【行き違い①(misunderstanding)】
お好み焼きを食べたあとは、スポーツバーに行き野球観戦を楽しんだ。
「シンシナティ・レッズ対ロサンゼルス・ドジャースよ‼」
「違うよ、広島カープ対中日ドラゴンズだよ!」
「キャー!ホームランよ‼」
「今のは、ファールだよ!」
「セーフ‼」
「アウトだよ!」
「メㇸナーロさん詳しいね」
「ま、まあアメリカ人だし・・・・・・」
こんなに酔っぱらってしまったサラを見るのは初めてだ。
口では平気なように2つの爆弾で20万人以上が死んだことを話していたが、広島と長崎の市民がたった一瞬の爆発で何十万人が死に向き合わなければならないと言う“招待状”を渡されたと思うと居たたまれなかったのだろう。
しかも直近の放射能障害から逃れた人たちにも、癌や白血病のリスクは非常に高くなり、後遺症や癌により多くの人々が寿命を全うすることなく死んでいった。
知識としては知っていても、こうしてその現場を訪れると言うことは心に重く圧し掛かるものがある。
やはり長崎と広島への訪問は止めるべきだったのかも知れない。
いつも強いと思っていたサラも、本当は普通の女の子たちと何も変わりはなく、他の子と比べて少しだけ冷静に物事を見ることが出来るだけなんだと思った。
前から気が付いていたけれど、こうして目の当たりにしてみると、それが堪らなく嬉しくて切ないほど悲しい。
僕の心は、ある決断に向かわなければならないことは避けられない。
それが胸を切り裂かれるように、辛い。
結局、はしゃぎ過ぎて酔いつぶれてしまったサラをおんぶしてホテルに戻る事になった。
首筋を伝う一滴の液体に空を見上げる。
夜空には幾つもの星が煌めいていた。
僕の汗なのだろうかと思い、額に手を当てるが、汗など書いてはいない。
だったら、この液体は、涙!?
顔を後ろに向けようとするが、人間の首は鳥のように真後ろを正対できるようにはなっていないからサラの顔を見ることは出来ない。
灯りの消えた店舗のガラス窓に、映る僕とサラ。
近付いてサラの涙を確認しようと思って止めた。
サラを大切に思うなら、彼女に内緒でこの涙を盗み見てはいけない。
タクシーも拾わずに、ホテルまでサラをおぶって帰った。
ホテルの予約はサラがしていて、彼女は何故か部屋を分けようとしない。
今日の部屋もツインベッドの部屋。
おんぶしていたサラをベッドに寝かせ、ホテルに着いたことを知らせる。
けれども彼女は起きる気配もない。
さて、困った。
日本の夏は湿度が高くて汗が大量に出る。
シャワーを浴びさせてあげたいけれど寝ているのではどうしようもないし、そのまま寝かせるにしても服のままベッドに転がして放っておくわけにもいかない。
かと言って、子供のようにグッスリ眠っているのを無理やり起こすのも気が引ける。
とりあえず靴は脱がせた。
問題は、その先。
部屋の照明を消して服を脱がせるか……。
いや、それではサラが目覚めたときに勘違いされてしまう可能性が有る。
明るいままのほうが、まだマシだけど、それはそれで問題もある。
では、どうする?
サラの裸を見ないで服を脱がす方法。
これはもう僕が目隠しをする以外手がない。
だけど、その場合脱がすのが困難になるし、微妙なところを触ってしまう可能性もある。
“集中しろ!”
そうだ、集中して今の状況を記憶するのだ。
ボタンの位置やファスナーの位置を完璧に把握しておけば、不慮の事態を避けられるはず。
サラは僕にとって大切な存在。
決して疚しい気持ちはない。
先ずは今のサラの状況をキチンと把握するのだ。
今日のサラの服装は黒の超ショート丈のジャケットに、ホワイトグレーのスカート。
問題はジャケットの下に着ているのがTシャツかタンクトップのようなものなのか、それとも下着一体タイプのキャミソールタイプの物なのかと言うこと。
……まあ、これは一応下着と言うことで処理して、手を出さない方が無難だろう。
僕は黒のネクタイを目隠し代わりにして、ベッドの上に寝かせたサラの服を脱がすことにした。
上から脱がすか、下から脱がすか?
とりあえず脱がせやすいスカートから。
あっ、そう言えばこのスカートのウエストに付いている紐のようなベルトは只の飾りなのだろうか?
それにフロントに4つ並んだボタンを外して脱がせるタイプなのか、それとも後ろにファスナーが付いているタイプなのか……。
目隠しを外して、もう一度確認する。
腰の紐もフロントのボタンも只の飾りで、後ろにファスナーが付いていることが分かり、もう一度目隠しをした。
サラの事を見守っているはずなのに、全然なっていない自分にガッカリする。
今日一日ズーッと一緒に居たはずなのに、僕はサラの何を見ていたのだろう……。
腰の下に手を潜らせてファスナーを下げて片方の手で腰を持ち上げつつ、もう片方の手でゆっくりとスカートを下げてゆく。
あとは体を足のほうにずらして、一応スカートを脱がす事には成功した。
しかしここで問題が発生した。
安易に脱がせやすいからという理由で、スカートから脱がせたのは良いが、これにより僕の体は大きくベッドの足元の方に移動してしまった。
これではせっかく記憶したはずのジャケットの正確な位置が台無し。
“目隠しを外して、もう一度正確な位置を確認するか!?”
いや、それでは目隠しをしている意味がない。
もうサラの下半身は下着1枚になっている。
僕はベッドサイドのシーツを手でなぞりながら、サラの上半身へと移動した。
途中でサラの指に手が当たった時に軽く握られてドキッとしたが、僕がもう片方の手で指を解こうとするとサラの指はそれに従ってくれてホッとした。
サラの腕沿いに肩まで移動して、そこから襟伝いに胸の下に付いているリボンの付いている止め紐を探ると、持ち上がったタンクトップかキャミソールかの膨らみに触れてしまいドキッとした。
サラは華奢で胸も左程大きくないので安心していたが、それでもこのルートを辿ったのは迂闊だった。
袖からジャケットの裾を辿れば良かった……。
しばらく手を止めて様子を窺うが、何の反応もない。
ゆっくりとリボンの紐を外し、ジャケットの胸を開く。
“んーっと……ここから、どうやって脱がす?? しまった! 俯きに寝かせた方が脱がし易かったんだ‼”
今更気が付いても、もう遅い。