【100万ドルの夜景と線香花火①(Million dollar night view and Sparkler)】
結局僕たちはこの日、広島から新幹線に乗り神戸に行き異人館とハーブ園を楽しんで、そのまま神戸市街の夜景を一望できる六甲山にあるホテルに泊まった。
六甲山から見る神戸の夜景は、100万ドルの夜景と言われているだけあってとても美しい。
美し過ぎる故に、失いたくない気持ちになり、僕の心をしんみりさせる。
「いよいよ明日が最終日ね」
「京都、行かなくて良かったの?」
「本当は楽しみにしていたんだけど、やはりどこの旅行者でも使いやすいチャンとした交通システムが出来てからでいいわ。だって、それが“おもてなし”でしょう?」
「そうだね」
レストランで神戸牛のフルコースを食べながら話をする。
「明日は、どうする? 大阪を見て回る?」
「うーん。最終日だから、のんびりする。ここでお昼過ぎまでバーベキューをして、それから羽田に移動しても充分間に合う?」
「うん。22時5分羽田発だから、それでも充分間に合うよ。でも、それでいいの? もっと見たいところとかないの?」
「ないわ。どこかを見て回るよりも、私はメエナードさんと一緒に居る時間が欲しいの。それに言わなかったけれどバーベキューだってメエナードさんは今まで飽きるほど経験してきたかもしれないけれど、私にとってバーベキューはオビロン軍曹たちと2回だけなのよ」
折角日本に来たというのに、僕と一緒に居る時間がもっと欲しいなんて言って貰えて本当に驚いて、何と言葉を返したらいいか分からなくなってしまった。
これは屹度重大な告白に違いない。
態度を保留せず、真摯に向き合わなければ……。
返す言葉を考える。
“ありがとう。君にそう言って貰えて光栄だ”
これはかなりキザっぽくて、だいいち僕のキャラクターに似合わない。
“僕も、同じ気持ちだよサラ……”
いやいや、これでは余りにも軽薄過ぎて、資質を疑われてしまう。
“……”
駄目だ!
頭が真っ白になってしまって、何も言葉が浮かばない‼
「日本のお肉って、本当に柔らかくてジューシーで美味しいね」
“えっ!?”
ひょっとして、僕の回答が待ちきれなくて話題を替えられた??
「そ、そうだね。これは明治維新後から肉を食べるようになった日本人が、どうしたら牛肉をもっと美味しく食べることが出来るか研究した結果、生み出されたものだね」
「和牛のDNAは中国やアメリカも狙っているものね」
「でも、同じような肉は未だに作れていない」
「なにが足りないと思う?」
「愛情だろうな」
「具体的には?」
「例えばアメリカでは与える餌を同じにしても、基本放牧だから個体の面倒は見ない。中国でもそれは同じことで、彼らは牛を物としてしか見ていない。ところが日本では1頭1頭の牛にチャンと名前を付けて、家族のように育てるから、その安心感が体全体をリラックスさせて肉を柔らかい物にする効果があるんだろうね」
「確かにそうね。特に中国や朝鮮半島の人は、犬を虐待して殺せばアドレナリンが出て美味しくなるなんてことを本気で考えている人たちだから、飼育する動物に対して思いやりの欠片もないものね」
「まあ、それが全員ではないと思うけれど」
「そもそも、犬を食べると言う発想自体が狂っていると思わない?」
「まあ、他に食べる肉が無いのであれば話は別だけど、そこまで困窮していないようだしね」
「あー……それにしても、私の妹は、今どこで何をしているのだろう?」
折角牛肉の話に変わって安心していたところに、また厄介な話題を振られてしまった。
「元気で生きているさ」
「ねえねえ、メエナードさん! 私の妹、ナトーって、どんな子だと思う?」
「そりゃあサラに似て賢い子だろうね」
サラの恋人や友人を狙撃して殺害したグリムリーパーの疑いが濃厚なため内緒にしているけれど、実際に赤十字難民キャンプでのナトーの評判では誰もがとても働き者で驚くほど物覚えのいい賢い子だと言う評判だ。
「どんな食べ物が好きだと思う?」
「さあ、姉妹だから同じじゃないのか」
「私は違うと思うの、屹度ナトーは菜食主義者よ」
「なぜ、そう思うの?」
「だって、ナトーはね、すっごく優しいの。しかも真面目で賢いから、むやみに人や動物を傷つけることは絶対にしないの。だから大豆とかミルクとかお魚で、たんぱく質を補えることを知って、お肉は食べないの」
「おいおい、魚を食べていたんじゃ菜食主義とは言わないんじゃないのかい」
「いいのよ、お魚は。だってサプリメントで栄養を補わない完全な菜食主義なんていないでしょう。人間はその構造上ヤギさんのような食生活はできないのよ」
確かにまだ13歳のナトーでは菜食主義になるには無理がある。
まだ発達中の脳や骨に必要なたんぱく質やカルシウムなどの栄養素が野菜だけでは補えない。
「ねえねえ、外見的にはどんな子だと思う? ひょとして私より美人だと思う??」
「それは人の好みにもよるけれど、一般的に良く言われるのは初めての子は親の好い所を持って生まれるっていうから……」
「あら、でも女の子の場合、絶対に妹の方が可愛いと思うわ」
「なるほど、妹の方が愛嬌があるから可愛く見える場合が多いのは確かだね」
「や~だメェナードさん。浮気しちゃ駄目よ‼」
「浮気なんて……」
関西と言う雰囲気がそうさせるのか、今夜のサラはまるでドンドン僕に向けて直球を投げ込んでくる。
それが愉快でもあり、僕を戸惑わせる原因でもあるが、後者はサラに悟られないようにしなければならない。




