【驚異的な射撃精度(Amazing shooting accuracy)】
次の日は11号線をバクダッドに向けて走る。
オビロン軍曹たちが途中まで送って行くと言ってくれたが、ザリバンの目当ては多国籍軍なのだから私の安全上意味がないと言って断ると「君は強いなぁ」と褒めてもらった。
別れ際にレーションと狙撃兵が着る迷彩パーカーとベレー帽をプレゼントしてもらった。
特にこの迷彩パーカーは、しま模様を組み合わせた迷彩ではなく、木や草に見える絵を組み合わせたものでデザインが凄く好き。
ベレー帽も、リクエストされて被ってみると、皆に可愛いと褒めて貰えて嬉しかった。
ラマーディーとバクダッドの真ん中にある街、ファルージャに差し掛かった時に交通規制が掛かっていた。
ユーフラテス川の向こう岸に、ザリバンの狙撃手が居てアメリカ軍のハンヴィーが2台橋の上で立ち往生しているらしい。
渋滞している車の脇をオートバイですり抜けていくと、橋の中央に止まっている2台の車があった。
先頭の車は窓が割れていた。
“まさか……”
応援に駆け付け来たアメリカ軍の車両の中にM242ブシュマスターを搭載したハンヴィーが1両あった。
装甲強化型のM1114型にリモコン操作の25mmチェーンガンを装備、防弾ガラスも最新式の物を装備している。
これなら優秀な狙撃手でも太刀打ちできないはず。
ところが、私の考えは直ぐに裏切られる。
M1114型ハンヴィーが、車内からカメラを使ってザリバンの狙撃兵を探していた時、先ず1発目の銃弾が防弾ガラスに当たった。
当たった個所のガラスが白くぼやける。
しばらくすると、車内から悲鳴が聞こえた。
さっきの弾が貫通したわけではない。
2発目の弾が当たったのだ。
音が殆ど聞こえなかったのは、1発目の銃弾で表面のガラスを砕いた同じ箇所に2発目が突き刺さったから。
2発目の銃弾は、剥き出しになったポリカーボネートを突き破って、その下の強化ガラスを割って車内に進入したのだ。
銃声は悲鳴が聞こえた約1秒後に聞こえた。
“340m前後からこの精度⁉”
もう神業としか言いようがない。
「危ないから下がって‼」
いつの間にか橋まで上がっていて、兵隊さんに注意されて橋の袂に引き戻された。
“グリムリーパー”
まさに神の領域に達した狙撃手だ。
結局この日もM2ブラッドレー歩兵戦闘車が来るまで通行規制は解除されないのだろうと思って、迂回路からバグダッドに入った。
バクダッドでの宿は、メェナードさんのアパートに居候する事になっていたので到着したことを電話で知らせると、1年前と同じバンでやって来た。
「やあ、相変わらず凄い行動力だね」
「どう、仕事の方は?」
「ああ、おかげで給料ランクが一つ上がったよ。君のおかげだ」
「私の?」
「そう。雑用係から、調査係になった」
「忙しそうね」
「まあね。夕食はまだだろう?食べに行こう」
「奮発しなくてもいいからね」
「大丈夫、あの時は経費だったけれど、今回はそうでもないから」
「ゴメンなさい、迷惑かけちゃって」
「迷惑なんてとんでもない。一応会社から幹部候補生の世話をする特別手当が前金で支給されているからリッチなんだ。いくらだと思う?」
「1日20ドルくらいかしら」
「まさか、1日100ドルだぜ!」
「まあ凄い!」
「凄いのは君の方さ、普通の幹部候補生なら、君の言った通り20ドル程度なんだぜ」
「まあ!」
「おっと、これは内緒。あまり言っちゃあいけないことになっているから。うちの会社は優秀な人材に対して金に糸目は付けないんだ」
たしかに、その通り。
メェナードさんへの御手当以外にも、出入国が円滑に出来る手続きとかで会社は陰ながらサポートしてくれている。
いったい平和のために具体的に何をしている会社か分からないけれど、凄くお金を持っている事だけは確か。
でないと私たちをただで大学に通わせて、あんな立派な研修所を持てるわけがない。
次の日からメェナードさんのアパートを基地にして、妹の捜索活動を続けたが何も手掛かりが見つからないまま夏季休暇は過ぎてしまった。




