【ゴッドアロー③】
チラッと運転席の方を見ると、運転手は一味の仲間ではないらしく、車から引き出されて既に地面に俯せに寝かされていた。
つまり、私たちしか居ないこの砂漠のど真ん中で、敵4人を相手に私の味方は誰もいないと言う事。
更にマズいのは、刻一刻と発射時間が迫っている。
「腕に覚えがあるのなら、掛かって来なさいよ」
さすがに敵も馬鹿じゃなく、そう簡単に私の挑発に乗ってこない。
敵にしてみればこの睨み合い状態でも私は作業が出来ないわけだから、ミッションは成功したも同じこと。
もう1人の兵士が自動小銃を私に向けているので、取り出す間に撃たれてしまうから余程のことがない限り拳銃は使えない。
仕方ない。
あまり自信はないけれど、こっちから仕掛けるしかない。
「へなちょこね。私、いま忙しいんだから、アンタ達のお遊びなんかに構っている暇なんてないの。遊びたいのなら、そこら中にある砂場で勝手に遊んでいて頂戴」
邪魔をしようとする奴の言葉など完全に無視して作業を続けようとすると、奴は予想通り私の手を止めようとしてきた。
研修施設で格闘術は習っているものの、年下で体が華奢な私は力も弱いからサオリに教てもらった護身術を有効に活用するために受け身に徹している。
そもそも私から先に相手を攻撃すると言うシチュエーション自体が発生する事もないから、攻撃の仕方を覚える必要は全くないから無駄な事は覚えない。
私の手を取ろうとした奴の手を逆に掴むと、今度は掴まれた手を外す動作をしながら回転して私に急接近して来た。
このまま接近して私を羽交い絞めにするのか、それとも肘や膝を打ち付けて私をKOするつもりなのかは分からないけれど、それを実行するには奴の背丈は高過ぎるから一旦腰を落とす必要がある。
私は奴の体の回転と逆向きに回転しながら、低い背を更に屈めた体勢から奴の膝の裏を蹴る。
背丈を私に合わせるために膝を折り曲げようとしていた奴は、丁度いいタイミングで膝の裏を蹴られたものだから勢い余って地面に膝間付いてしまう。
もう1人の男がカバーするため、すかさず自動小銃を振り上げる。
なんて野蛮な奴!
銃床で女の私を殴り倒すつもりだ。
あんなものを顔面に食らうと顔の骨が砕けてしまうかも知れないし、骨が砕けなかったとしても歯の何本かは折れるだろうし、殴られた所は痣になって腫れてしまう。
言っておくが、虫歯は1本も無い!
折られて堪るものか‼
自動小銃を振り回して来る腕に手を添えて懐に潜り込み、足を引っ掛けて相手の遠心力を利用して投げ飛ばし、横に倒れた奴の顔面を足で蹴り上げた。
サッカーボールのように頭は飛んでは行かないけれど、それなりに……いや、かなりダメージがあったみたいで倒れた男はそのまま気絶した。
「やろー!舐めたマネしやがって‼」
運転手を拘束した2人男のうち1人が、いきなりキックを繰り出してきた。
こいつも、そうとうデカい。
まあ身長164cmの私にしてみれば、殆どの男どもはデカい部類に入るのだけど……。
キックの防御は難しい。
素人のキックならまだしも、ムエタイや空手系のキックは少しでも対応を誤ると簡単に倒されてしまう。
受け方は教えて貰ったけれど、相手のパワーが違い過ぎるので今の私では無理。
そのかわり身が軽いのと体が柔らかい分、スウェーして避けるのは得意だ。
しかしいつまでもスウェーして避けていても仕方がないから、私も思い切ってキックで対抗する事にした。
回し蹴りが上手く相手にヒット!
「ナカナカ筋が良い。だがウェイトが軽すぎるし、そのウェイトすら乗っていないからどんなに頑張ってもそれじゃあ俺は倒せないぜ」
「確かにアナタの言う通りね。でもピンポイントに急所に当てる事が出来たら、どう?」
「それも無理だな、急所は確りガードする。お嬢ちゃんのキックじゃあ、俺のガードを崩して急所に当てる事は出来やしない」
「残念だけど私もアナタと同じ意見なの。でも、攻撃を諦めるつもりはないわ」
「ご愁傷様なことで」
「それは、終わってから言える事が出来れば言って」
「言える事が出来れば?」
「そうよ」
今度は利き足ではない左足で、相手の顔面を狙った。
「うわっ‼」
相手のガードが顔を隠すように高く上がり、ボディがガラ空きになる。
だけど“ミゾオチ”、“脇腹”といったボディの急所は、戦闘服の上に着ているボディアーマーで守られているから、ここを狙っても効果はない。
けれども、顎はガラ空き。
狙いすました右のハイキックを一閃すると、見事に顎に突き刺さり崩れる様に男は倒れた。
「左のハイキックの目的は、砂で目潰しを食らわす事だったとはな。小癪な奴め」
リーダーの男は私の戦法を見破り、サングラスをかけた。
まあ、見破られるのは想定内だったけれど、これで同じトリックはこの男には通用しない。
残る相手は2人。
さて、どうしたものか。
もう銃を使うしか手はないのか……。




