【シスコン(SISCON)】
結局、メェナードさんのおかげもあって、無事実射テストは終了した。
M982 エクスカリバーとゴッドアローは、共に10発の試験弾の発射を行い、M982 エクスカリバーは5mから10mと言う気まぐれな風速と砂漠特有の絶え間なく変わる風向きの影響も受けて弾着誤差5mを大きく超えて15mに広がり、標的に直接命中したのは1発だけで地下壕を破壊する事は出来なかった。
片やゴッドアローの方は、計算通り誤差1m以内に10発全てが着弾し、標的の真下に作られた地下5mの壕の破壊にも成功した。
結果はゴッドアローの圧勝で幕を閉じた。
「おめでとう!サラは、さすがだね」
「ありがとう。でも、採用されるかどうかは未だ分からないわ」
実射テストが終わった後、メェナードさんは私をアシュドッドのビーチの傍にあるレストランに連れて行ってくれた。
「しかし良く分かったわね。テストの邪魔を企む奴が居る事に」
「ああ、うちの組織の情報網はCIAに情報提供するくらいだから、どんなに小さなことでも分かるんだ」
「それもメェナードさんたちの仕事なの?」
「まさか、僕たちとは違う普通の仕事をしている人たちからの提供さ」
「普通の仕事って?」
「おもに不動産や銀行・証券、一般企業にも協力者は多くいる」
「ハイファの正体も、その協力者の1人と言う事ね」
「……さすがだなサラは。何気ない会話から、そこへ導くなんて」
「何言っているのよ。メェナードさんがイラクからワザワザ私のボディーガードをしに来たと言う事は、その報告も兼ねているってことでしょう?」
メェナードさんは、さばいていたロブスターの手を止めてナイフとフォークを置いた。
「実は、その通りなんだ」
「やはりハイファも私たちPOCの関係者なの?」
「いや、そこは違う。彼女は、もうひとつの平和のための組織SISCON側の人間だった」
「SISCON?」
「そう。僕たちの組織For the Peace of children's(子供たちの平和のために)通称POCは武器による抑止力を使い平和を維持しようとしているのは知っているよね」
「ええ。武器により安定した政府基盤を作る事で、政治体制を盤石なものとしてテロやクーデターを未然に防ぐ。そのためなら多少の流血をも厭わないって所が、私は気にいらないけれど」
「おっと、そこは公に言っては駄目だよ」
「分かっている」
「SISCONと言うのはSecret Intelligence Service Control(秘密情報制御部)の略で、こっちは情報をいち早く察知して武器の使用に至る前に問題を解決しようとする組織で、我々とは真逆の戦略をとる。つまりPOCは武器の供与によって戦力の均等化を図り戦闘を回避、もしくは体制の強化を図るのに対してSISCONは事前に収集した情報に基づいて話し合いで解決を図る」
「夢ね」
「ところが、そうでもない。実際に一切の流血を見ないでソビエトは恐怖政治を終えてロシアになったし、東西のドイツは統一された。南アフリカのアパルトヘイトも廃止された」
「成功事例としては御立派だけど、確率的には低いと思うわ。だいいちロシアになったと言っても、政治的な野蛮さは何も変わっていないわ」
「そう。ロシアは今でもヤバイ国に間違いないし、SISCONはコンゴや旧ユーゴスラビア、それにミャンマーや香港では手痛い失敗をしている。でも成功すれば、それは凄く価値のある勝利だ」
「で、そのハイファとママの繋がりは?」
「ハイファは、君のお母さんのパートナーだった」
「ママの、パートナー!?」
今まで落ち着いてメェナードさんの話しを聞いていた私は、驚いてテーブルの上に身を乗り出した。
だって、パパはPOCの幹部だって聞かされていたから。
「どういう事!?パパが……」「しっ!」
驚いて声を上げた私の口をメェナードさんに塞がれて、私は周囲を確認して小さな声で呟いた。
「パパがPOCで、ママがSISCONだなんて、一体どういうこと?」
「分からない。……ただ、サラの両親は敵対する2つの組織の垣根を越えて、もっと平和になる世界をイラクで模索していたと言う事だろう」
「しかし志半ばで、パパとママは何者かによって殺された」
「そのせいで混乱が起こり、グリムリーパーと言う恐ろしい怪物を生み出す事になった」
「確かにグリムリーパーと呼ばれる狙撃兵の腕は凄いとは思うけれど、所詮個人技よ。そんなに恐れる事もないでしょう」
「ところが、そうでもない。実際に我々の組織の中でも彼を欲しがっている幹部は多く居る」
「うちの幹部が?何のために」
「つまり、要人暗殺のため。彼ほど有名で、しかも確実性の高い狙撃兵は第2次世界大戦中に“白い悪魔”と呼ばれたシモヘイヘ以外にはいない」
「POCがグリムリーパーを雇っていると言う事で、渋る交渉相手を従わせると言う事?」
「ああ。実は僕も、この考えには賛成なんだ」
「悪いけれど、メェナードさんが彼を手懐けられるとは思えないわ」
「実は僕もそう思っている」
「ふふふ。そうね」
メェナードさんの答えに、思わず笑ってしまった。




