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【亡命と言う手段(Meaning of asylum)】

 敗戦後、朝鮮戦争の特需もあり日本の経済は急激な回復を見せ、史上空前の好景気を迎える。

 新しい日本は以前の様に産業で得た資金を軍事力に消費するのではなく、工作機械の国産化や新しい技術の開発につぎ込むことで長く景気を維持する事に成功する。

 その頂点がバブルと呼ばれる史上最大の好景気。

 1ドル200円台だった為替レートは僅か数年で半分の100円台になり、国にはお金が溢れ、企業は海外の土地や企業だけでは飽き足らず有名な絵画まで買い漁った。

 この様にして、日本が海外に投資(ばら撒いた)資金のおかげで、産業が停滞していた各国では失った土地や企業と引き換えに得た資金を技術開発に向ける事が出来、更にEU(

欧州連合=加盟国の法制度の標準化と自由な人、物、サービス及び資本の移動と、経済的な目標などを共通する事で、加盟国全体の経済的基盤を確保する事をする)が発足し、資金を消費してしまった日本の産業は急激に衰退していき現在に至る。

 結局お金を幾ら沢山稼いでも、それに目が眩んで浪費したり過去の失敗から臆病になって内部留保してしまったりする人間が居たのでは経済・文化共に発展はしない。

 革新的技術を生み出せる極少数の天才と、それに付いて行くことのできる新たな天才たちだけがそれらを実現する事が出来るのは、過去の歴史が何度も物語っている事実。

 もう、この国には未来はない。

 たかが中学受験に失敗しただけのこと。

 それも在学中の小学校による意地悪な行為。

 それを真に受けて、優秀な生徒の受け入れを棒に振る学校。

 小さな問題に過ぎなかったが、根底にはこの国全体の意思があると感じた私はこの時にイラクを見限った。

 遥か数億年もの昔、この土地がまだ肥沃だった頃に埋没した化石燃料。

 その遺物に頼り利権を当てに、消費するだけの文化。

 いずれ掘りつくしてしまった後はどうするつもりなのだろう?

 石油に代わるエネルギーの開発に成功された後、どうなるのだろう?

 石油の価値が無くなった後に残されるのは、一面に広がる砂漠だけの世界で、どう暮らして行けると言うのだろう?

 中学への進学に失敗した事は、私にとって必ずしも悪いことではないと思う。

 何故なら、この国を捨てる決心が出来たと言うことだから。


 小学校の卒業を待たずに、私は孤児院を出てイスラエルを目指した。

 バクダッドからイスラエルの首都エルサレムまでは直線で870kmもある。

 とても1日で辿り着くことはできないばかりか、国境も接していなくてシリアかヨルダンを経由して入る必要がある。

 シリアへは難民として入るのは容易だが、イスラエルとは敵対しているので、ここからイスラエルに入るのは難しい。

 ヨルダンならイスラエルと平和条約を締結しているので左程問題はなさそうだ。

 武器を売りさばいて得た金には殆ど手を付けていないから、資金面での問題はない。

 安いアパートを借りる事が出来れば、1年くらいは働かなくても何とかなる。

 問題は入国審査だが、これも手は打ってある。

 イラクからの脱出を決意したその日から、私はバクダッドにあるイギリス大使館に通い詰めた。

 目的はイギリス国籍の取得。

 元々、偽名ではあるが本物のイギリスで発行されたパスポートは持っていた。

 だが偽名であるが故、身元費請け人が見つからない故に、イラクの孤児院に引き取られたまま放っておかれている。

 いくら賢いと言ってもまだ幼くて世間の仕組みを知らない私にとって、これを覆す手段は持ち合わせていなかったが、今は違う。

 手段を持ち合わせていなければ、その手段を持っている人を動かせばいいだけのこと。

 なにも自分1人で全ての事に対処する必要はない。

 そのために、それをする人が雇われているのだから。

 雇われている者には仕事を与えてやらなければ只の給料泥棒に過ぎないから、私はイギリス大使館に赴いて、そこの職員に仕事をさせてやることにした。

 最初は当然のように相手にもされなかったが、通い詰めている間にホンの少しずつではあるが、向こうも前向きに考えるようになった。

 と言うより、面倒になり早く追っ払いたいと言うのが本音だろう。

 とりあえず、私には何の非も無い事は確か。

 両親が無くなった時、私はまだ4歳で、偽名を使ってイラクに入っていたことに何の関与もしていない。

 イギリスの住所にしても、登記簿を見たわけでもなく親から教えられていた住所を記憶していただけのこと。

 私が孤児院に放り込まれた事についても、非があるのは身元調査が出来ずにいたイギリス政府であり、今日こんにちに至ったのはこれまで問題を放置していたイギリス大使館。

 私が出る所に出れば、イギリス本国のみならず、各国の児童養護団体が「サラちゃんを本国に返してあげて!」と書いたプラカードを持ち歩いてデモを行うことだろう。

 だが、私はイギリスに行くことはしない。

 イギリス政府だって忘れていた訳では無いはず。

 帰れないのには、帰れないだけの理由が在るはずなのだ。

 それが何かは分からないが、壁は大きそうだ。

 だから私は亡命を提案した。

 一旦正式なイギリス人国籍を取得した後、イスラエルに対して亡命の手続きをさせる。

 そうすればイギリスの抱えている“厄介な問題”も解放される。

 大使館員は、私の提案に飛びついた。

 彼の抱える厄介な問題は、その持ち主からの提案をのむことで、永久に解放されるのだから当然と言えば当然。

 こうして私が舵を切った方向に周りの人間が動き、私の手元にはヨルダンへ経由でのイスラエルへの入国許可証と私専用のキャッシュカードまで持つことが出来、更にそのキャッシュカードには旅費と当面の生活費迄振り込まれていた。

 私は事件後に政府によって抑えられている両親の資産の返却を求めた。

 正当な事。

 私の主張に大使館も折れ、クレジットカードに大金を振り込んでくれたが、おそらくこのお金は両親の口座に入っていたもののホンの一部に違いない。

 つまり、元々私が相続するはずだったお金。

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