【行き違い④(misunderstanding)】
狸寝入りをしていた手前、メェナードさんが寝付くまでシャワーを我慢する羽目になった。
午前2時にようやくシャワー室に入ると、そこはまだ誰も使っていなかったように綺麗なまま。
あとで入る私の為にメエナードさんが綺麗に掃除しておいてくれたのだ。
そういうところが、たまらなく好き。
だから私もシャワーを浴びたあと、同じように掃除して綺麗にして出た。
そして……。
夜中の2時、サラがベッドから起き上がる音で目が覚めホッとする。
そのまま朝まで眠っていてもいいが、汚れた体のままでは疲れが残ってしまうだろう。
僕はそのまままた眠った。
ところが、しばらくして目が覚める事態が発生する。
暖かくて柔らかくスベスベした肌の感覚がシャワールームに背を向け、横になって寝ていた僕の背中に感じる。
ところどころに、ぷにぷにとした感触も。
おそらく寝ぼけているサラがベッドを間違えてしまったのだろう……でも、どうする?
ベッドを間違えていることを注意して自分のベッドに戻ってもらう?
でも、これでは余り愛情がある対応とは言えない。
じゃあ、僕も寝返りをうって向きを変え、サラのぷにぷにを楽しんでしまう?
これはゲス野郎だな。
サラを起こして、ぷにぷにを楽しむ?
ダメダメ!
だいいちサラは間違えて僕のベッドに潜り込んできたのだから、どちらにしてもサラを驚かせてしまうことになる。
サラがスッカリ寝入るのを待ってから、自分のベッドに運ぶのはどうだろう?
いやいやそれでは裸のサラを抱っこすることになるし、もし途中でサラが起きたときに襲われると思われて暴れだすか、それとも子ども扱いされたと悲しい気持ちにさせてしまう。
密着するサラのバストは、サイズ的には標準サイズよりホンの少し控え目だけど、ウエストもヒップも細いモデル体型のサラの場合はメリハリのあるアクセントになっている。
でも本当に細い割には、柔らかいな……いや、こんなことを考えるのは不謹慎。
では、どうする……‼
いろいろと考えているうちに、サラが僕のことを抱き枕と勘違いしたのか腕と脚を絡めてきた。
これはマズイ!
もう、僕に余裕はなくなってしまった。
“色即是空~‼”
これは煩悩を追い払う日本のおまじない。
もう、これにすがるしかない。
シャワーを浴び終わり、浴槽や床を綺麗にして、髪を乾かして部屋に戻った。
真っ暗だから平気だけれど、シャワー室に着替えを持って行くのを何故か忘れてしまっていたから、帰り道は真っ裸。
どうせメエナードさんは眠っているし、着替えの入った鞄もベッドサイドに置いているから何の問題もない。
……っと、メエナードさんばかり見ていて、うっかり自分のベッドを通り越してしまった。
通り越したと言っても、別に手前からベッドに入るか奥から入るかだけの違いだから何の問題もない。
けれども、こういったケアレスミスとは縁のなかった私が犯してしまったミスが少し癪に障る。
いや、ひょっとしたらこれは神様のお導きなのかも。
私は裸のままメエナードさんのベッドに入り、体を寄せた。
ローランドは、甘える私に気が付いて体の向きを変えて私を抱いてくれた。
メエナードさんは、どうなのかな……って、なんの反応もない!?
腕と脚を絡めて挑発してみたけれど、それでも何の反応もない。
疲れているのかな。
絡めていた腕と脚をもとに戻し、密着状態も解いた。
少し離れてみると、メエナードさんの背中の筋肉ってローランドと比較しても遜色がないばかりか、もう少し逞しい気もする。
いつも優しくて暴力的な姿は私の前では一切見せないから気にもしていなかったけれど、POCの一員としての私の立場を大きく変えたイスラエルの砂漠で行った“コッド・アロー”の公開試射実験のときに、邪魔を企てようとしてライバル会社に雇われた兵士たちから私を救ってくれたのもメエナードさん。
しかもあのときは、私の格闘能力を確かめながら、私に全く気付かれないように敵を倒してくれた。
決して好戦的ではないけれど、闘いになると相当に強い。
痩せポチだけど脱いだら結構凄い私と、よく似ている。
なぁ~んてバカみたいなことを一人で考えて可笑しくなる。
今夜の私はドラキュラよ!
悪いことだと思いつつ、メエナードさんの広い背中にキスマークを付けて自分のベッドに戻り、寝間着を着て眠った。
おまじないの甲斐もあって、サラが僕の体から離れてくれて安心しかけたときに、まるで吸血鬼のように思いっきり背中にキッスをされて焦った。
こんなにも僕のことを思ってくれているのなら……と、体の向きを変えようかという思いも一瞬頭を過ったが直ぐに諦めた。
それは、この日本旅行の目的。
僕は、ある決断をしなくてはならなくて、それはサラを裏切ってしまうことになるのだから。




