【グリムリーパーからの警告(Warning from Grim Reaper)】
「グリムリーパーか!?」
ジョンの言葉に「おそらく」と返す。
銃声を聞いた街の人々が慌てて部屋の中に隠れる。
「しかし、あのグリムリーパーが的を外すとは思えない。別のスナイパーじゃないのか?」
犠牲者が出なかった事をメアーズ伍長が不思議がって言う。
「いいえ、敵はグリムリーパーに間違いないわ」
「でも、メェナードさんに、弾は当たらなかった」
「当たったわ。石の壁に銃弾が当たって剥がれた小さな埃が」
「まさか、そこまで……」
「舐めて掛かっては駄目よ。彼は、警告して来たの“近付くな”と」
「確かに奴なら有り得そうだ……で、どうする?」
冷静なオビロン軍曹が、今後どうするのか年下の私に聞いて来た。
「場所は分かったわ。奴が警告してきた以上、双方もしくは第三者に深入りする事で犠牲者が出ることは避けられない」
「じゃあ、日を改めて?奴は1人だから、それなら大丈夫だろう」
「奴が違う地域に出没している間を狙えばいい」
「いや、奴は俺が必ず始末するから、それからでも遅くはない」
オビロン軍曹、メアーズ伍長、ジョン曹長がそれぞれに言ってくれたが、私はそれを聞き入れない。
「おっ、おいサラ!」
メェナードさんの声を背中に、私はたった今逃げてきた通りの真ん中に向かって歩き出す。
慌てた皆が私を止めようと飛び出してくるのを制止して、通りの真ん中で立ち止まり銃弾が放たれた方に向かい両手を広げて見せ、戦う意思はないことを伝えた。
「何故、射殺しなかった!?」
「民間人は殺さない」
「どうして、あの男が民間人だと断言できる?私服を着ている軍人の可能性もあるぞ」
「私服の軍人は、もっと緊張している。あの男は、緊張感が足りなさ過ぎる」
「今度はまたあの女だ。アイツ道路の真ん中に立ってこっちを見ていやがる。気の強そうな女だ」
あの女が只者では無い事は、さっき逃げる時の素早さで分かっていた。
「ナトー、あの女を撃て。アイツは只者ではない」
だが俺はヤザの言葉には従わず、銃を空に向けて撃った。
「何故殺さない!?」
「差し迫っていない限り、無抵抗の女は殺さない」
通りの真ん中に立っていると、赤い曳光弾がスーッと真っ暗な空に向かって伸びて行くのが見え、そのあとから銃声が追いかけてきた。
グリムリーパーは、私のメッセージを受け取ったのだ。
意外に相手の気持ちの分かる、良い奴なのかも知れないな。
そう思いながらもう消えてしまった曳光弾の放たれた辺りを見つめていると、メェナードさんが隣に寄り添う様にやって来て私を庇う様に肩を抱いてくれた。
「どうやら彼は、僕らが思っていた様な卑劣で狂ったスナイパーでは無いようだね」
「ええ」
「これから、どうする?」
「どうもしないわ。今まで通り妹を探すだけよ」
「でも……」
「住所が分かったんだから、相手との連絡はワザワザこちらから出向くことも無いでしょう?」
「そうだね。さすが、サラはこんな時でも落ち着いているね」
「メェナードさんの方こそ」
「僕?」
「グリムリーパーが居るかも知れないのに、どうしてあんなに落ち着いていられたの?」
「さあ。生まれつき呑気なたちだからかな」
違うと思った。
屹度メェナードさんは一度死を覚悟するほどの酷い戦場を経験しているに違いない。
だから、冷静さを失わずに平然としていられたのだ。
「嘘つき」
「嘘?」
「前に大学は出ていないと言っていたでしょう」
「どうして、それが嘘だと?」
「分かるの。メェナードさんの事なら、なんでも分かる気がするの」
「じゃあ、そういう事にしておいていいよ」
本当は軍隊の経験も聞きたかったけれど、それは戦争に出ていない私なんかが興味本位で聞いていい話ではないと思って止めた。
戦争の悲惨さは、その戦争に関わったものにしか分からない。
話したくない過去があるから、話さないことも。
結局、この年は妹がアル ナルスに5歳まで居た事が分かった所で夏休みは終わった。
妹は瓦礫の下敷きになった所を、通りがかったハイファに偶然拾われたんじゃない。
屹度、事前に母がハイファに預けたのだ。
でも何故?
ハイファとは、いったい何者なの?




