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【孤児院送り(In an orphanage)】

 1人の刑事が名簿をメモに控えている間、もう1人の刑事に両親の職業を聞かれた。

 お父さんの会社の名前は知らなかったけれど、アパートの車庫にはいつも外交官ナンバーのジャガーがあったから外交官関連の仕事だと思うと答え、お母さんからは何かあった時に電話を掛けるようにと会社の名刺を持たされていたのでそれを見せた。

「なるほど、お父さんは外務省職員で、お母さんはPOC証券の総務課長ですか……」

「うん。この幼稚園名簿にも、そう記載されています」

「保護者さんへの連絡はされましたか?」

 刑事さんが園長先生に尋ねる。

「はい、電話は掛けましたが、こういう事態でお忙しいのか、繋がりませんで……」

「ご父兄さんの携帯には?」

「それも……」

「なるほど……」

「刑事さん、パパとママは無事なんでしょうか?」

 2人の刑事は私の質問に困った顔を見合わせてから、答えた。

「残念ながらアンドリュー・ブラッドショウと名乗る方と、ナオミ・ブラッドショウと名乗る方のお2人は、あの爆破テロにより亡くなられています」

 その言葉を聞いて、私の緊張していた心は急に弾けてどこかに行っていまい、哀しみに身を任せるように泣き崩れることしかできなかった。

「あのぅ刑事さん、チョッと伺っても宜しいでしょうか?」

 園長先生の言葉に私は泣きながらも、聞き耳を立てた。

「いま“と、名乗る方”と仰ったのは、一体どういう事なのですか?」

 たしかに実在する人物に対して“と、名乗る”と言うのはおかしい。

 まるで偽名を使っているみたいだ。

 “偽名……”

 そう言えば、パパとママの携帯が不通なのはなんとなく理解できるが、なぜ勤め先も2つ揃って連絡が出来ないのは何故だ?

「実は、この子には大変気の毒なのですが、御両親の名前は2人とも偽名で、お勤め先も存在しないと言う事が分かりまして……」

「偽名と言いますと、では本名は何という名前なのですか?」

「それが、パスポートから運転免許所などの身分を証明できるもの全てが偽物でして。しかも外交官ナンバーも偽物で、そのナンバーを付けたジャガーさえも偽造登録されたもので。もちろんアパートも調べましたが、何一つ手掛かりになるようなものは出なくて。唯一分かったのは、この幼稚園にお子さんを預けている事だけで……」

「じゃあ、この子は?」

「さあ……実は、それでこの子に聞けば何か分かるのではないかと。ねえ、お嬢ちゃん何か他に知っている事が有れば、教えて欲しいんだけど」

「妹……妹は無事なのですか?」

「妹さんが、いらっしゃるんですか!?」

「ナトーと言います。まだ0歳です」

「この幼稚園に?」

「いいえ、母と一緒に居たはずです」

「赤ん坊の死体らしいものは、まだ見つかっていません」

「おいコラッ!」

 つい口を滑らせてしまった若い刑事を、もう1人のベテラン刑事が叱った。

 でも、もう遅い。

 つまり事故現場からは、パパとママの死体しか見つからなかったと言う事なのだ。

 警察が帰ってから私を見る周囲の目は一変した。

 昨日まで取り合いになっていた私の宿泊先が今度は押し付け合いになり、結局誰も泊めようとしなくて、園長先生が私と一緒に幼稚園に泊まる事になった。

 一緒に泊まると言っても、実際はお昼寝室に閉じ込められたようなもの。

 夕方に来た大工さんが、お昼寝室の中から外に出られないようにドアの外側に鍵を付けて、その中に私は一晩放り込まれることになった。

 食事も、ドアに新しく開けられた隙間からトレーに盛られた物を食べさせられた。

 昨日までの腕を振るって作られた手作りの料理ではなく、人の手のかかっていないインスタント食品。

 まるで囚人扱い。

 次の日には早速孤児院の人が引き取りに来て、私はまるで惨めな野良犬の様に車に押し込まれて連れて行かれた。

 孤児院に居るのはイラクの子供ばかり。

 当然のように少ないスタッフもイラク人で、誰も英語は話せない。

 今までイギリス・アメリカ人専用の幼稚園に通っていた私はアラビア語が分からずに惨めな思いをするしかなく、生活環境もシャワーが週2回に食事もまるで囚人食で朝はシリアル、夕食はパンとスープと言うお粗末さ。

 その上、狭い部屋に3段ベッドが4つも置かれた部屋に押し込まれて、おまけに毛布にはダニがいて衛生環境も劣悪だった。

 一応小学校は義務教育なので行かせて貰えたが、それも地元イラクの小学校。

 そこでは、人生初の凄惨な虐めが待っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  前々から不思議でしたのが、アンドリューとナオミ・ブラッドショウは何者だったなのか。  これからサラちゃんが成長する内に明らかにされるのでしょうね。  清潔が当たり前だった生活から不潔な処に…
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