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【両親の死(Death of parents)】

「あら、テレビが付きっぱなしじゃないの」

 急に廊下の方から先生の声がした。

 声は1人。

 ドアが開き、その声の主が部屋に入って来る。

 マズい。

 ロッカーの中から先生の後姿を確認して抜け出す。

 先生は直ぐにテレビのスイッチを切らずに、立ったままニュースを見ていたので、その隙に空きっぱなしのドアから逃げ出した。

 いつも“ドアはチャンと閉めなさい”と言っているくせに、ダラしない。

 だからこそ、まんまと抜け出すことに成功したわけだが、抜け出すときに証拠となるアルミテープだけは剥がしておいた。

 あとで犯人捜しをされたとき、真っ先に疑われる可能性があるのは私だから。

 お昼寝室に戻り、抜き出した電池を戻しカバーを閉じていた時に後ろから声がした。

「何をしているの?」

 一瞬肝を冷やしたが、声の主は同じ歳のマリー。

「何をしていたと思う?」

 私はマリーに、どこから見られたのか確認するため優しく聞いた。

「お昼寝中に、ドアを開けて出て行ったら先生に叱られるよ」

「マリー、私は、ドアから出た?」

「出ていないけれど、どうして椅子の上に乗っているの?」

 どうやらマリーは、私が外から入って来たのは知らないらしい。

 ポケットの中から、あるものを取り出してマリーに見せた。

「これを見つけたの。マリーにあげるけど、先生に見つかったら叱られるから内緒よ」

「うん。有り難う」

 マリーは、おとなしい女の子。

 おとなしい子は、極端に先生に叱られるようなことを嫌う。

 あげたのは可愛いシール。

 シールをあちこちに貼る事は禁止されている。

 自分で貼ったものではないにしろ、内緒で剥がしたシールを貰ったと言う事は共犯と言うことになる。

 子供は悪い事には敏感で、好奇心も旺盛だから、まだ4歳とは言え侮れない。

 おそらく貰ったことを忘れてポケットに入れっ放しにして、洗濯した時に親に見つかるかもしれないが、親に白状する事は有ってもそれを先生に告げ口することは無いはず。

 親も子も、発覚もしていない悪さをワザワザ先生に言いはしない。

 普通は騙してでも、先生には良い子だと思わせたいはずだから。

 結局何事も発覚しないまま、お昼寝の時間が終わり、親のお迎えの時間が来た。

 次々に親に連れられて帰って行く子供たち。

 もう直ぐママも迎えに来る。

 支度を済ませて待っているが、ナカナカ迎えに来ない。

 “まさか……”

 一抹の不安を覚えるが、あんな事故に遭う確率なんてそうそうあったものではない。

 それにパパとママは違う仕事をしているし、ママは大手企業の事務をしているはずだから国際会議など縁も所縁も無いはず。

 ただ心配なのはパパの事。

 パパは政府機関の仕事だから、国際会議とは何らかの繋がりがあってもおかしくはない。

 結局午後5時になっても迎えは来ないで、とうとう6時が来た。

 6時は遅番の先生が帰る時間。

 ママの携帯にもパパの携帯にも、何度電話しても誰も出ないどころか、電源が切られている状態。

 仕方なしに今夜は先生の家に泊めてもらう事になる。

 不安な気持ちで一杯の私とは別に、先生たちはウキウキして、まるで私の取り合い。

「サラちゃん家へ来る?」

「あら、サラちゃんは私が連れて帰るわ」

「いや、今日は私が」

 今日は私と言う言い方が気にいらない。

 今日は、と言うことは明日もあると言う事じゃないか……。

 でも、子供らしくそれは知らない素振りでいた。

 結局この日は、遅番の中で一番年上のジョイ先生の家に泊めてもらう事になった。

 ジョイ先生は嬉しいらしく、途中のスーパーで沢山買い物をして鼻歌を歌いながら車でバングラデシュ郊外のアパートに帰った。

「やあ、遅かったね。この子かい、噂通り凄く可愛いね」

 ジョイ先生の旦那さんはアルバと言うイラク人だから、今日は御馳走は食えそうにないと思っていたら、思惑に反して夕食はステーキにデザートにはケーキを出してもらった。

 次の日はリンダ先生の家、その次はヘレン先生の家に泊めてもらい、どの家でも私が美人で賢いと言うだけで凄い歓迎を受けたが、4日目の昼にその評判は瓦礫が崩れるように変わる事になる。

「サラちゃん。警察の方がお会いになりたいそうよ」

 きっとあの事件で怪我をしたお父さんの看病で手が離せないお母さんが、警察に頼んで迎えに来てくれたのだと思っていた。

 もちろん不安もあったけれど、不安よりも希望の方が大きかった。

 2人の刑事さんに合い話をすることになり、先生たちも一緒に付いてくれた。

「サラ・ブラッドショウさん。ですね」

「はい」

「お父さんの、お名前は?」

「アンドリュー・ブラッドショウです」

「お母さんの、お名前は?」

「ナオミ・ブラッドショウです」

「間違いありませんか」

「間違いありません」

「刑事さん、保護者名簿でもチャンとそのようになっています」

「拝見させてもらっても宜しいですか」

 先生は園長先生の顔を見て、刑事さんに保護者名簿を渡した。

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