表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/111

【ゴッドアロー①(God Arrow)】

 夏休み前までには狙撃砲弾の開発が試作まで完了して、私はこれをGod Arrow(ゴッド アロー=神の矢)と名付けた。

 あとは実射実験を待つのみ。

 通常の155mm榴弾砲に使用するM107やM795榴弾の本隊価格(信管や発射薬なし)が、売価ベースで1発辺り500ドル前後。

 着弾精度半径5~20mのM982 エクスカリバーでは、シェル(本体単体)で68,000ドルとなり実際に精密射撃を行うための付属品を装着した場合の価格は10万ドル前後となる。

 今回私が開発に成功した榴弾は砲弾自体の価格は同等レベルか生産ロット数によっては若干安価に出来る可能性があるものの、専用の高精度な砲身や中継地点での電波送受信装置などが必要で、運用費が別途かかる事になってしまう。

 その代り砲弾に付いた羽による姿勢制御をおこなうM982 エクスカリバーでは気圧や風の影響を受けやすいのに対して、私が発案した物は砲弾のペンシル部分に刻まれた螺旋の抵抗による遠心力の微妙な変化によって姿勢制御を行うので気圧や風の影響を受けにくく、計算上の着弾半径は0~2mを実現できる。

 また砲弾に羽を何枚もつけているM982 エクスカリバーでは製造による個体差も大きくなるが、私の開発したGodゴッド Arrowアローは姿勢制御に関する構造自体は単純なので固体のバラツキも少なくなるはずだ。

 何よりの特徴は、重力に逆らった姿勢制御ではなく、重力に従った放物線を軸に姿勢制御の修正を行うのがこのGod Arrowの最大の特徴となる。

 試作と運行システムは会社の工場とイスラエル当局が協力して行ってくれていて、講義や研究の合い間に工場や関係者とのミーティングに多忙な日々を過ごし、いよいよ明日ネゲブ砂漠にて発射実験が行われる事になった。

「サラ、いよいよ明日ね!おめでとう‼」

「ありがとうルーシー」

「凄いわー!管理職候補生なのに、開発も出来ちゃうなんてホント尊敬しちゃう。私たちも見学に行くから頑張ってね!」

 ルーシーは素直に喜んでくれ私を褒めてくれたけれど、このGod Arrowの開発に関しては実は意見が大きく分かれている。

 榴弾砲の射程距離は、せいぜい50km。

 それに対して航空機や地上・海上から発射される巡航ミサイルの射程距離は100kmから約1000kmまでに及び、高度な光学式誘導システムが確立されているので既に命中精度半径0mが実現できているので高価な砲弾の需要は無いと言うのが反対派の主な意見。

 賛成派の意見としては、巡航ミサイルの様な装備には多額の資金が必要となる。

 先ず巡航ミサイルなどの単価は本体だけで約200万ドルも掛かるだけでなく、運用コストも莫大になる。

 航空機搭載用のAGM-114「ヘルファイア」空対地/空対艦ミサイル等は1発20万ドルと安価なものの、それを搭載して運ぶ攻撃機は1500万ドル以上もしてしまい、物体的に大きく推進力を得るために熱源を発生するミサイルは迎撃されやすい欠点を持つ。

 それに対して砲弾であれば、発射されれば迎撃は不可能だから100%の命中率と言うのは攻撃される側にとってはかなりの不安要素になり、戦争の抑止力になり得ると言う見方だ。

 つまり従来のM982 エクスカリバーではタコツボや防空壕で防ぐことが出来たものが、隠れる場所すらなくなってしまうのが、このGod Arrowと言う事になる。

 いずれにしても明日の実射実験の結果次第で開発の継続や、クライアントが決まる。


 イスラエル南部に位置するネゲブ砂漠に並ぶ2門のソルタムM71 155mm榴弾砲。

 天気は晴れ。

 これから20km先に作られた2つの1㎡のコンクリート製の建物とその地下に設けられた防空壕に、M982 エクスカリバーとGod Arrowの2つの異なる榴弾を使って実射実験が行われる。

 風は南西の風、風速5m。

 気温32度。

 実射実験には、私たちPOCの研修生、工場関係者と開発関係者、それに実験に協力してくれるイスラエル軍関係者や政府関係者の他に外国人武官も何名か立ち合いに見物しに来ていた。

 その中でも私が一番気になったのがアメリカ国防省の高級官僚と、以前ラマーディー・キャンプで会った第1海兵連隊のトライデント大佐も居た。

 私は関係者に挨拶と名刺交換をしたのちに、中間点での弾道計算の確認をするためにジープに乗って発射地点を後にした。

 このシステムの肝の部分は、放物線が急激に下降し始める前の中間点による弾道補正が重要となる。

 もちろん殆どの場合は補正無しで行けるように設計はしているし、実際に製品ラインに乗るような段階になれば、データーも蓄積されてこの様な補正作業は要らなくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ