのキャンプファイヤー列伝を聞いたよ。

 もう、みんな大爆笑さ!

 サラなら、あの忌わしいグリムリーパーをやっつける事が出来る!

 これ、みんなの意見。

 ジョンは「俺が仕留めて見せる!」って張り切っているみたいだけど、俺の感想では奴には無理だ。

 やっぱりグリムリーパーを退治できるのは、世界中でサラしかしないと俺も思っている。

 ところで、今年も夏休みに来てくれる?

 いや、俺のイラクでの最後の夏休みなんだから絶対来て欲しい!

 そこで君が小学校6年生の時に見せたと言う、魔法を是非拝見させてくれ。

 それでは、夏に再会できることを楽しみにしているぜ‼。

           20××年4月18日

           親愛なる友 サラ・アルティメス・ブラドショウへ

                      Fromウォルター・オビロン≫


 まあっ!

 メェナードさんったら、私に何にも言わないで、あのキャンプファイヤーの話しを皆にしたなんて……それでも、その話を聞いてゲラゲラと屈託なく笑うオビロン軍曹たちの笑顔が目に浮かび、私も何だか可笑しくなる。

 ゴッドアローの実射テスト以降、小さな不具合箇所の改善や生産工程の簡略化など、単なる研究・開発だけではなく生産コストの削減などにも取り組んで忙しい日々を送っていた私が忘れかけていた“笑い”を呼び戻してくれたオビロン軍曹の暖かい手紙。

 今年の夏休みも絶対にイラクへ行く。

 今年こそ、妹に会えそうな、そんな予感がして心がワクワクして来た。

 それにしても今日は4月29日だから、投函されてもう11日も経っている。

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