【行く手を阻むザリバン兵(Zullivan soldiers blocking the way)】
陸路でイスラエルを目指すことを伝えた数日後に、ヨルダンの首都アンマンで後見人になってくれる人が見つかったので、その人に合ってイスラエルに入国するように言われ従う事にした。
どんな人かは分からないが、悪い人でないことだけは祈りたい。
貰った書類の一部は複製して偽造した。
何故なら小学生のままでは幾らお金があったとしても、何もできないから。
偽造したのは年齢で、全てオートバイの運転免許証に合わせた。
飛行機で直接イスラエルに入る事も出来たが、私は陸路を選んだ。
理由は簡単。
初めて自分で作ったオートバイと別れたくなかったから。
これから先も、このオートバイは私の力となってくれるだろう。
旅にあたってオートバイに簡単な改造を加えた。
それはフロントとリアのサスペンションの強化と、燃料タンクの増量。
サスペンションは一回り大きなオートバイの物を流用し、それに伴いタイヤの径もそれに合う物にして、この改造で不整地走行性能が向上した。
燃料タンクの増量は、単にサブタンクを取り付けただけのものだが、これにより無給油での最大航続距離が500kmまで伸びた。
あと一つ、簡単な事だけど燃料タンクからキャブレターまでの間にフィルターを追加した。
これは燃料の品質対策。
産油国でありながら、後進国であるイラクは都市部から離れれば離れる程、燃料は粗悪になる。
これは給油所の管理の問題が大きい。
万が一キャブレターに砂でも入ったら、その場で分解清掃をしなくてはならないが、砂漠のど真ん中であれば、それさえ叶わない。
これらの改造によりインターセプターだったオートバイは、クルーザーになり快適な旅が約束されるはずだった。
バクダッドを出て3時間、前に訪れたラマーディーの街に入る事が出来た。
道の向こうに、私の才能を断った学校が見える。
恨みはない。
むしろ感謝しているくらいだ。
このおかげで私は新たな一歩を踏み出す事が出来た。
もしこの学校が私を受け入れていたなら、私は小学校の時と何ら変わりない時間を過ごしてしまった事だろう。
ラマーディーの街を出て1時間、それまで順調だった私の旅を妨害する者が現われた。
道路の先に立ち上る黒い煙。
立ち止まるデザートイエローの車両。
反政府軍事組織ザリバンによる攻撃だ。
銃声が響く中、自分自身に、行くか戻るかの選択肢を迫る。
一旦ラマーディーの街に戻って時間を置いてまた来るか。
ただし時間を置いても、この戦闘が終わらない限り、前には進めない。
明日まで待っても、また行く先で新たな戦闘があれば、また旅は止まる事になる。
待っていても進める保証はどこにもなく、邪魔者を排除するしか進む手立てはないのだ。
戦闘の方向を確かめて、両者の間に入らないように道から外れて前に進む。
アメリカ軍のハンヴィー2台のうち1台が仕掛け爆弾によって大破していて、負傷者5人が無傷な車の後方の道路脇に寝そべっていた。
黒煙を上げているのはキャビン上部に設置されたM2重機関銃座を防御装甲で囲った新型のM1151タイプだが、手前の車両はルーフにM240汎用機関銃を取り付けただけの旧タイプ。
機銃手は防御装甲板のないルーフ上面に上半身を晒し、勇猛果敢に応戦しているが、敵の的になっていて既に負傷している。
あとの2人は車の陰に隠れてM16で応戦していた。
1台の車両に全員集まっている状況ではRPG1発で全滅してしまう。
アメリカ兵が全滅すれば、ザリバン兵は戦果確認と略奪のためにここに来る。
そこへアメリカの応援部隊が来れば、更に戦闘は続く。
最短時間で戦闘を終わらせる条件は、アメリカ軍が勝つしかないが、M240の射手が倒されればその見込みは無くなるだろう。
用心しながら手前のハンヴィーに近付く。
「危ないからあっち行け!」と声に出せずに手首だけを揺らす負傷兵。
相当なダメージを受けているようだ。
道端に負傷兵が落としたM16が転がっていた。
銃は撃ったことは無いが、構造と手順だけは知っていたので、迷わずそれを手にして燃える車の陰に隠れた。
手に取ったM16にはスコープが付いていたので、覗いてザリバン兵の様子を見る。
ザリバン兵は5人。
装備はカラシニコフ(AK-47)
距離は約300mというところか?
“なるほど膠着状態になるわけだ”
コッキングレバーを引き、セレクターレバーをSEMI(単射)に合わせる。
スコープの調整が合っているとは思えないので、着弾点が視認しやすい場所に合わせて1発撃ってみる。
肩に凄い反動が来て、痛みが走る。
兵士たちは、こんなものを撃ち続けていて病気にならないのか?
とりあえず着弾点がずれていたのでスコープに付いている2つのダイヤルを回して上下・左右のゼロインを調整する。
2発目の発射。
サイトでは額を狙ったはずなのに、当たったのは敵の右肩。
もう1度調整し3発目を発射。
今度は額のやや下で、頬をかすめた。
更に調整をして4発目を発射。
ようやく狙い通り、ザリバン兵の額を撃ち抜くことに成功した。
人の命を奪っていると言うのに、この高揚感は一体なんだ?
5発目を撃とうとトリガーを引くが、何の反応も無い。
“何故?”
マガジンリリースボタンを押すと、カランと軽い音を立てて弾倉が転がった。
“無料お試し期間が終了したと言う事か”
諦めていた時に「Hey」と言う声が聞こえたかと思う間もなく手元に新しい弾倉が投げられた。
“ボーナスポイントをゲットした”




