表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/111

【ヨルダンの首都アンマンへ(To Amman, the capital of Jordan)】

 生意気なガキだと思って相手が怒りだしたとしても、それはそれで構わない。

 私は暇を潰すためにレストランに来たわけでは無いし、異性を求めている訳でもない。

 なる様になれば良いだけのこと。

 ところがメェナードさんは怒り出すどころか、パスポートと運転免許証に社員証をポケットから取り出して私に見せて、正直に気持ちを打ち明けてくれた。

「すみません。子供だと思って馬鹿にしたわけでは在りません。非礼をお許しください。正直言いますと、私はアナタに興味を持って接近しました」

「興味?」

「そう。私の持っている情報では、昨日ラマーディーキャンプ所属の海兵隊が10号線をパトロール中にザリバン兵の不意打ちに合ったと聞いています。先頭を走っていた車両は仕掛け爆弾で大破して、乗っていた4人はいずれも骨折などの重症。救出中に後続車両の1人も負傷して戦闘は膠着状態になり、どちらの応援が先に来るかがカギとなっていた。そこに現れたオートバイの少女が、いきなり負傷した兵士が落とした銃を拾うと瞬く間に4人の敵を倒して海兵隊員を救ったと聞きまして、もしや貴女の事ではないかと思いまして……答えたくなければ答えなくていいです。大したことじゃなく、ひと時お茶の間を賑わせるだけの話題に過ぎませんから」

「では、お答えしません。ですが、それは誰から聞いたのですか?」

 メェナードさんの服装から、とても砂漠を走って来たようにも見えなかったので聞いてみた。

「現地の契約社員から聞きました」

「メェナードさんは?」

「私は、そんな危険なところには滅多に行きません。私の役目は情報を整理して記事にすることですから」

「なるほど……」

「でも、これも大切な事なんですよ」

「わかります。全員が最前線に出てしまったのでは、全滅する可能性もあるわけですから」

「ふう、助かった」

 メェナードさんは、そう言うと椅子の背にもたれかかり、ホッとしたように胸を撫でた。

 たかが12歳の少女に生意気な言葉をかけられたからって、そんなに大袈裟にすることないのにと、少し可笑しくて笑ってしまう。

「差し支えなければヨルダンやイスラエルの情報を教えていただけますか?」

「もちろんですとも」

 それから、一緒に食事をしながら2時間ほど話しをした。

「じゃあまた!」

 別れ際にメェナードさんが言った言葉に、私は早朝に出発するつもりなので会えないかも知れない旨を伝えたら、ただニッコリ笑っていた。

 部屋に返ると真っ白なシーツに飛び込んだ。

 フカフカのベッドなんて8年振り。

 パパとママが無くなってから、板敷きの3段ベッドで1年中カビと汗の臭いがしみ込んだ毛布で寝ていたので、久し振りに思い出した昔の光景に涙が流れた。


 パパもママも優しかったし、私たちは裕福に暮らしていた。

 ママは幼いころ私にいつも本を読んでくれていたし、パパはいつも私の気に入るような本をプレゼントしてくれた。

 食事もファーストフード店には行かないで、チャンとしたコース料理を食べに連れて行ってくれたから味覚も肥えたし、何よりも自然に食事のマナーを覚える事が出来た。

 観光だってイギリスだけではなく、フランスやドイツ、イタリアやスペインにも行った。

 たった6年しか一緒に居られなかったけれど、その間に一生分の愛情と経験をさせてもらったと思っている。

 なのに……なのに、何故あんなことに。

 泣いている間にいつの間にか寝ていた。

 午前5時前。

 ファジルを告げるアザーンで目を覚ます。

 ベッドには微かにママの温もりが残っている様な気がしたが、それを振り切ってシャワーを済ませて旅の準備をする。

 荷物をまとめてフロントに降りると、昨日の人とは違うオジサンがニコニコ笑いながら対応してくれ、お弁当も貰った。

「شكرا لك(ありがとうございます)」

「أصلي من أجل سلامة رحلتك. ارجوك عد مجددا.(ご旅行の安全をお祈りします。また来てください)」

 子供らしく、手を振ってホテルを出る。

 チラッとロビーや通路を確認してみたが、メェナードさんは居なかった。


 走り出して気が付いたのだが、直ぐ北側には飛行場があった。

 左程大きな街でもないのにホテルはマダマダ沢山あり、街を出て10㎞も走らないで着いた次の町にも小さなホテルが8件もあり、国境の近くである事と飛行場がある関係でホテルが多いのだと思った。

 道は平たんだったが、次第に両脇には緑が増えて来た。

 移動している最中に、更に2つの飛行場の隣を通り、その1箇所にはフランスの国旗を付けた軍用輸送機も見かけた。

 そしてホテルを出て7時間と30分、ようやくアンマンの街に入った。

 後見人と会う約束の時間は午後4時だから、まだ2時間以上も余裕がある。

 昨日メェナードさんに教えて貰ったローマ劇場はここから10kmと少しの所に在るから、そこに行って見学してからでも遅くはないとは思うが、知らない土地では何があるかは分からない。

 もし事件や事故に遭遇してしまえば、2時間の余裕なんてあっと言う間になくなってしまう。

 ここまで来た私の目的は後見人に合う事だから、目的を達成するためには途中で遊んでいる時間はないし、その後のスケジュールも決まってはいない。

 2時間遊ぶよりも2時間相手を待っていればその間に休憩もできて、その方が大切だと思い、迷わず待ち合わせ場所の王立自動車博物館に向かう。

 ただ買いたいものがあったので、それが手に入る場所を探した。

 走りながら探していて何軒か、手に入りそうなお店は見つけたが特に立ち寄らずに記憶に留めておいた。

 なるべくなら待ち合わせ場所の傍がいい。

 もし無くても、戻ればいいだけの事。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ