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【シェヘラザード(Scheherazade)】

 サラに止められるままベッドに座っていた。

 恋人同士なら、このまま僕も横になりサラを抱きしめればいい。

 でも僕たちは恋人同士ではない。

 年齢だって10歳も離れているし、僕がサラと出会ったのは彼女が小学校を卒業したばかりの時だ。

 今だってサラは未だ17歳。

 もう直ぐ18歳になるが、僕は彼女を見守ることだけしかできない。


 どんなに私が誘ったとしても決してメェナードさんは手を出さない。

 もちろん私が女としての魅力がないわけではなく、彼が不能なわけでもない。

 メェナードさんにとって、私は大切な子供なのだ。

 言ってみれば保護者。

 そして私にとっても、メェナードさんはお兄さんでもあり親代わりでもある。

 おそらく様々な困難に当たっても、私が情緒不安定にならないで常にベストを尽くすことが出来ているのは、メェナードさんが家族としての立ち位置を崩さないから。

 もしこの関係が恋人同士だったとしたら、私はメェナードさんのことが気になって仕方なく電話やメールをしまくって仕事どころではなかっただろう。


「ねえ、2人きりになれる最後の夜だから、一緒に寝たいの」

 私は思いっきり甘えた声でメェナードさんに打ち明けた。

「じゃあ、寝る前に歯磨きをしておこうか」

「まあっ、ムードがないのね」

「嫌?」

「嫌じゃないよ。毎日の歯磨きは、とても大切よ」

 2人で先を争うようにドレスルームに走る。

 ホテル備え付けのものではなく、お互いが持って来た洗面用具入れから普段から使っている歯ブラシに歯磨きを付けて、鏡の前で肩を並べて歯を磨く。

 なるほど、こうして肩を並べていると、まさに大人と子供。

 決して私が子供のように背が低いわけではなく、190㎝近くあるメェナードさんが高すぎるのだ。(ちなみに私は167㎝あってイギリス人の成人女性の平均より3.5㎝高い)

 歯磨きは早い者勝ちではないからこれで終了と言う所で、お互いにイーとアーンをし合って綺麗に磨けているかチェックした。

 結果は、どちらとも申し分なく綺麗に磨けていて、お互いが勝利した。

 次は交代でドレスルームを使ってパジャマに着替え、いざメェナードさんのベッドに突入‼

 先に着替え終わっていたメェナードさんは両腕を枕の上に組んで、その上に頭を乗せていたので私はガラ空きになっていたメェナードさんの肩の上に自分の頭を乗せた。

 寝転んでいてもメェナードさんの顔は私より高い。

 しかも枕にしている肩の筋肉も凄くて、そこから繋がっている腕なんて優に私の首よりも太い。

 服を脱ぐとマッチョなのに、そんなことを少しも感じさせないし、格闘技も凄く強いのに全然好戦的な態度を取らない。

 誰から見ても、のんびり屋さんのメェナードさん。

 それが可笑しくて、嬉しくて、そしてそれが私の自慢。

「ねえ、いつから好きだった?」

「初めて会った時から」

「嘘!」

「いや、ホントだよ。大人の僕が質問攻めにするのを、普通の子供なら抵抗も出来ずに答えるか黙ってしまうか嘘を言うかする。でも君は、僕を咎めた」

「生意気だからね」

「そんなことは無い。サラが思いやりのある好い子だと言う事は、イスラム教徒が多く居たあのホテルで僕の握手を拒んだ所を見て、すでに知っていたよ」

「なのに、私を陥れようとしてヨルダンの観光地を紹介したくせに」

「あー……実を言うとあの時はまだ只の一目ぼれで、その場限りでも構わないと思っていたんだ」

「まあ、失礼ね。じゃあ、手放したくないほど好きになったのは?」

「待ち合わせの博物館で、正装して現れた君を見たとき。そしてそのあとで君の話を聞いたとき」

「あら、編み込みのヘアスタイルのほうが好きなの?」

「そういう訳じゃないけれど、とても素敵だったよ」

「以外に、コロッと落ちちゃったのね」

「落ちたんじゃない、上せちゃったんだよ」

「上手い! 座布団2枚」

「なにそれ?」

「知らないの? 笑点。 日本の人気長寿番組よ」

「なんでも知っているんだな、サラは」

「知っているでしょう? 好奇心旺盛なの」

「それは知っているけれど、たくましいなぁ」

「私ね、人が知っていることを自分が知らないのは基本的に嫌なの。 だからメェナードさんの撒いた餌に食いついて、ローランドともセックスをしたわ」

「しって、いたのか……」

「当然! でもさすがメェナードさんの選んだ人だけあって、わたし直ぐに好きになっちゃったわ。そして“この人となら”って将来のことも考えたのよ」

「すまない」

「すまないじゃ、すまないわ。 もし、あのまま結婚していたら、私たち夫婦は破局よ」

「どうして?」

「だって、わたし直ぐにメェナードさんの元に帰っちゃうから。気付いたローランドに射殺されちゃうわよきっと」

「まさか……」


 僕たちはお互いが眠くなるまで、ずっとベッドで肩を並べて話していた。


 そう。


 私たちはお互いに『千夜一夜物語』のシェヘラザードになったように、この暗い夜が明けるまで。

無事第1部を終了することが出来ました。

ありがとうございます。

一旦終了という形を取らせていただき、主人公を替えて本日午後から第2部を開始いたしますので、引き続き読んで下されば幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  第1部完結、おめでとうございます❗❗ヾ(≧∀≦*)ノ〃  この二人、いつか結ばれる事があるのでしょうか。  とっても愛し合っているけど、思いやりが深すぎて発展して行けないですね。  今のサ…
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