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【面接官(Face-to-face officer)】

「でも、どうして私のスカウトは本当のことを教えてくれなかったのだろう」

 あんなに仲良くしてくれたメェナードさんが、急に遠い人の様に思えて来た。

「アンタ、特別なんじゃない?」

「特別って?」

「だって、ヘブライ大の受験もそうだけど、GMと会食だなんて誰もしていないはずよ。それに……」

「それにトラップが多過ぎるわ」

 たしかにそう。

 もし砂漠のホテルでメェナードさんから教わったアンマンのローマ劇場を見学していたとしたら、約束の時間には間に合わなかったかも知れないし、間に合ったとしても服を買う時間は無かった。

 待ち合わせ場所で、服装はチェックポイントだったことは後で教えて貰った。

 つまり、あの時汚れた服のまま博物館に入っていたら、私は見捨てられていたことになる。

「しかし、不思議だわ」

「なにが?」

「アンタのスカウトの事」

「どうして?」

「スカウトって、普通ずる賢くて嘘つきで詐欺師みたいな奴じゃない?少なくとも私に接近してきた奴は、そういうヤツだったわ」

「人間性は人それぞれでしょう?」

「それはそうだけど、その人高卒だって言っていたよね」

「ええ」

「屹度、既に大学程度の学力は持っているのだと思うけれど、世界の政治家を相手にするには実力よりも、先ず肩書が必要でしょう。会社もそれを知っているから私たちをテクニオンに通わせるし、もっと上級幹部への可能性がある学生は、更に上の大学にも通う事になるのよ」

「じゃあ、メェナードさんは……」

「スカウトじゃなく、ボディーガード……いや、もっと特殊な任務を与えられていた人なのかも」


 2日目は簡単なテストをやりつつ、途中で順番に面接が行われた。

「サラ・アルテミス・ブラッドショウ」

 名前が呼ばれ面接室に入る。

 現在習得している語学を聞かれたので英語・アラビア語・ヘブライ語だと答えると、フランス語は?と聞かれた。

 屹度メェナードさんが報告書を上げているに違いない。

「フランス語は確かに勉強しましたが、実際に使用したことはありません」

「話せる自信は?」

「あります」

「では、冬休みにフランスに研修に行ってもらう。いいですか?」

「はい」

 素直に返事を返すと何故か驚かれたが、これは屹度“冬休みに研修”と言うところになんの抵抗も見せなかった事が原因だと言う事は直ぐに分かった。

 普通なら休みは遊ぶものだから。

 でも私はパパとママが死んでから8年間、遊ぶと言う行為から遠ざかっているので、それについて今は左程魅力を感じていない。

 最後に大学においてロシア語と、もう1つアジア圏の言語を習得するように言われた。

 面接官が私の目を見たので、答えろと言っている事を理解して「日本語でも構いませんか」と答えた。

「日本語?何故日本語なのです?」

「日本人が馬鹿だからです」

「日本人が馬鹿?そんなことは無いだろう。現に日本人のノーベル賞受賞者は29人も居るんですよ(日本国籍25人、日本出身で外国籍4人)」

「しかし、その殆どの人達が外国の研究機関で学んでいます」

「たしかにその通りだが、だったら日本語を習得する意味は無いのでは?」

「いえ、大いにあると思います」

「それは?」

「日本人の殆どは外国語に対するコンプレックスを持っています。それは下層の日本人に限らず企業の社長クラスから政治家に至るまでです。ですから今日まで海外の大手企業が日本で成功を収めることが難しかったと私は思っています」

「つまり、日本を相手にするときは英語では駄目。と言うことですか?」

「そうです。技術的に海外に引けを取らない日本人にとって、わざわざ言葉の通じない外国企業を相手にしなくても、同じ物は国産で幾らでも作れます。それが日本市場をガラパゴスと言わしめる所以でもあると思います」

「なるほど、良く分かりました。では中国や韓国はどうなのです?今、非常に発達して良い市場だと思いますが」

「中国や韓国は基礎技術が足りませんので、その分野においては海外依存型なので彼等はこちらが要求しなくとも自ら英語を話して近付いてきます。近年の中韓の発展についても日本からの技術流出が主な要因です。何しろ日本にはスパイ防止法が存在しませんから」

「つまり君は、日本でスパイ活動も出来る。と、そう言いたいのかね」

「そうです。日本の技術者や研究者は対価が安いので、自分の知識の価値を知りません。ですから今まで簡単に知識を流出させて来ました。海外の研究機関に身を置くことも、その一つです」

「なるほど……」

 面接を終えて席に戻り、テストの続きに取り掛かる。

 なかなか次の人が呼ばれないので、教室が少し騒めく。

 子供だから、思った通りを言ってしまったけれど、ちょっとやりすぎたかな。


 コンコン。

 面接官がノックした部屋は、滅多に開けられることのないCEO(最高経営責任者)の部屋。

「どうだったかね?」

「いや、恐れ入りました。12歳の少女とは思えない確りした考えを持っていて、恥ずかしながら私ではついて行くのが……」

「これで私たちは失った物を取り戻すことができそうかね?」

「間違いないとは思いますが、まだ若いので育て方次第かと」

「では、上手く育ててやってくれたまえ」

「承知いたしました」

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