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【ダニエルとの決闘(Duel with Daniel)】

 ここに来てもう6ヶ月が過ぎた。

 射撃の方はリアサイトとフロントサイトそれに的の3つの焦点の合わせ方に苦労したが、コツを掴んでからはその停滞した時間を取り返すように一気に上達して今では同期の誰にも負けないほどにまでなった。

 そしてこの日、サオリさんが日本に戻る前日は、今まで封印していた合気道を試す日と決めていて、それまでの長い間私は投げられ放題だったのを我慢していた。

 もっとも習ったことの全てを封印していた訳ではない。

 習った中で、受け身は使っていた。

 柔道の受け身は投げられた時に効果を発揮するが、合気道の受け身は殴られたり蹴られたりしたときも使えたから、私が降参する前に相手の方が力尽きて試合を放棄することが殆どとなり、あの意地悪なダニエルが新しく私に付けた仇名はsistentしつこい

 まったくネーミングセンスがないったらありゃしない。

 小学1年生の時にも酷い虐めにあったが、その時は虐める奴等を撃退するために武器をつかったり、家庭調査をして奴等に不利になる情報を仕入れたりして対抗した。

 そのために転校した子も居て。

 親1人は警察に掴まり、担任の先生は事件に巻き込まれて死んだ。

 あれから私も少しは子供として成長したから、同じような事はしない。

 何故なら、こいつたちは会社が集めた大切な幹部候補生たちだから。

 真っ向勝負で見返してやる!

 勝負の前に私はオビロン軍曹から貰った戦闘糧食を食べて気合を入れた。

 道場に入るなり、ダニエルを挑発すると奴は直ぐに挑発に乗って来た。

 1対1の勝負に女子たちは緊張し、男子たちはあざ笑っていた。

 女子たちの緊張の理由は、私が病院送りになると言う不安。

 あざ笑う男子たちも同じ理由。

 病院送りになると言う、前代未聞の不祥事に対する事柄に男女間で考え方が違うのは女子の方が大人だと言う証拠だろう。

 つまり女子は重大な結果に対する自らの保身を考え、男子はそれに気が付かず遊び半分のままと言うことだ。

 ただ結果がどうなるか知っているルーシーだけが、平然として私を応援してくれていた。

「殺しはしないが、二度と起き上がれないぞ」

 ダニエルが余裕をかまして私を威圧する。

「構わないが、そっちも覚悟はできているんだろうな?」

 私の言葉に奴は後ろの仲間たちに振り向いて笑った。

「掛かって来る度胸があるのならいつでもいいぞ」

「ふざけるな!」

 私の挑発に乗ったダニエルが、私の襟を掴みに来たので掴んだ瞬間を狙って捻り上げて腕を逆方向に回してやると後ろ向きに派手に倒れた。

 バーン!

 衝撃の強さを物語る大きな音が道場に響く。

 倒れた奴の顔に蹴りを入れたいところだが、まだ充分に体力を奪っていないので迂闊な攻撃は控えた。

 何しろ体重差があり過ぎるので、寝技に持ち込まれたら敵わない。

 少し離れて起き上がるのを暇そうな素振りを見せつける様に待つ。

 何事が起きたのか理解していないダニエルが、また同じように襟を掴みに来たので、今度は違う返し方で前向きに倒してやった。

「どうした、足がふらつくのか?」

 俯せに倒れているダニエルに声を掛けてやる。

 すぐさま起き上がった奴が今度は突進して私を掴もうとしてきたので、半身にしてかわし手を逆に掴んで大きく振り上げると、奴はこれまでよりも一段と大きく回転して激しく畳に打ち付けられていた。

 合気道は相手の攻撃力を利用する。

 だからムキになって突進してきたダニエルは、今までよりも激しく畳に打ち付けられた。

 私を掴めないことに、ようやく気が付いたダニエルは、今度はパンチを放ってきた。

 だが左のジャブを逆関節に掴んで振り回すと、ダニエルはまるで私が操る人形の様にフラフラと倒れては起き上がる事を繰り返し、一部の男子から「ダニエル真面目にやれ!」とヤジを飛ばされていた。

 仲間からヤジを飛ばされて怒った奴が右ストレートを放ってきた。

 私は伸びた奴の右腕と体が平行になるよう外側に避け、かわした拳を右手で受け、左腕を伸ばして奴の顎に掛かるようにして平泳ぎをするようにして顎を持ち上げると後ろ向きに勝手に倒れた。

 その時に右手で受けていた奴の手首を掴んだまま自分の体の方に寄せ、膝を少しだけ曲げてやると倒れた拍子に肘の関節が逆向きになりダニエルは一瞬ギャーと言う悲鳴を上げた。

 これ以上捻ると脱臼するので手を離してやると、奴は恩を仇で返すように右のミドルキック私の脇腹に目掛けて放ってきた。

 回し蹴りに合わせて半歩前に進み、相手の脹脛ふくらはぎの辺りを抱え込むように掴むと、その回転方向に合わせるように私も回転する。

 すると回転軸のズレたダニエルの体は自然にバランを失い、また後ろ向きに倒れた。

 もうこれ以上戦っても長くなるだけなので、私はすかさず倒れた奴の側頭部を、まるでサッカーのフリーキックをするように走りながら蹴って行った。

 もちろんダニエルの頭はボールではないので飛んではいかないが、彼の意識はどこかに飛んで行ったのは間違いなかった。


 次の日、日本へ帰るサオリにお礼を言った。

「そう、良かったわね。クレオは上達が早かったから」

「ホントそれ。私の方が大きくて力も強いのに、なんでクレオの方が、上達が早いの?」

 ルーシーが不満気に言うと、合気道は攻撃に為の武道ではないから、身を守りたいと真剣に願っている者の方がより上達が早いのだと笑って言った。

 たしかにそうだと思う。

 年齢を誤魔化しているけれど私は13歳になったとはいえ、19歳の男子たちを相手にして力ではどうしても敵わない。

 だから自身の身を守るために必死で覚えた。

 別れ際にサオリさんにコッソリ耳もとで囁かれた。

「大人相手に良く頑張ったわねサラ」と。

 彼女は、ルーシーの作った偽名を見破っていた。

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