【オビロン軍曹からの贈り物(Gift from Sergeant Obiron)】
直ぐに装着して、改めて5発目を撃つと、またザリバン兵にヒットした。
他の2人はアメリカ兵が倒したのだろう、これで銃声は途絶え、スコープに映るザリバン兵も見えなくなった。
まだ伏せて射撃体勢を取っていた私の所に、あのM240を撃っていたアメリカ兵がやって来て手を差し伸べた。
制服の袖に3本線が入ったワッペンが付けられていたので、分隊長クラスなのだろう。
「上手いな。どこで習った?」
初めてだと言うと、話が盛り上がってしまいそうだったので、猟に出た経験があると嘘を言った。
「有り難う、おかげで助かったよ。もう暫くしたら応援の部隊が来る。是非お礼をしたいから一緒に部隊のあるラマーディーに来ないか?」
「いえ、私は先を急がなくてはならないので。ここで失礼する」
分隊長に使っていたM16を渡して、素っ気なくその場を後にした。
バイクで通り過ぎざまに、その分隊長に肩掛けバックを渡された。
「なに?」
「レーション(戦闘糧食)、ホンの気持ちだけど」
礼を言って、そのまま逃げるように立ち去る。
お礼を言ってもらい、こんなものまで貰い、心が痛んだ。
だって、道路上に居たのがザリバン兵で砂漠の向こうに居たのがアメリカ兵だったなら、私は迷うことなくアメリカ兵を撃っていたに違いなかった。
なにせ私の目的は、私の通行を邪魔する者の排除。
この場合、どちらにしても道路上に居る者達を全滅させていたとしても、その場から立ち去ろうとする私の身の安全は確保できない。
戦闘で興奮した気持ちが緩んできたころ、ストックを当てていた右肩がハンマーで叩かれるように痛んで来た。
路面の凹凸が、その痛みに拍車をかける。
指先でアクセルを摘まむようにして持つが、それでも痛い。
約1時間、痛みと格闘したが結局痛みに耐えかねて、珍しく木の生えている丘を見つけてそこでバイクを止めた。
痛みが引くまで少しの間横になっているつもりだったが、いつの間にか寝てしまった。
目が覚めたときには既に3時間も立っていて、しかも肩の痛みも引いていないばかりか、明らかに熱も出ていた。
まだラマーディーの街を出て60kmしか走っていない。
一旦街に戻るか?
砂漠の夜は寒い。
熱が出ている状態なら、街に戻ってホテルで静養した方が良いに決まっているが、この体で戻れるのか?
あのとき分隊長の言葉に従っていれば軍医に診てもらう事も、泊めてもらう事も出来たのに。
夕方になり、貰った鞄を開けた。
中にはレーションの入った箱の他にメモと鎮痛剤が入っていた。
“今日は本当に有り難う。
君たちを助けるために派遣された僕らが、まさか君の様な少女に救われるとは思ってもいませんせんでした。
狩猟の経験がある。との事ですが、本当ですか?
僕には信じられませんが、腕は超一流です。正直負けました(笑)
ただ、銃の構え方には少々無理があったようなので、もしかしたら後々肩が痛むのではないかと思い、市販の鎮痛剤を入れておきましたので痛みが出る場合は使ってください。
とてもお礼がしたかったのですが、お急ぎとの事なので官給品で申し訳ありませんが、レーションを旅のどこかで食べて下さい。(クラッカーは美味しいですよ)
正直、アメリカ軍のレーションは貴方には辛いかも……。
近くを立ち寄った際には、是非お立ち寄りください。あらためてお礼したいです。
それでは、無事旅の目的地に到着する事をお祈りします。
アメリカ海兵隊 トーマス・オビロン3等軍曹“
自分も怪我をしていると言うのに、呑気なものね。
もらった袋の中からレーションの袋を取り出して開けると、美味しそうな物は殆どレトルトのパック。
レトルトパックごと温めるパックがあり、スプーンもフォークもマドラーもあるけれど、肝心のお皿やコップがない。
これをいったいどうやって食べるの?
とりあえずレーションは元に戻して、事件のせいで食べていなかったパンを食べたあとオビロン軍曹が入れてくれた鎮痛剤を飲んだ。
こんな所で野宿するなんて思っても居なかったが、一応そうなる事も考えて持って来たレスキューシートに包まる。
“旅の初日から野宿か……それにしても、あの人、格好良かったな”
目を閉じると負傷しながらも、楯も無いキャビンに上半身を晒して勇敢にM240を撃ちまくるオビロン軍曹の姿が浮かぶ。
鎮痛剤が利いたのか、初めての戦闘経験からか、それから直ぐに眠ってしまった。
翌朝目が覚めると、肩の痛みも癒え、熱も冷めていた。
朝食代わりにオビロン軍曹お薦めのクラッカーを食べてみる。
「美味しい♬」
軽く塩味が利いて、思わず声に出てしまうほど美味しい。
更に、ついていたピーナツバターも甘さ控えめでGood!
元気の出た私は早朝直ぐに、バイクを走らせた。
車の少ない11号線を通ってヨルダンを目指す。